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世界を席巻した「Kクラシック突風」…その裏には韓国の英才教育システムが

登録:2022-06-21 06:28 修正:2022-06-21 08:46
韓国芸術総合学校などの芸術英才教育システム 
「徒弟式公教育機関、韓国が唯一」 
 
コンクール至上主義の副作用を警戒し 
優勝後の成長・発展のプランも考えるべき
ピアニストのイム・ユンチャンが米テキサス州フォートワースで開かれた第16回バン・クライバーン国際ピアノコンクール決選で、審査委員長のマリン・オールソップの率いるフォートワース交響楽団と共演している=フォートワース/AP・聯合ニュース

 まさに「Kクラシック突風」だ。最近2カ月間に開かれた主要コンクールで、韓国の演奏者たちが優勝トロフィーをほぼ「総なめ」した。

 今回イム・ユンチャンが優勝した米国のバン・クライバーン国際ピアノコンクールでは、2017年のソヌ・イェグォンの優勝に続く連覇だ。同じ国出身の演奏者が相次いで優勝の栄光を抱くケースは極めて稀であるため、圧倒的な実力が伴わなければ不可能な結果だった。それだけ今回のコンクールでイム・ユンチャンが披露した演奏は圧倒的だった。

 これは専門家だけでなく、クラシック愛好家たちの「熱狂ぶり」からも証明される。決選でイム・ユンチャンの演奏を聞いた聴衆は一斉に立ち上がり、拍手喝采を送った。決選舞台を生中継したユーチューブにはイム・ユンチャンの演奏に感動し、涙したという書き込みが多く寄せられた。イム・ユンチャンは世界のクラシック音楽ファン約3万人が参加したオンライン人気投票で最も多くの票を獲得し、聴衆賞も受賞した。世界的なクラシックスターが誕生した瞬間だった。

ピアニストのイム・ユンチャンが今月18日(現地時間)、米テキサス州フォートワースで閉幕した第16回バン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝した後、トロフィーを掲げている=バン・クライバーン財団・国際音楽コンクール世界連盟(WFIMC)提供//ハンギョレ新聞社

ピアノ、チェロ、バイオリン、声楽、弦楽四重奏を総なめ

 イム・ユンチャンだけではない。4日には「世界3大音楽コンクール」として知られるエリザベート王妃国際音楽コンクールで、チェリストのチェ・ハヨン(24)が優勝した。先月はバイオリニストのヤン・インモ(27)がシベリウス国際バイオリンコンクールで1位に輝いた。昨年も世界有数のコンクールで優勝の朗報が相次いで伝えられた。ピアノ分野で権威を認められているイタリアのブゾーニ国際ピアノコンクールで、ピアニストのパク・ジェホンが優勝した。ピアニストのソ・ヒョンミンとキム・スヨンもそれぞれドイツのボン国際ベートーベンピアノコンクールとカナダのモントリオール国際音楽コンクールで優勝した。

 入賞には至らなかったが、セミファイナルやファイナルまで進出した演奏者も多い。今回のバン・クライバーン国際ピアノコンクールでは、イム・ユンチャンをはじめキム・ホンギ、パク・ジンヒョン、シン・チャンヨンの計4人がセミファイナルの舞台に上がった。セミファイナルに進出した12人のうち3分の1が韓国の演奏者だった。エリザベート王妃国際音楽コンクールでも優勝者チェ・ハヨンの他にムン・テグク、ユン・ソル、チョン・ウチャンの4人が、12人の競うファイナルに進出した。ここ数年間、主な国際コンクールのセミファイナルとファイナルに進出した韓国人の数は、クラシック強国である米国、ロシア、欧州の演奏者より多い。

エリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝したチェリストのチェ・ハヨン=錦湖アートホール提供//ハンギョレ新聞社

 演奏者たちが躍進する分野も多様化した。ピアノやバイオリン、チェロだけでなく、声楽と弦楽四重奏部門でも1位に輝いたという知らせはよく聞こえてくる。昨年5月、弦楽四重奏団アレテ・カルテットがチェコのプラハの春国際コンクールで優勝した。16年ぶりに行われた弦楽四重奏部門の競演であり、さらに意味深かった。声楽分野も欠かせない。昨年6月、バリトンのキム・ギフンが英国BBC主催のカーディフ国際声楽コンクールで優勝した。大会のメイン部門であるオペラ分野での優勝だった。創作分野でも、昨年6月、作曲家のシン・ドンフンがドイツのベルリン交響楽団の与える「クラウディオ・アバド作曲賞」を受賞した。アジア人としては初めての受賞だった。

