登録 : 2016.03.26 18:29 修正 : 2016.03.27 07:47

安倍首相の謝罪表明が「12·28合意」の白紙化より重要

昨年9月の著書出版に合わせ対談する徐京植東京経済大教授(左)と、2013年8月にハンギョレのインタビューに応じる和田春樹東京大名誉教授=リュ・ウジョン記者、イ・ジョンア記者//ハンギョレ新聞社
ハンギョレは3月12日付土曜版20、21、22面を通じて、和田春樹東京大学名誉教授(78)に送る徐京植東京経済大教授(65)の挑発的な公開書簡を掲載した。和田教授が返信を送ってきた。和田教授は慰安婦問題解決に参加してきた人として責任を感じるとし、昨年の韓日外相の12・28合意の白紙撤回の主張は無責任だと批判する。二人の知識人の公開書簡の中に韓日現代史が色濃く滲んでいる。

和田春樹が提示する安倍首相の謝罪文

 慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。

 私は、日本国の内閣総理大臣として、改めて慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からのおわびと反省の気持ちを表明する。

 2015年12月28日    日本国内閣総理大臣  安倍 晋三 

 徐京植(ソギョンシク)氏が私あての公開書簡をこの春に東京で出る前田朗氏編の論文集に載せるという案内を見た時、私は別に驚かなかった。徐氏が私を批判していることはすでに承知していたからである。しかし、その私にあてた公開書簡をあらかじめ韓国語にして、ハンギョレの紙面で3面連続の大論文として発表したのを知人に知らされて、これは尋常なことではないと思うにいたった。しかも、この論文の最上段には、「初心はどこに行き、なぜ反動の流れに足をひたすのですか」という私に対する非難の問いかけが掲げられている。それで黙ってはおれない気持ちになったのである。

 1953年高校一年生のとき、久保田代表の発言に韓国代表が怒って、日韓会談が決裂した。そのとき、私は、日本の36年間の統治は「朝鮮を日本のドレイと化し、あらゆる富を、財をしぼりあげたものであった」、「朝鮮人に対してその母国語を話すことを禁ずるという行為にまで及んだ」のであるから、日本側が「昔のことは、すまなかったという気持」をもつかもたぬかが「日韓会談の基礎であり、根本である」と韓国側が言うのは正しいと考えた。それを初心というなら、私は今日までこの初心を忘れたことはない。その初心を捨てて、植民地支配を正当化する反動の流れに従ったことは一度もない。だから、「初心」云々の非難の問いかけは不当であり、不要である。

 そのことを一言述べた上で、徐京植氏のこの大論文に反論しようと思う。この論文の最後の3分の1は朴裕河(パクユハ)氏の著書『帝国の慰安婦』の問題にあてられているが、私はその点について、いま徐氏と議論する気持ちがない。だから、反論のため徐氏の論文の3分の2のスペースをあたえてくれるようにハンギョレ新聞にお願いして、承諾してもらった。

高1だった1953年の第3回日韓会談で
韓国代表の発言は正当と考える
もしそれが初心であるなら
一度も初心を忘れたことはない
初心に対する徐京植教授の質問は不当

尹炳世外交部長官(右)と岸田文雄外相が昨年12月28日午後、ソウルの外交部庁舎で従軍慰安婦問題と関連した共同記者会見を終え握手をしている=キムボンギュ先任記者//ハンギョレ新聞社

慰安婦問題を巡る第三ラウンドの最終局面

 徐京植氏はこの論文で、まず、このたびの慰安婦問題での日韓合意についての私の意見があいまいであると批判して、吉見義明氏の白紙撤回論を引用して、それに全的に同意する、和田もこれに同意して、直ちに合意撤回のために闘っている韓日の市民の側に立てと主張している。その意見に私は同意できない。

 吉見氏にせよ、徐氏にせよ、日韓合意を批判するのは問題ない。私も批判している。しかし、批判することと白紙撤回を主張することは別である。私たちが前にしているのは、金学順(キムハクスン)ハルモニの記者会見から25年がすぎて、日韓両政府が問題解決の最終の形として打ち出した両政府の合意なのである。このたび日韓合意を求めるにあたって、朴槿恵(パククネ)大統領は、50人を切った生存被害者ハルモニのことをくりかえし語った。解決合意の内容は第一にこの生存被害者ハルモニたちに向けられている。だから、運動家であれ、専門家であれ、日韓合意の白紙撤回を主張するなら、このたびの合意を受け入れる被害者ハルモニが出てきたとき、その行動を認めず、その人を非難することになるのである。

