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[ニュース分析]原油価格下落の国際政治力学

登録:2015-02-09 11:31 修正:2015-02-26 21:49
紛争を呼び起こす石油
原油価格下落で米国の影響力増大
国際原油価格の下落は米国の国際政治的な影響力を高める要因とされる。昨年12月19日、米国ノースダコタ州ウィリストンにある原油ボーリング施設が稼動している様子。ウィリストン/APニューシス

ロシアの姿勢は柔軟に
米国の主導力強化に中国の反発必至
韓国の選択肢さらに狭まる

 国際原油価格の急速な下落で多くの研究機関がその影響と利害に関する分析を急いでいる。今まで多くの研究が原油価格下落による石油消費国の費用削減と石油生産国の財政的打撃に注目してきた。だが、それは原油価格の下落がもたらす影響の一部に過ぎない。現在の人類の文明自体が石油に基づくものであり、一日でも石油がなければ経済が立ち行かないため、石油は強調しすぎることがないほど重要な存在だ。

 その石油は途方もない規模の生産と消費で成り立っているのに、地域的にかなり偏って分布しており、石油確保をめぐる絶え間ない紛争を呼び起こす資源でもある。石油が多く埋蔵される地域が概して政治的に不安定なのは偶然ではない。石油の価格変動も甚大な影響を与えるほかないのだが、経済に関する分析が多く出される一方で、政治における以下のような側面を探ってみる必要がある。

ロシアの対外政策と国際原油価格の流れ。 //ハンギョレ新聞社

 先ず、原油価格の下落により、ロシアが米国や西ヨーロッパに今までより親和的な姿勢に転じる可能性が高くなった。言うまでもなくこれは米国の相対的な影響力強化をもたらすだろう。ロシアはこれまで原油価格の変動により強硬路線と穏健路線の対外政策を繰り返してきた。

 例えば第2次石油ショックで原油価格が急騰した1979年にソ連がアフガニスタンに侵攻した事例がある。1978年に原油価格はバレル当たり14ドルだったが1979年には31ドルまで急騰した。物価上昇を考慮して現在の貨幣価値に換算すれば、50ドルから101ドルに上昇したことになる。当時のソ連はシベリア油田開発と原油価額の上昇が重なり莫大な財政収入を上げたため海外での軍事活動をすることができた。

 しかし、1980年代に入ると原油価格が下落し続け、ソ連が石油から得る財政収入は減少した。すると1985年に共産党書記長になったゴルバチョフが改革開放政策に乗り出す。無論、一連の政策の原因の中で低油価は一部に過ぎないが、ソ連と東ヨーロッパ共産圏の没落を早めた要因にはなった。

 低油価時代は2000年代初めまで続いたが、2000年にロシアで大統領になったプーチンは、初めのうちは米国に融和的な姿勢をとっていた。北大西洋条約機構(NATO)がロシアの目先である東ヨーロッパの国々に拡がるのも積極的に反対しなかった。しかし、原油価格が再び100ドルを突破した2008年にロシアがグルジアを侵攻したのは、原油価格が上昇傾向にある時にロシアの軍事活動が活性化する事例を踏襲することになった。興味深いのは原油価格が米国の金融危機で暴落すると、ロシアは直ちに米国が提案した新戦略兵器削減条約(New START)に署名するなど融和的な姿勢をとり、原油価格が再び100ドル以上に上昇し続けた2014年初めにウクライナに軍事介入をしたという点だ。

 原油価格とロシアの姿勢のこうした相関関係は、ロシアの財政能力が石油収入に大きく依存しているためと考えられる。したがって今のような低油価状況ではロシアと西側国家の間の緊張は緩和される可能性が高い。米国は容易くロシアを扱えるはずだ。

 第二に、中東でも米国の影響がより高まると予想される。中東で広がる事件は些細なことでも石油供給に支障をきたすため石油市場に大きな影響を及ぼし、それは世界経済により大きな波紋を呼ぶことになる。したがって中東の安定は重要な課題にならざるをえない。米国が航空母艦を含む艦隊を中東に駐留させている理由も、中東の安定と石油輸送路の安全を確保するためのものであろう。

 ところがその中東が今、かつてなく騒々しくなっている。米国や西ヨーロッパ国家のように宗教の違う国だけでなく、これらの国に協力した中東国家、同じイスラム教徒でもイランやシリアのようなシーア派などをすべて敵視する強力な武装勢力が登場したためだ。こうした状況のなか現れた原油価格の下落は、この地域で盟主の役割を果たしつつ他の同盟国を支援しなければならないサウジアラビアのような国々を窮地に追い込む。このことは結局、米国に対する依存度拡大につながるだろう。

 米国は中東で、イランの核兵器開発阻止、テロリスト牽制、イスラエル保護といった表面的に現れる利害関係ばかりか、中国のような競争国を牽制する強力な手段にしようと考えるだろう。石油供給および輸送に関連した地域の統制権を行使しようとする強い欲求を持っている米国が、さらに強力な役割を拒むわけがない。

 金融危機後、米国は製造業投資を通じた景気回復を試み、今は好景気を享受する地域になっている。それに加え穏健化されたロシアや米国の石油市場統制権強化から、国際政治的にも力がますます大きくなると予想される。今後は好むと好まざるにかかわらず米国の主導力がより強まっていく姿を見ることになりそうだ。最も強い反発が予想される国は中国だ。経済的にもライバルになるだろうが、中国は米国が統制する道に沿って原油を輸入しなければならない不安感を抱えているためだ。有事の際に米国が石油輸送路を遮断すれば、中国はエネルギー不足で力を失うほかはない。結果的に力が最も大きくなった米国と、そんな米国の統制から抜け出ようとする中国の狭間で、大きな選択をしなければならない局面が増えるだろう。

チョン・ミンギュ韓国投資ホールディングス・グローバルリサーチ室長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015.02.08 20:14

https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/677421.html 訳Y.B

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