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世界は安楽死について論争中…英国・フランス、どこまで門戸を開くか

登録:2024-03-22 07:51 修正:2024-03-22 09:51
「死に対する選択権の尊重」vs「緩和ケアの拡充が先」
先月5日、2人で一緒に安楽死を選択したオランダのドリス・ファン・アフト元首相と夫人のユージェニー女史。ファン・アフト元首相が卒業したオランダのラドバウド大学のホームページより//ハンギョレ新聞社

 英国の著名なジャーナリストのエスター・ランツェンさん(84)は昨年12月、「自死幇助(ほうじょ)」(assisted dying)を支援するスイスの団体「ディグニタス」(Dignitas)に加入したことを明らかにした。肺癌のステージ4である彼女は「自死幇助が合法であるスイスのチューリッヒに行く可能性もある」と述べた。彼女は「愛する人が苦しみながら死ぬのをみると、その記憶が幸せだった(他の)すべての時間を消してしまう。私に対する家族の最後の記憶が苦痛でないことを望む思いだ」と話した。

 英国は自死幇助を認めない国であるため、ランツェンさんのように外国人も自死幇助を選択できるスイス行きを希望するケースがよくある。韓国人のなかにも、スイスの自死幇助の支援団体に加入したり、実際にスイスに行ってそれを実行した人もいることが知られている。韓国の現行法上では、同行した家族については自殺幇助罪で処罰される可能性もある論争的な事案だ。

 21年間BBCに出演してきた司会者であり、高齢者と孤独に関する慈善団体を設立した社会運動家でもあるランツェンさんは「いつどのように死にたいかに対する選択権が与えられる必要があると考える」と述べた。

 先月5日、93歳の同年齢の夫妻だったオランダのドリス・ファン・アフト元首相と妻のユージェニー女史が一緒に安楽死した事件は、世界的に大きな注目を集めた。ファン・アフト元首相は2019年に脳卒中で倒れた後、身動きが不便になり、妻も同様に健康状態が良くない状態だった。夫妻は医師の助けで自宅で一緒に息をひきとった。

 2002年に安楽死を法的に認可したオランダは、苦痛が強く耐えられない場合▽合理的な解決策がない場合▽死を選択するという意志が明らかな場合など、6つの条件に符合する場合、医師が直接患者に薬品を投与して安楽死を施行することが可能だ。これは、患者が直接点滴の薬品投入ボタンを押す方式などで最後の実行を行う自死幇助に比べ、医師がより直接的に介入する形だ。オランダでは昨年4月、12歳以下の不治の病の児童も両親の同意のもとで安楽死を選べるように法の適用範囲を拡大した。

 世界的に個人が死を選択できるかどうかは、長きにわたり論争の種だったが、これを厳格な要件のもとで許容する国が増えている。スイスは安楽死の一種として分類される自死幇助を1942年から許可している。2002年にはオランダとベルギーが、医師が直接薬品を注入する形の安楽死まで法的に認可した。米国は1997年のオレゴン州を皮切りに、今年初めの時点で11州が安楽死または自死幇助を許可している。

 2016年に安楽死を許可したカナダは昨年、世界で初めて精神疾患者も安楽死を選べるようにした。ニュージーランドは2020年に国民投票を通じて安楽死を許可することにした。安楽死や自死幇助を助けた者(医師、家族)を処罰する刑法条項に違憲決定を下す方式で、迂回的に道を開いた国々もある。2019年のイタリア、2020年のドイツとオーストリア、2024年のエクアドルなどがそれに該当する。

 安楽死や自死幇助を現在は禁止している国でも、論争が広がっている。英国は安楽死を幇助する場合、現行法上は殺人罪などで処罰される可能性がある。しかし、それに反対する人たちの声も大きくなっている。