 慰安婦問題は、慰安婦被害者が慰安所で経験させられたことは堪えられないことであったと抗議し、日本国家を告発したことからはじまった。だから、日本政府が差し出す謝罪とそれにともなう措置について、受けるか、受けないかを決めるのは、名乗り出て、告発した被害当事者に権利がある。ここに来て、被害当事者全体の声を確認しないで、「白紙に戻してもう一度やり直さなければならない」と断定する権利が吉見義明氏にあるのだろうか。吉見氏は『世界』の論文で、「被害者たちが韓国社会で孤立した状態ならば、困るが、現在の韓国社会ではそうでないことは幸いである」と書いているが、これは安易にすぎる状況判断である。白紙撤回論への同調を私に求める徐京植氏はそれ以上に安易な判断に立っていると見える。

 このたびの日韓合意を検討するためには、この合意を導いた安倍首相と朴槿恵大統領の日韓協議が1990年以来の慰安婦問題解決のための努力の歴史においていかなる位置を占めているかを考えることが必要である。このたびの日韓協議は慰安婦問題をめぐる長い争いの第三ラウンドの最後の局面をなしている。

 第一ラウンドは1990年からはじまった。その年韓国女性団体が慰安婦問題6項目の要求を出した。日本政府は95年にいたり「アジア女性基金」の謝罪と償い(atonement, 贖罪sokje)の事業をはじめたが、韓国の被害者の多くと運動体、日本の運動体が反対し、受け取りを拒否した。その結果、アジア女性基金は韓国では60人に支給しただけに終わった。挺対協は1990年にかかげた6項目要求に責任者処罰などを加えた8項目要求で、法的責任をみとめる解決を主張し続けた。基金は2007年事業を終了し、解散した。

12月28日の合意、白紙撤回論は無理
その動力は日本国内にない
合意の改造・改善に向かうのが
今まで運動をしてきた人たちの責任
安倍首相の謝罪表明を引き出すのが重要

長く厳しかった苦難の兆戦を知っておられるのか

 第二ラウンドは2009年日本で政権交代がおこったときにはじまった。日本の運動体が「日本軍『慰安婦』問題解決のための全国行動2010」を組織して、民主党政府に立法解決をもとめる運動を開始した。しかし、政権についた民主党はこの要望に応じず、立法解決の道が閉ざされた。このとき、2011年韓国憲法裁判所が慰安婦問題での韓国政府の不作為を憲法違反だと判決したことは、「天の助け」となった。同年12月挺対協の水曜デモは1000回に達し、日本大使館前に少女像が設置された。その数日後の日韓首脳会談で李明博大統領は野田首相に慰安婦問題の解決をもとめて強硬な申し入れを行った。これをみて、日本の運動団体、「全国行動2010」は、2012年2月に花房俊雄共同代表の名で、政府間協議での政治決断による解決をもとめる、解決の内容は、(1)被害者の心に響く謝罪、(2)政府資金による「償い金」の支給、(3)人道支援という考えの拒絶、の3項目である、ことを発表した。これは韓国挺対協の同意をえていない案であったが、この花房案が日韓両政府に伝えられ、12月28日、斎藤勁官房副長官と李大統領の特使李東官大使との間で解決案が合意された。(1)日韓首脳会談で合意し、合意内容を首脳会談コミュニケで発表する。(2)首相のあたらしい謝罪文では、「道義的」という言葉を冠さず、「責任を認める」と表現する、(3)駐韓大使が首相の謝罪文と国費からの謝罪金を被害者に届ける、(4)第三次日韓歴史共同研究委員会を立ち上げて、そこに慰安婦問題小委員会をつくり、日韓共同で慰安婦問題の真相究明にあたる、というものであった。これを李明博大統領は承認したが、日本の野田首相が承認せず、流れてしまった。

 ここで民主党政府が選挙で敗北して、下野し、2012年末に河野談話、村山談話の再検討をめざす歴史修正主義者安倍晋三氏の自民党政権が誕生した。慰安婦問題の解決はとても考えられる状況ではないと見られた。しかし、2013年3月に生まれた朴槿恵大統領は生存者が50名を切っている慰安婦被害者のために解決をもとめるとして、安倍政権に挑戦し、日韓首脳会談を拒否して、圧力をかけはじめた。これによって、第三ラウンドがはじまった。日韓関係は険悪となり、日本の右翼的な週刊誌は2013年秋より、朴大統領に対する個人的な誹謗、中傷のキャンペーンをはるにいたった。アメリカの介入があり、ついに2014年3月に安倍首相は河野談話を継承することを議会で明言するにいたった。この時点で、日本の運動団体、「全国行動」と韓国挺対協との協議の結果、慰安婦問題の新しい解決案がまとめられ、6月の第12回アジア連帯会議の決定となった。その内容は、(1)河野談話の継承発展に基づく解決、(2)日本政府の責任をみとめた謝罪、加害事実の承認(軍の慰安所で意に反して慰安婦・性奴隷にされたなど)、(3)翻すことのできない方法で謝罪を表明すること、(4)謝罪の証としての賠償、(5)真相究明と再発防止、などである。「法的な責任」を認めよという言葉はなく、「法的な賠償」、「責任者の処罰」という要求は消えていた。これは、安倍首相と朴槿恵大統領が交渉によって慰安婦問題の解決を求めるさいにかならず考慮しなければならない解決案だとして、提起されたものであった。運動団体として、生存被害者がおられるいまが問題解決の最後のときだという思いから、日本政府が受け入れうるはずの形を考えて、要求を表現し直したものである。

