本文に移動
全体  > 経済

費用47兆円増加?…最低賃金の恐怖を助長した“誇張統計”

登録:2018-01-25 23:22 修正:2018-01-27 09:00
ローランド・ベルガー報告書を検討する
17日、ソウル汝矣島の中小企業中央会で開かれた「労働市場の構造改革政策提言報告大会」でローランド・ベルガーのイ・スソン代表が政策提言報告を発表している//ハンギョレ新聞社

“絵に描いたもち”の成果給・賞与金を過多計上
全企業が土曜・休日勤務と仮定
日雇労働者まで正規職化対象に含め

1万ウォン以下の労働者の特別給与、賃金総額の2%に過ぎず
それを全労働者に拡げて15.3%と過多計算

労働時間減らせば売り上げ323兆減少?
生産性向上効果などには目をつぶる
ヨーロッパ水準の正規職化では66兆の負担?
正規職の平均賃金を単純に掛けた算法

ローランド・ベルガー「メディアが誤って報道」

 「最低賃金引上げなど政府の労働政策により、企業は464兆7千億ウォン(約47兆5千億円)の費用増加に直面するだろう」

 最近一部のメディアが重点的に紹介した「ローランド・ベルガー報告書」の主な内容だ。最低賃金引上げと非正規職の正規職化、労働時間短縮などが企業経営を大きく圧迫するだろうという趣旨だった。 しかし、ハンギョレが各分野の専門家の諮問を経てこの報告書の内容を具体的に検討してみると、特定項目の費用を8倍近くに脹らますなど誇張と歪曲が深刻なことが明らかになった。

ローランド・ベルガー報告書のファクトチェック//ハンギョレ新聞社

■ 最低賃金上がれば賞与金・学資金も上がるか?

 ドイツのコンサルティング会社ローランド・ベルガーは、中小企業中央会の依頼を受けて17日発表した「労働市場構造改革政策提言報告書」において、最低賃金1万ウォン引上げなど新政府の労働政策が企業の生存力を脅かす憂慮が大きいと主張した。 ローランド・ベルガーは2016年、サムスン電子が米国の電装専門企業ハーマンを買収する際にコンサルティングをして、国内にもよく知られているヨーロッパ最大規模の会社だ。

 まずローランド・ベルガー報告書は、最低賃金1万ウォン政策による企業の費用負担を75兆6千億ウォン(2020年基準)と推算した。 最低賃金引上げによる直接間接的労働費用増加分を最低賃金対象労働者の数だけ掛けて出てきた金額だ。 そのため報告書は、雇用労働部の2016年事業体労働力調査などを土台に、賃金総額の15.3%を成果給と賞与金など特別給与(直接労働費用)と見なし、賃金総額の26.3%を間接労働費用と見なした。

 しかし、多くの最低賃金労働者は成果給・賞与金をもらえないのが現実だ。主に大企業に勤める高賃金労働者くらいに適用可能な項目を計算に含め、企業負担を過度に脹らませたわけだ。 雇用部関係者は「時給1万ウォン以下の労働者が受取る特別給与は賃金総額の2%にもならない」と言った。2%足らずの項目を15.3%と8倍近く“誇張”したという指摘が可能だ。

 また、報告書は間接労働費用が賃金総額の26.3%と仮定した上で、最低賃金が上がる分だけこの費用も大きくなると見た。 この間接労働費用は子どもの学資金や住宅購入支援金も含むが、実際に低賃金労働者に適用される項目は退職給与と4大保険料などにとどまる。報告書が引用した2015年雇用部の企業体労働費用調査で、最低賃金労働者に該当する項目だけ問えば、間接労働費用は賃金総額の26.3%ではなく19.6%水準まで下がる。 これについてローランド・ベルガーの関係者は「人員と時間の制約から、(間接労働費用などを)企業が実際にどう支給しているのか確認することができなかった。いったん、企業が“マキシマム”(最大値)で負担すると仮定したものだ」という釈明を出した。

■ すべての労働者が土曜・休日に働く?

 ローランド・ベルガーは週最大労働時間が既存の68時間から52時間に減れば、企業は323兆ウォンの売上げ減少に直面することになろうと主張した。 労働者一人の時間当たり売上高を企業全体の超過労働時間に掛けた数値だ。 ローランド・ベルガーは「すべての事業場が土曜・休日に働く」という仮定を前提に売上げ減少規模を算出したが、これからして深刻な誤謬だ。韓国労働研究院が2016年12月に出した「勤労時間運用実態調査」によれば、土曜日に働く事業体は46.9%、休日に働く事業体は20.7%水準だ。 これについてもローランド・ベルガー関係者は「(ミスで)漏らしたようだ」と釈明した。

 売上げ減少額を労働時間短縮による企業の“費用”と見る観点も問題だと指摘される。 韓国労働社会研究所のキム・ユソン先任研究委員は「労働時間短縮に伴う生産性向上効果や雇用創出による需要増加は全く考慮していない推定値だ」と指摘した。 実際、2015年に初めて法定最低賃金を導入したドイツでは、翌2016年の国内総生産が前年に比べ1.9%増加した。過去10年の平均値(1.4%)を上回る高い成長率だ。最低賃金導入が経済成長に寄与したというのがドイツのメディアの分析である。

■ 非現実的仮定で過大な計算

 非正規職の正規職化に関する企業負担を推定する際にも、ローランド・ベルガーは非現実的な仮定を繰り返した。ローランド・ベルガーは全賃金労働者の32%(2017年8月基準)である韓国の非正規職の割合を、欧州連合の臨時職の割合である14%まで減らすと仮定した場合、企業に66兆1千億ウォンの費用負担が生ずることになると主張した。

 ローランド・ベルガーは政府の正規職化対象である期間制・派遣・委託労働者はもちろん、短時間・日雇い・家内労働者など全ての形態の非正規職労働者が“正規職”になるという仮定から出発している。また、正規職転換過程で予想される賃金体系改編などを全く考慮せず、現在の正規職平均賃金で単純計算してしまった。

 ローランド・ベルガー側は一部のメディアに「企業負担464兆7千億ウォン増加」と報告書の総体的結論が紹介されたことについては、「私たちが直接『464兆7千億ウォン増加』という表現を使ったことはない」と主張した。 ローランド・ベルガー関係者は「最低賃金引上げと正規職化による企業の費用負担と労働時間短縮でもたらされる企業の売上高減少規模をひっくるめて『464兆7千億ウォン』というのは誤りで、一部のメディアがちゃんと見ずに書いた側面がある」と言った。

イ・ジヘ記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/829293.html?_fr=mt1韓国語原文入力:2018-01-25 04:59
訳A.K

関連記事