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40年間で大きくなった人間の脳…認知症の発病率も減少か

登録:2024-04-11 06:28 修正:2024-04-11 09:09
クァク・ノピルの未来の窓
カリフォルニア大学デービス校提供//ハンギョレ新聞社

 人間が700万年前にチンパンジーのグループから分離した後、進化の過程で体験した最大の身体的変化の一つが脳の大きさだ。チンパンジーの脳は昔も今も400グラムを維持しているが、人間の脳は3倍以上大きくなった。

 今も人間の脳は大きくなっているのだろうか。米国カリフォルニア大学デービス校保健大学院の研究チームが、1970年代生まれと1930年代生まれの脳を比較したところ、現代になっても脳が少しずつ大きくなっていることが明らかになった。米国医師協会(JAMA)が発行する「JAMAニューロロジー」に発表された。

 研究チームは、脳が大きくなると脳の予備力(brain reserve)も増加し、老人性認知症(アルツハイマー病)のリスクを減らす方向に影響を及ぼす可能性があると述べた。脳の予備力は、脳が老化や病気などによって物理的な損傷を受けても認知機能を維持できる余剰容量を指すもので、脳の柔軟性と適応性の指標として用いられる。

 研究チームは今回の研究で、1948年にマサチューセッツ州フレーミングハムで始まった心臓研究(FHS)実験の参加者の脳の磁気共鳴映像(MRI)の資料を分析対象とした。この研究は、30~62歳の成人男女約5200人を対象に75年間実施されており、現在3世代目まで続く長期プロジェクトだ。

人間と類人猿、霊長類の脳の比較。左から人間(1350cc)、チンパンジー(400cc)、オランウータン(400cc)ベニガオザル(100cc)=ハーバード大学医学部提供//ハンギョレ新聞社

■40年間で脳の体積7%・表面積15%増加

 研究チームは、そのうち1930~1970年代の出生者の1999~2019年の脳の映像資料を集中分析した。撮影に参加した人たちは合計3226人で、撮影当時のこれらの人たちの平均年齢は58歳だった。

 研究チームは、1930年代生まれと1970年代生まれの脳の映像を比較したところ、脳の構造が少しずつ着実に増加した事実を発見した。脳の体積の場合、1930年代生まれは平均1234ミリリットルである一方、1970年代生まれ、すなわちX世代は平均1321ミリリットルで6.6%大きかった。

 表面積も増加した。1970年代生まれの大脳皮質の表面積は2222平方センチメートルで、1930年代生まれの1933平方センチメートルに比べ15%増加した。

 研究チームは、単に全体的に大きくなったのではなく、学習と記憶に関与する海馬や灰白質、白質など脳で主要な機能を担当する領域がいずれも大きくなったことを明らかにした。

 灰白質は脳の最も外側の表面(皮質)であり、精神機能、記憶、感情および運動において重要な役割を果たす。脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病(老人性認知症)を含む様々な疾患が灰白質に影響を及ぼす可能性がある。灰白質の下にある白質には、数百万個の神経線維束が含まれている。測定の結果、灰白質が2.2%、海馬は5.7%、白質は7.7%大きくなった。代わりに、大脳皮質の厚さは20.9%薄くなった。1940年代生まれと1950年代生まれの1145人を対象にした分析でも、同様の結果となった。

高齢化でアルツハイマー病の人口は増加しているが、発病率は減少している=Steven HWG/unsplash//ハンギョレ新聞社

■アルツハイマー病の人口は増えたが、発病率は減少

 脳の体積増加はアルツハイマー病とどのような関係があるのだろうか。

 研究チームによると、米国では現在、約700万人がアルツハイマー病を患っている。米国アルツハイマー協会は、2040年には1120万人に増えると予想する。

 しかし、2016年に「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表された米国国立衛生研究所(NIH)のフレーミングハム地域の高齢者調査の結果によると、アルツハイマー病の人口自体は増加しているが、それは高齢人口の増加によるものであり、発病率自体は1970年代以降、10年ごとに20%%減少していることが明らかになった。

 研究チームは、その原因の一つとして、高学歴者が増加している点を挙げた。フレーミングハム地域の場合、高校卒業以上の学歴を持っている人の2000年代の認知症病率は、1970年代より44%減少したことが分かった。

 研究チームは、心血管の健康が改善される傾向も認知症発病率の減少に影響を及ぼすが、心血管の健康改善も高卒以上の学歴者でのみ現れた現象だったと付け加えた。認知症の診断を受ける平均年齢も、1970年代の80歳から2000年代は85歳に上がった。

■遺伝だけでなく健康と教育も脳の大きさに影響

 論文の第1著者であるチャールズ・デカリ教授(アルツハイマー病研究所長)は「脳の大きさを決めるのは、基本的には遺伝という内的要因が重要な役割を果たすが、個人の健康状態や社会、文化、教育的要因のような外部要因も一定の役割を果たしうる」と述べた。

 研究チームは、このような様々な要因によって脳体積(ICV)が大きくなり、人々の脳の健康が良くなるとみている。デカリ教授は「脳が大きくなれば脳の予備力も大きくなり、認知症のような老人性脳疾患にかかっても、その程度を緩和できるだろう」と述べた。

 米国のシカゴ・ラッシュ大学医療センターの研究チームが2月に「JAMAニューロロジー」に発表した論文は、このような分析を裏付ける。それによると、平均91歳で死亡した586人の24年間の生活トレースデータと、脳の解剖検査の資料を比較したところ、規則的な運動や読書などの健康な生活習慣は、脳の認知予備力を高め、人生の最後の瞬間まで認知能力を維持させることが明らかになった。

*論文情報
doi:10.1001/jamaneurol.2024.0469
Trends in Intracranial and Cerebral Volumes of Framingham Heart Study Participants Born 1930 to 1970.

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/science/science_general/1136022.html韓国語原文入力:2024-04-10 16:34
訳M.S

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