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平均健康寿命73.1歳…70代になるとなぜ急に老衰するのか

登録:2022-06-29 03:02 修正:2022-06-29 08:57
造血幹細胞の突然変異が累積…細胞同士の生産力の差が拡大 
2万~20万の細胞が血液生産…70歳以降は10~20個が半分を担う 
血液構成の多様性が失われて急速に老化 
研究を「ネイチャー」に掲載
70代以降、血液細胞の多様性が低下し、急速に老化が進む=ピクサベイ//ハンギョレ新聞社

 老人学の研究者たちは、老化を自動車の燃料タンクの燃料が次第に減っていくことに例えて説明したりもする。燃料が底をつくと自動車がそれ以上進めないように、老化が限界に達すると生も止まることになる。

 統計庁の2020年生命表によると、韓国人の期待寿命は現在83.5歳。男性が80.5歳、女性が86.5歳で、男女間で6年の差がある。しかし健康寿命は73.1歳と10年ほど短い。健康寿命でも女性は74.7歳、男性は71.3歳と、女性の方が3.4年長い。経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均期待寿命と健康寿命も80.5歳、70.3歳で10年の差がある。

 70代は人の一生において、身体機能が大きく弱まる分岐点のような時期だ。骨と筋肉の消失で身長は縮まり、力は衰え、体重は減少しはじめる。国際科学コミュニティ「インテックオープン(InTechOpen)」が老化に関する研究結果を集めて出版した「老人学」の教本によれば、40代以降に身長は10年で約1センチずつ縮み、70代に入るとその速度は大きく速まる。筋力は60歳以降、年間で最大3%減少する。したがって、軽い転倒事故でも深刻な負傷や骨折をする可能性が高い。臓器の機能も弱まるため、高血圧や糖尿病、認知症などの慢性疾患が発生しやすい年齢が70代だ。

 米国では75歳以上の男性の約半数、女性の40%に聴力障害があるという研究報告もある。医学ジャーナル「ランセット」などに発表された研究結果によると、認知症になる確率は、65歳以降は5年経過するたびに2倍となる。

 人が70代になって急に体が老衰する理由を、細胞レベルで究明した研究論文が発表された。

10~20個の幹細胞が血球生産の半分を掌握

 英国の生命科学研究機関「ウェルカムトラスト・サンガー研究所」の研究陣は、一生にわたって造血幹細胞に徐々に蓄積される遺伝的突然変異が、70歳以降の血液生産のあり方に劇的な変化をもたらすことが明らかになったと国際学術誌「ネイチャー」に発表した。研究陣は、そのことによって血液細胞の多様性が低下することが、70代以降の急激な老化の原因のひとつとみられると述べた。今回の発見が老人性疾患の新たな治療法の開発の糸口となるかが注目される。

 研究陣は、新生児から81歳までの様々な年代の10人の実験参加者から骨髄の寄贈を受けて幹細胞を採取し、血液細胞(赤血球、白血球)が生成される過程を集中的に分析した。研究陣は、採取した3579個の造血幹細胞の全ゲノムを解析し、その中に含まれるすべての突然変異を確認した。続いて、これにもとづいて各個人の造血幹細胞の家系図を再構成し、血液細胞同士の関係がどのように人の寿命に影響を及ぼすかを調べた。

 その結果、造血幹細胞の家系図は70代以降に大きく変わることを突き止めた。65歳未満の成人の血液細胞は2万~20万個に達する幹細胞から作られていた。各幹細胞が作り出す血液細胞の量はほぼ同じだった。

 一方、70歳以上の高齢者は、幹細胞が作り出す細胞の量が均一ではなかった。10~20個の幹細胞が全血液生産量の半分を担っていた。年を取るにつれて、このように旺盛な活動力を備えた幹細胞の数が次第に増えた。

 これはドライバー変異(driver mutations)と呼ばれる体細胞の突然変異の下位タイプのひとつだ。がんを引き起こす突然変異もこのタイプに属する。

研究陣は、老化の原因が分かったので解決策も見つけられるだろうと期待する=ピクサベイ//ハンギョレ新聞社

異常増殖過程で質の悪い血液細胞を量産

 サンガー研究所の主任研究員エミリー・ミッチェル博士は、ドライバー変異の増加が血液細胞の多様性を蚕食し、これが健康に悪影響を及ぼすものとみられると語った。どのような突然変異がより優勢な地位を占めるかは、人によって異なる。

 研究陣は、ほとんどの幹細胞の突然変異は無害だが、一部の「ドライバー変異」は幹細胞をより早く成長させ、最終的に質の悪い血球を作り出すと明らかにした。30~40代は、このような突然変異した幹細胞の影響力は小さい。しかし、年を取るほど幹細胞の種類が減り、70代以降は突然変異が血液細胞の生産力を支配するようになるというわけだ。

 同研究所のピーター・キャンベル博士は「突然変異した細胞の幾何級数的な増殖は、なぜ70歳以降に老衰が急激に進行するのかを説明してくれる」と語った。同氏は、早く育つ造血幹細胞は血液がんや貧血に関連するだけでなく、病原体への感染での回復も遅らせ、化学療法のような治療の効果も低下させると語った。

 研究陣の一員であるウェルカムMRCケンブリッジ幹細胞研究所のエリサ・ローレンティ教授は、日刊紙「ガーディアン」に対し「慢性の炎症や喫煙、感染、化学療法はすべて、がんを誘発する突然変異した幹細胞を生成しうる」とし「これは老化と関係する造血幹細胞の多様性の低下を早める方向へと作用する」と語った。

 研究陣はしかし、原因が分かったので、今後はこの過程を遅らせる方法も見出せるだろうとの期待を示した。

 研究陣は、幹細胞の突然変異の累積による急速な老化は、他の臓器でも同様に進行すると推定する。研究陣は皮膚についても、同じ方式の研究により、老化によってシワが増えたり傷が治りにくくなったりする理由を究明する計画だ。

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/science/science_general/1048744.html韓国語原文入力:2022-06-28 10:01
訳D.K

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