 このような国内演奏者の最近の大躍進は、世界で類を見ない独特な現象だ。今回のバン・クライバーン国際ピアノコンクールの司会者は、イム・ユンチャンについて述べる際に「韓国現象」という言葉を使って目を引いた。同じアジア圏でも、韓国は中国や日本より目立った成績を出している。エリザベート王妃国際音楽コンクールの中継を20年以上担当しているベルギーの公共放送RTBF所属のティエリー・ロロ監督は、韓国の演奏者たちが最近相次いで良い成績を出している秘密を探るため、数回にわたって韓国を訪問し、2本のドキュメンタリーを撮った。

シベリウス国際バイオリンコンクールで優勝したバイオリニストのヤン・インモ=錦湖アートホール提供//ハンギョレ新聞社 社

 このようなKクラシック突風の背景には「韓国流英才教育システム」がある。今年で開校30周年を迎えた韓国総合芸術学校(韓芸総)が代表的だ。イム・ユンチャンとパク・ジェホンは外国留学の経験なしにひたすら韓芸総だけで実力を磨いた。音楽コラムニストのイ・サンミン氏は「他の国も芸術専門の学校があるが、音楽の細部のディテールまできめ細かく集中的に研磨させる徒弟式の公教育機関はおそらく韓芸総が唯一だろう」と話した。

 文化体育観光部が韓芸総に委託して運営する韓国芸術英才教育院(英才教育院)も、韓国独特のシステムだ。Kクラシックのスターであるイム・ユンチャンやヤン・インモ、チェ・ハヨン、パク・ジェホンは、皆ここで教育を受けた。中等教育とは別に週末を利用して才能のある生徒たちを集中的に指導する所で、生徒たちはオーディションを通じて選抜される。イ・ソンジュ院長は「芸術の才能は幼い頃に早く見出し、集中的に訓練する過程が非常に重要だ」とし、「米国ジュリアード音楽院も傘下に英才教育院を別に運営している」と語った。ところが、 韓国英才教育院は文体部の傘下機関という点が違う。英才教育院は現在、ソウルのほかに、慶尚南道統営(トンヨン)と世宗(セジョン)にある。来年には光州(クァンジュ)でも開院する予定だ。

 イム・ユンチャンも英才教育システムの恩恵を受けた。7歳で「友達がテコンドーの道場に通っている間、何もせずにはいられなかったので、マンション近くの商店街にあったピアノ教室に通った」という彼は、小学校2年生の時、偶然芸術の殿堂音楽英才アカデミーの広告を見てオーディションに参加し、合格した。そのように入った音楽英才アカデミーで、後れを取っていた基礎を固め、着実に実力を積んでいった。13歳の2017年からは、韓芸総付設の英才教育院で、ピアニストのソン・ミンスに師事し、急成長した。彼は2021年に韓芸総に正式入学し、国内だけで着実に専門的な教育を受けている。

2015年錦湖英才コンサートのポスターに載った11歳のイム・ユンチャン=錦湖アートホール提供//ハンギョレ新聞

 保護者たちの献身と全幅の支援も主要な要素だ。世界10位の韓国の経済力も影響している。保護者たちの教育熱とこれを支える経済力が相乗効果を出し、高度な集中訓練が必要なクラシック分野で優れた成果を出しているわけだ。

 もちろんコンクール優勝の裏には暗い影がある。激しい競争は成績至上主義に流れやすく、「順位付け」が生む副作用も少なくない。一日中練習に没頭して圧迫感に苦しむ幼い演奏者たちの姿は、最近浮上したK-POPアイドルシステムを思い出させるほどだ。しかし、アルバム産業が急速に縮小する中、クラシック分野で名を馳せ公演の機会を得る足掛かりは、事実上コンクールしかない。だからこそコンクールは避けては通れない道だ。

 コンクール優勝以降も難関は存在する。優勝した直後には殺到していた国内公演の要請は、徐々に減っていく。その間にチョ・ソンジンなど世界的名声を得た数人を除き、新たにコンクールで優勝した演奏者が大衆の関心を独占する。国内クラシック音楽市場は、彼ら全員を受け入れるには狭すぎるからだ。供給は多いが、消費が足りない。イ・ソンジュ院長は「苦労して成就を遂げた演奏者が成長し続け、発展できる道を、国と社会がよりいっそう深く考えなければならない時期」だと話した。

イム・ソッキュ記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/culture/music/1047724.html韓国語原文入力:2022-06-20 22:31
訳H.J

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