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[インタビュー]日本近代文学の隠れた宝石を探す

登録:2022-07-23 07:40 修正:2022-07-23 10:46
[翻訳家を訪ねて]ユ・スクジャ|翻訳家 
初めは太宰治に魅了 
遠藤周作、夏目漱石などを掘り下げ 
 
在日コリアン文学で研究書の出版も 
「太宰治と語りあうことを想像も」
7月14日、ソウル道峰区にあるウォンダンマウル韓屋図書館で会ったユ・スクジャ氏。彼女はたびたび美しい庭園があるこの韓屋図書館で翻訳作業を行う//ハンギョレ新聞社

 翻訳家のユ・スクジャ氏が太宰治に初めて魅了されたのは、大学で日本文学を勉強した時にさかのぼる。現在よりもはるかに反日感情が強く、日本文化コンテンツの輸入さえ禁止された80年代の頃だ。太宰治、遠藤周作、夏目漱石、川端康成のような日本の近代作家と作品に魅了された彼女は、いわゆる「聖地巡礼」に旅立つことを決意した。まだ一般人の海外旅行が自由化されていなかった時代、平凡な大学生が日本に行く方法は、釜山(プサン)の日本領事館が主催した「日本語弁論大会」で入賞する道だけだった。

 「入賞者には1週間の日本旅行が副賞として与えられるということで、ものすごく必死に準備しました。どれほど繰り返し練習したのか、数十年が経った今でもその時書いて暗記した文章を思いだせるほどです(笑)」

 当時の日本旅行から受けた新鮮な衝撃は、後に彼女が安定した職場を辞めて、周囲の引き止めと心配を後にし東京大学で勉強する時間を選択することになるきっかけとなった。ところが、実際に日本に行ってみると、むしろ韓国文学が気になった。

 「韓国の近代文学に与えた日本文学の影響や相違性などを探求することに興味を感じました。その後は、権威ある芥川賞を受賞し日本の文壇の中心で注目される在日コリアン作家も気になりました。日本にも韓国にも完全には属せない自身のアイデンティティに激しく悩む彼ら彼女らの文学世界と作品を紹介したかったのです」

 在日コリアン作家の金達寿(キム・ダルス)、金石範(キム・ソクポム)から李恢成(イ・フェソン)、金鶴泳(キム・ハギョン)、李良枝(イ・ヤンジ)、柳美里(ユ・ミリ)に至るまで、これらの人々の文学の全般的な流れと特徴に光を当てたユ・スクジャ氏の著書『在日韓国人文学研究』(月印、2000)は、本格的な在日コリアン文学の研究書に挙げられ注目された。当時はなじみの薄かった在日コリアンの詩人の金時鐘の詩選集『境界の詩』(日本語版:藤原書店、2005・韓国語版:小花、2008)を初めて韓国語に翻訳し紹介したのも彼女だ。

7月14日、ソウル道峰区にあるウォンダンマウル韓屋図書館で会ったユ・スクジャ氏。彼女はたびたび美しい庭園があるこの韓屋図書館で翻訳作業を行う//ハンギョレ新聞社

 他の人が進まない道をさっそうと歩き、隠れた宝石を探しだす彼女の人生の態度は、翻訳家としての彼女の経歴にも表れている。1996年に翰林大学日本学研究所から翻訳依頼を受けた時、ユ・スクジャ氏は作家の未翻訳の代表作の代わりに、太宰治の最初の小説集『晩年』(小花、1997/民音社より2021年に完訳改訂版を出版)を自身の出版翻訳デビュー作に選んだ。「その後に展開される太宰治文学の特徴がすべて網羅されており、太宰治を理解するためには非常に重要な作品」だからだ。夏目漱石の多くの代表作ではなく『行人』(文学と知性社、2001)を韓国で初めて翻訳し紹介したこと、『雪国』でノーベル文学賞を受賞した作家の川端康成の独特の短い小説集『掌の小説1・2』(文学と知性社、2021)の出版のために努力したこと、先月出版された太宰治の『走れメロス』(民音社、2022)に収録する短編を特別に選んだことにも相通じる点だ。

 「韓国では『人間失格』があまりにも有名なので、暗く弱気な文学世界が太宰治文学のすべてであるかのように受け入れられる傾向があります。しかし、彼の15年間の文筆生活は、驚くほど多彩で深みのあるスペクトルを示しています。『走れメロス』は読者が『太宰治の作品というのは本当なのか』と感じるほどユーモアがあふれており、持って生まれたストーリーテラーとしての太宰治の魅力をたっぷり感じることができる短編集です。読者が日本近代文学をより身近に幅広く受け入れることができる作品を紹介する時、それが良い反応として現れる時、大変でも翻訳家として大きなやりがいを感じます」

 過去に一目ぼれした作家の太宰治を皮切りに、ユ・スクジャ氏の関心は今もなお「日本近代作家」にあるようだ。そのため障害となっている点は、「作家がみな故人なので、翻訳作業中に気になる点があっても直接問い合わせることができないこと」だ。作家をもっと深く理解するために、作家の故郷に旅行したり、文学館を訪ねたり、展示会などを可能な限り訪ね歩く。最新報道や関連研究書、論文などを取りまとめ把握した内容を読者と共有したいため、「作品解説」も情熱を込めて書く。そうするうちに、時には太宰治と打ち解け語りあう想像をすることもある。

 「聞いてみたいんです、本人の死に対する考えがどうなのか。体調は良くなかったとはいえ、『斜陽』が当時ベストセラーになり、新しい作品を意欲的に連載していた時期だったのです。でも、あえて何かを尋ねなくても、『舌切雀』に出てくるおじいさんとスズメの出会いのように、ただ並んで座って黙って微笑むだけでも十分です(笑)」

文・写真イ・ミギョン|フリーライター (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/1051956.html韓国語原文入力:2022-07-22 10:21
訳M.S

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