12日午後3時、ソウル龍山区青坡路(ヨンサング・チョンパロ)の国立劇団ペクソンヒ・チャンミンホ劇場の座席は満席となった。朗読公演なのに、観客たちは110分間、息をひそめて俳優たちの声に耳を傾けていた。日本で好評を博した作品『逢いに行くの、雨だけど』(翻訳イ・ヘリ、演出イ・ヤング)は加害者の謝罪と被害者の許しを取り上げる。重いテーマだが、水彩画のように淡々とした筆致で、時には微笑を誘う。公演後に続いたオンライン対談で、日本の劇作家、横山拓也さんは「両国の政治状況と無関係な作品」だと説明した。
この公演は、今年で10回目を迎えた「現代日本戯曲朗読公演」の一環だ。13日には劇作家の谷賢一が2019年『福島三部作』として発表した作品の第二部『1986年:メビウスの輪』(翻訳:ソン・ギウン、演出:ブセロム)が披露された。作家が故郷の近くで発生した福島第一原発事故現場を自転車に乗って2年半にわたって取材して書きあげた作品だ。初日の11日には石原燃の『白い花を隠す』(翻訳:ミョン・ジンスク、演出:ソル・ユジン)が読み上げられた。2001年の「NHK番組改変問題」をもとに、「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷(女性国際戦犯法廷)」の証言台に立った日本軍「慰安婦」被害者たちの声に感化された人たちと、真実を隠蔽しようとする圧力の間で葛藤する人たちの姿を描いた作品だ。
両国の演劇人の交流が始まったのは2002年。以後、毎年韓国と日本を行き来しながら戯曲集を発行し、朗読公演を行ってきた。これまで10冊の『現代日本戯曲集』を発行し、日本の劇作家50人の作品50編を紹介しており、日本でも『現代韓国戯曲集』10冊を発行し、韓国の劇作家50人の作品50編を普及させた。両国の関係が冷え込んだ後も、交流は続いた。新型コロナの感染拡大を受け、(直接交流を)オンライン対談に切り替えた。「ブラックリスト」の影響で韓国文化芸術委員会の支援が途絶えると、韓日演劇交流協議会所属の演劇関係者たちが私費で費用を賄った。公共の劇場も公演場を無料で貸し出し、交流を後押しした。韓日演劇交流協議会副会長のイ・ソンゴン韓国芸術総合学校教授は「国際演劇交流の歴史で類を見ないほど活発で充実した作品交流を行ってきた」とし、「互いに対する信頼と尊重がなければ、実現できなかっただろう」と振り返った。
紹介された作品が、実際公演されたケースも多い。パク・ジョヨルの『呉将軍の足の爪』やチャン・ジンの『無駄骨』などが相次いで日本で披露された。2020年にはイ・ボラムの『少年Bが住む家』が日本文化庁芸術祭賞優秀賞を受賞した。日本の作品が国内に及ぼした影響も大きい。毎年数十本の日本作品が公演され、2000年代後半には「日本演劇ブーム」が起きた。穏やかで些細な日常の問題を捉え、繊細な心理描写と共に描いていく「静かな演劇」の流行も韓日演劇交流の遺産と言える。
最近、日本の作家たちが両国の近代史を題材とした作品を発表している点も目を引く。 劇作家兼演出家のシライケイタは2020年、詩人・尹東柱(ユン・ドンジュ)を題材にした『星をかすめる風』(原作=イ・ジョンミョン)に続き、先月には明成皇后殺害を扱った『ある王妃の死』を東京の舞台で公演した。イ・ソンゴン教授は「政治的メッセージをストレートに表す韓国演劇の特性が日本ではかなり新鮮に受け入れられたようだ」とし、「幽霊や死者など非現実的存在が現実に介入する『タイムスリップ』など、日本流の劇作技法が国内の演劇界にも影響を及ぼした」と述べた。
韓日演劇交流は転換点を迎えた。交流イベントをそれぞれ10回まで行うことにしたため、韓国で開かれた今回の「第10回朗読公演」を最後に第1段階の交流は終了する。しかし、これで終わりではない。韓日演劇交流協議会会長の演出家、シム・ジェチャン氏は「これからは新しい時代感覚と世代に合わせた交流方式を模索しなければならない時期」だと語った。韓日演劇交流協議会のクォン・ジヒョン事務局長は「双方がそれぞれ会長団の世代交代とともに新しい方向性と交流方式を協議していくことにした」とし、「日本はすでに新しい会長団を構成した」と伝えた。両国の演劇人たちの交流は、新しいトラックで続くものとみられる。