老化を研究する科学者の間で2010年代以降大きく注目されたことの一つが、若い血液の若返り効果だ。当時、動物実験を通じてこれを確認する研究が多数発表された。
例えば、米国のピッツバーグ大学とスペインのバレンシア大学の研究陣は昨年と今年、それぞれ若いマウスの血液にある細胞外小胞(EV)の若返り効果を確認する実験結果を発表した。若い血液の血漿(けっしょう)や幹細胞からその原因を探る研究もあった。2005年に115歳で死亡したオランダのある女性の血液には、幹細胞がたった2つしか残っていなかったという研究結果もあった。これにより、若い血液のどの成分がこのような効果を出すのかを究明する後続研究が続いている。しかし、若い血液療法は免疫反応のような副作用問題とともに、若返りのための輸血は倫理的に正しいのかという議論の対象でもある。
ならば、逆に老いた血液を注入すると、何が起きるだろうか。
高麗大学医学部と米国カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)共同研究陣は7月29日、若いマウスに老いたマウスの血液を輸血する実験を行った結果、若いマウスの老化速度が速くなったことが分かったと、国際学術誌「ネイチャー・メタボリズム(Nature Metabolism)」オンラインに発表した。若い血液を注入した時とは正反対の効果が現れたのだ。これは細胞の老化が単純に長い間使ったことで磨り減る摩耗現象ではないことを示唆する。
これまで若いマウスと老いたマウスの間の相互輸血実験で、老いた血液を輸血された若いマウスの健康が悪化するということはすでに確認された事実だ。しかし、研究の焦点は主に老いたマウスの若返り効果に当てられており、若いマウスに起きる効果については詳細な分析が行われなかった。
研究陣は今回の実験で、この部分を集中的に調べた。論文の第1著者である高麗大学医学部のチョン・オクヒ教授(医生命科学)によると、今回の研究の出発点は「これまで若い血液の若返り効果だと知られたことが、実は若い血液のためではなく、若い血液が加わったことで、老いた血液の老化機能が薄れたことによるのではないかという疑問」だった。
血液に乗ってがんが転移するように、老化も転移
研究陣は生後3カ月の若いマウスに生後約2年の老いたマウスの血液を輸血した。
2週間が経つと、若いマウスの体から老化細胞の数が大幅に増えた。肝臓や腎臓など、さまざまな器官の細胞が損傷を受け、細胞分裂を止めた。だからといって死んだわけでもなく、一種のゾンビ細胞となった。これは老化が始まる時に現れる現象だ。特に肝臓と脳でこのような現象が目立った。
若いマウスの筋力も老いたマウスの血液を輸血した後、弱くなった。年を取っていないのに細胞の老化が進んだのだ。研究陣は「全体的に、老いた血液の注入による否定的効果の程度が若い血液の注入におる肯定的効果と同じか、それ以上だった」と明らかにした。
原因は何だろうか。研究陣は、血液内の老化細胞から分泌される因子が血液中を循環しながら若いマウスの細胞と組織を老化させる「老化の転移」を引き起こすものとみられると分析した。がん誘発物質が血液に乗って全身に広がり、がんを転移させるのと同じ原理だ。
老化細胞は増殖を止める代わりに、炎症性物質やタンパク質分解酵素などを分泌する。これを細胞老化関連分泌形質(SASP)と呼ぶ。しかし、今回の研究では具体的に老化細胞から分泌されるどの物質が老化の転移を引き起こすかは究明できなかった。
老化治療研究の新たなパラダイムを提示
チョン教授は「今回の研究は老化過程が単純に生物学的な時間の流れによるものだけでなく、老化の転移を通じて加速するという新しいパラダイムを提示したことに意味がある」と述べた。これまでの老化治療研究は、老化「細胞」自体を処理することに焦点を合わせてきたが、今回の研究は老化の「転移」というメカニズムを取り上げた点で新しい概念のアプローチということだ。
共同研究者のコンボイ教授は、科学専門誌「ニューサイエンティスト」に「細胞の老化は老化過程の一部に過ぎない」とし、「今回の研究は、これまでの臨床試験で老化細胞を除去する薬(セノリティック)が期待より成功しなかった理由を説明することで、研究の新たな地平を開いた」と評した。
チョン教授は「これまで老化細胞を標的にして開発したセノリティック薬が多くの臨床実験で失敗した」とし、「今回の研究で細胞ではなく細胞由来物質を媒介に老化の転移が多様な組織で起きた過程が明らかになっただけに、セノリティック薬の開発の焦点を変える必要がある」と述べた。
これは老化疾患の治療で血液中の老化誘発因子を除去する薬の開発という新しい目標を提示する。チョン・オクヒ教授は「次の研究課題は、具体的に老化の転移を引き起こす物質が何であるかを究明すること」だと付け加えた。