「中国が米国に何をしているかを見よ。(中国が)通貨切下げをしても、米政府には戦う人がない。彼らは米国を中国再建のための豚の貯金箱として使っている」
9月26日、第1回テレビ討論でドナルド・トランプ米大統領当選者は、中国に対する敵対的な態度を隠さなかった。選挙中繰り返し貿易不均衡などを取り上げ、「中国バッシング」に熱中してきたトランプは「懲罰的関税45%」に象徴される対中国圧迫策も提示した。
米国が本当に中国の商品に45%の関税を課せばどうなるだろうか。サウスチャイナ・モーニングポストは専門家の言葉を引用し、中国の対米輸出の87%に該当する年間4200億ドル(約45兆円)分が減り、中国国内総生産(GDP)の4.82%が減ると見込んだ。中国の最大輸出市場である米国は、輸出全体の18%程度を占める。中国経済にとって大きな痛手だ。中国が報復手段を持っていないわけではない。単一国家としては世界最大の中国市場で成功裏に事業を遂げてきたゼネラル・エレクトリック(GE)、ボーイング、アップルなどの米国企業は犠牲を強いられることもあり得る。
しかし、トランプが選挙の時に発した対中国の脅しをそのまま実行に移すかは不確かだ。「中国が雇用を奪っている」、「中国ばかりが儲けている」というトランプの扇動に歓呼した支持層が、中国産に新たに課す関税による国内物価の上昇を受け入れるかどうかも疑問だ。ウォール・ストリート・ジャーナルは、米中が「不確実性と緊張の時代」に直面したと指摘した。
トランプ当選者が貿易・通商以外の問題で中国を取り上げなかった点は、中国が歓迎する内容だ。中国がこれまでヒラリー・クリントン民主党候補よりはトランプを好んだという観測の理由でもある。クリントンは韓国・日本など同盟を前面に出し「アジアリバランス」を唱えるオバマ政権の政策を継承するように見えたが、トランプは同盟の「無賃乗車」を批判し米軍駐留費用の追加分担を要求する。中国が不満に思っているTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備、南シナ海問題などをトランプは「孤立主義」の脈絡で飛び越える可能性もある。
トランプは中国の人権問題にもほとんど無関心だ。1989年の天安門事件当時、中国当局の武力鎮圧に擁護的な発言をしたという履歴が問題になったトランプは、3月に共和党予備選挙でこれを説明する際にも、天安門事件を「暴動」と呼んだ。
しかし、トランプが孤立主義を選んだ時にアジアに生じる「力の空白」は中国にとっても悩みの種だ。在韓・在日米軍の縮小や撤退などでアジア諸国が自主的な武力増強に乗り出し、領域内の軍備競争が起る恐れもある。何よりも日本の核武装は、中国が最も警戒している部分だ。さらに、米中の貿易が核問題や南シナ海をめぐる衝突にも対話を維持していた重要な担保であったという点で、トランプの貿易政策が米中貿易戦争を触発すれば、地政学的な軋轢が前面に出てくる危険も高まる。
トランプ政権が地域問題に積極的に介入する可能性も排除できない。トランプ陣営の先任諮問役のアレクサンダー・グレーと諮問役のピーター・ナバローは「フォーリン・ポリシー」への寄稿で、オバマ政権の「アジアリバランス」戦略を「声ばかり大きく、本体は小さかった」とし、「力による平和」を取り上げた。ディプロマットは、トランプがこれらの忠告を受け中国を圧迫する可能性を一方の極端に、また、米国が経済的手段を動員して中国と「グランドバーゲン」に乗り出す可能性をもう一方の極端に置き、その間に多くの可能性が存在すると分析した。