 私は、14年夏にアジア連帯会議のこの提案を知って以後、この案の重要性を認めて、動いた。直ちに日本外務省の局長、課長にも説明し、以来会う人ごとにこの案の意味を説き、文章も書いてきた(『世界』14年9月号)。2015年4月には東京での「全国行動」の集会に尹美香挺対協代表とともに登壇して、この案を支持する発言をおこない、5月には新書『慰安婦問題の解決のために』を書いて、この案による解決を訴えた。

 安倍首相は、慰安婦問題の解決のためにあらたな措置をとることを長く拒んできた。しかし、ついに2015年4月の訪米のあとから、韓国政府との間で慰安婦問題の解決のための秘密交渉をおこなうようになったと考えられる。そして、同年秋の首脳会談で、早期妥結をめざして交渉を加速することで合意した。朴槿恵大統領は、「被害者が受け入れ、韓国国民が納得できる」解決を求める、年内妥結を望むという意見を表明した。運動団体は日韓両政府の交渉の帰趨を見守っていた。12月28日の日韓の合意は以上の流れの帰結として生まれたものである。

 慰安婦問題の解決を求める日韓の運動は、立法解決要求が失敗したのち、政府間交渉における政治的決断、妥結をもとめて進んできたことが明らかである。安倍首相の信条は誰の目にも明らかであり、彼が問題解決のためにあらたな措置をとることに抵抗しつづけていたので、その抵抗をやぶる朴槿恵大統領の努力にひとえに期待がかけられていた状態であったのである。

 徐京植氏は「金学順さんの記者会見から25年、いわゆる『慰安婦』問題は、まったく解決しそうもないままに歳月が過ぎました。私はこの間の日本社会と韓国社会の推移を見つめてきたものとして、私見を述べ」ると書いているのだが、慰安婦問題の解決を求める運動のこのような厳しく、困難な道程をどれほど理解して、発言しているのだろうか。

 日韓合意が発表されると、日本の運動体は苦しみながら、現実的な態度をとった。日本軍「慰安婦」問題解決全国行動は12月29日に声明を出した。まず「日本政府は、ようやく国家の責任を認めた。安倍政権がこれを認めたことは、四半世紀もの間、屈することなくたたかって来た日本軍「慰安婦」被害者と市民運動が勝ち取った成果である」と評価したあと、批判的な論評を加え、「総理大臣のお詫びと反省は、外相が代読、あるいは大統領に電話でお詫びするといった形ではなく、被害者が謝罪と受け止めることができる形で、改めて首相自身が公式に表明すること」を要求した。アクティヴ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」も12月31日にほぼ同じ基調の声明を出した。

 韓国では、挺対協のうけた衝撃が大きかったと思う。すでに12月28日のうちに、挺対協を筆頭にした20の女性団体に、さらに94の市民団体が加わって、「市民団体の立場」という共同声明が出た。このたびの合意では、「日本政府が犯罪の主体だという事実と慰安婦犯罪の不法性を明確にしていない」。安倍首相の謝罪は外相による「代読謝罪にすぎず、謝過の対象もあまりに曖昧で、『真心がこもった謝罪』とは到底受け取りがたい」。韓国政府がこの合意を慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」とし、大使館前の「平和碑」問題を云々していることは、「屈辱的」である。このように批判して、2014年のアジア連帯会議の「日本政府への提案、すなわち日本政府の国家的法的責任履行がかならず実現されるよう、われわれはこれからも・・・正しい問題解決のための努力を一層傾注していくことを明らかにする」と主張している。結論は白紙撤回の要求である。日本の運動団体も韓国の団体のこのような反応を伝えられて、当初の立場を修正している。

 だが韓国での怒りと批判の高まりを十分に考慮したとしても、日韓両政府の合意を白紙撤回させることはことの経過からして、難しいと言わざるを得ない。このたびの譲歩で支持者である歴史修正主義派から非難を受けている安倍首相にその「最終的解決」案を白紙撤回させて、まったく新しい解決案を出させる力は日本の国内にはないのである。だから、慰安婦問題解決を願ってきた日本人としては、このたびの日韓合意の改造、改善の道を進むしかない。むしろそうすることがこれまで運動してきた者の責任だと私は思う。

和田春樹・東京大学名誉教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-03-25 20:04

http://www.hani.co.kr/arti/international/japan/736924.html

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