hankyoreh

ドナルド・トランプ米大統領/ロイター・聯合ニュース

　国民の税金で全国に建設される道路は、運行費用を減らすなど運転者に通行の便益を提供する。完成車メーカーが生産した自動車がより多く売れるよう支援する「国家行為」といえる。全国の道路のあちこちに設置された案内表示板や数多くの公営駐車場も、直接・間接的に自動車販売を支援する施設だ。

　ガソリンと軽油についた税金に弾力税率を適用して油類税を減免することや、自動車保険加入を義務化することも、自動車販売を支える経済的制度だ。貿易相手国と貿易協定を結ぶ際、国内の農水畜産物市場を部分的に開放することも、現代自動車・起亜の自動車関税の削減のために支払う「譲歩」の側面が強い。2025年11月14日、韓米両国首脳が合意・署名した関税交渉の結果、韓国政府が今後10年にわたり米国市場に提供することにした「戦略的投資」の現金ファンド3500億ドル（韓米造船協力ファンド1500億ドルを含む）は、韓国産自動車の米国市場での輸入関税率を25%から15%に引き下げるために韓国政府が受け入れた譲歩といえる。現代自動車・起亜の米国市場の競争力のために国家財政と外貨を投入することになったわけだ。

　韓国開発研究院が2025年11月に公開した報告書「海外投資増加の経済的含意」は、国内の生産性の下落傾向により年間18兆ウォン（約1兆9100億円）規模の国内投資が海外投資に流出した場合、韓国の国内総生産（GDP）は0.15%減少すると推定した。2024年の名目GDP（2556.9兆ウォン）から約3.8兆ウォンが減少する。ただし、この分析は韓米関税交渉に関わる3500億ドルが韓国経済に及ぼす影響を直接取り上げたものではない。だが、単純化のリスクを承知でこの推定結果をそのまま適用してみると、今後10年にかけて3500億ドル（約500兆ウォン）が国内への投資（政府・民間）に使われずに米国市場への投資で流出すれば、GDPが約105.5兆ウォン減少する影響が出る可能性がある。

産業通商部のキム・ジョングァン長官が2025年11月14日、ソウル鍾路区の政府ソウル庁舎で韓米関税交渉のファクトシート関連ブリーフィングを行っている/聯合ニュース

　米国市場の自動車関税率が25%の場合、現代自動車が負担する関税関連の費用は2025年第3四半期に1.8兆ウォン（現代自動車が自主的に推算）。年間に換算すると7.2兆ウォンだが、関税率が15%に下がったので、今は年間費用は4.3兆ウォンと予想される。すなわち、関税費用の減少額は年間2.9兆ウォン（10年間で29兆ウォン）だ。起亜および韓国の自動車部品メーカーまで含めても、韓国の自動車産業が享受する関税費用の削減効果は、10年間で50兆ウォン以下と推定される。3500億ドルの現金投資がもたらすGDP減少額の方が、この効果より2倍ほど多いわけだ。

　米国の最も権威のある独立経済分析機関である「全米経済研究所（NBER）」が2025年9月に公開した報告書「貿易戦争とドル為替レート固定体制」は、米国の平均関税率（自動車を含むすべての製造業品目）の「臨界値」が26%だと分析した。この水準を越えればグローバル金融市場でドルの魅力が弱まり、米国が享受してきた様々な金融・実体経済の特権が縮小されるという。そうなると、ドルよりユーロの相対的安定性の方が高まり、米国とEU以外の地域の小規模国家がより安定的な自国通貨価値の維持のため、ドルからユーロ中心の固定為替レート制度に移行するという結論だ。

　グローバル規模の関税爆弾の発表（4月2日）以前に、米財務省も数理計量モデルを通じて最適の関税引き上げ幅を分析したはずだ。ならば、トランプ大統領もすでに「26%」を知っていたのだろうか。米国の平均関税率は、関税爆弾発表直後は27%だったが、その後、個別の関税交渉で5月に24.8%、8月初めには20.1%近くまで下がったという。自動車関税はいずれにせよ15%に下がる予定であった。老獪なトランプ大統領は米国市場のシェアをめぐって競い合っている現代自動車・起亜、トヨタ、欧州車の3者の競争構図を最大限活用し、韓国（3500億ドル）、日本（5000億ドル）、EU（6000億ドル）から天文学的規模の現金投資を引き出したわけだ。