 ジャーナリストのランツェンさんと支持者たちは今年1月、「自死幇助に関する議会票決実施に関する請願」を提起し、15万人以上の市民が支持署名をした。「臨終が差し迫っているが明瞭に判断できる不治の病の患者が、自身の意思に反して耐えがたい苦痛を味わうことになってはならない」として、「英国下院で自死幇助が十分に議論されるよう時間を配分し、議員に投票権を付与することを求める」と表明した。英国下院は10万人以上の署名を得た請願については、討論を進めなければならない。

 これに先立ち先月29日、英国下院の保健社会委員会は「自死幇助に関する報告書」を発行した。委員会は報告書で「市民社会の勧告によって、近い将来に英国が自死幇助を許可する可能性が高まり、閣僚たちは様々な立法の違いをどのように法案に反映するかについて積極的に議論しなければならない」と表明した。

 フランスでも最近、法改正の議論が起きている。フランスは、2005年に延命治療の中断を許可したが、スイスのような自死幇助やオランダのような形の安楽死は許可していない。フランスでは2022年9月、184人で構成された国家諮問団が報告書を出し、「現在のフランスの臨終支援に対するアクセシビリティは不公平であり、特定の臨終期の状況に対する満足な対応が足りない」として、「フランスの現在の臨終支援システムがもっと進化しなければならない」と指摘した。

 フランスのエマニュエル・マクロン政権は、現時点では社会的な合意を導きだせずにいる。マクロン大統領は先月8日、大統領府で医師、哲学者、宗教家の代表と面会した後、「このテーマは恐るべきものだ」としながらも、敏感な事案であることを認めた。

 フランスが準備中の法案は、今夏に輪郭が見えてくるものと思われる。10日、マクロン大統領は延期していた法案を5月中に完成して議会に提出する予定だと、日刊紙リベラシオンなどのインタビューで明らかにした。新たな法案には、不治の病や激しい痛みに苦しむ患者に自死幇助を許可し、臨終支援を多様化する内容が含まれるが、医師が直接致命的な薬品を投与する形の「安楽死」は許可しないとみられると、ル・モンド紙は予想した。

 しかし、安楽死や自死幇助を許可して幅を広げようとする最近の流れについては、懸念を示す声も少なくない。未成年者、障害者、精神疾患者などの場合、ケアを適切に受けられない状態のもとで、自ら命を絶つようにさせる社会的な圧力として作用することになりうるという懸念だ。英国の自死幇助に反対する運動の団体「ケア・ノット・キリング」(Care Not Killing)のゴードン・マクドナルド博士は先日BBCに「自死幇助の許可対象者の基準が、不治の病の患者だけでなく、障害者や(自らの意思決定が難しい)認知症患者、うつ病患者などにまで拡大される可能性がある」として、英国は自死幇助を認可してはならないと主張した。マクドナルド博士は「適切なケアを受けることができれば、安楽死を望む人はきわめてまれだ」として、「良質のケアのサービスがすべての人に提供されるようにすることが最優先課題にならなければならない」と強調した。安楽死を許可するのであれば、具体的にどの時点で治療を中断して安楽死を許可するのか、患者の希望が真の意志なのか社会的な圧力によるものなのかを判断することは容易ではないという点を指摘する人たちも多い。

 安楽死に反対する人たちは、ホスピス(臨終看護)に対するアプローチ権を含めた苦痛緩和治療の拡大が、安楽死の認可より至急だと主張する。ホスピスは臨終を控えた患者の身体的な苦痛を緩和することに重点を置いた医療支援のことだ。法改正を悩む英国とフランス政府も、緩和医療のアクセシビリティ強化案を新たな法案に大幅に加えるものとみられる。1月にフランスのガブリエル・アタル首相は、今夏に発表される法案について「緩和医療が大幅に強化されるだろう」と説明した。英国下院の保健社会委員会も、先月発表した報告書で「英国は地域によってホスピスへのアクセシビリティの格差が大きい」として、「患者のホスピスへのアクセシビリティを高める案が急がれる」と主張した。

キム・ミヒャン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1132842.html韓国語原文入力:2024-03-19 08:52
訳M.S

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