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[レビュー]家族という名の基礎疾患

登録:2021-02-06 09:56 修正:2021-02-07 12:25
精神科医が読み解いた、病院・治療監護所で出会った患者の心 
統合失調症・パニック障害・うつ病…症状は違ってもその礎には家族の存在 

『病名は家族』リュ・ヒジュ著、センガクチョンウォン刊、1万7000ウォン
『病名は家族』リュ・ヒジュ著、センガクチョンウォン刊//ハンギョレ新聞社

 「家族」ほど複雑な単語が世の中にあるだろうか。家族は生きるための最も確かな理由にもなるが、逆に生を抑圧し、最悪の場合は生きようとする意志をくじく最も脅威的な存在にもなる。『病名は家族』は、家族のこのような“二重性”に注目する。田舎町の精神科から治療監護所(国立法務病院)まで、さまざまな場所で心の苦痛を訴える患者に出会ってきた著者は、本を開いて単刀直入に聞く。「家族とは帰るべき場所か、足かせか」

 本書には「足かせ」として機能する家族を持った患者の事例が相次いで登場する。アルコール中毒、統合失調症、拒食症、うつ病、不安症、パニック障害…これらの疾患は、症状は異なるが「歪んだ家族」という土壌で発現したという共通点があった。

 チョルス(以下、全員仮名)は、母親にラーメンの湯をかけ、バットで腹部を殴って治療監護所に来た。二度目だった。チョルスは数年前、階間騒音に恨みを抱き、上階の住居者の車を壊して6年間治療監護所で過ごした。そして、退所3カ月後に母親に暴行を加えたのだ。チョルスの状態を鑑定するためにカウンセリングをしていた著者は、おかしな気配を見つける。チョルスは病棟内の「室長」まで務めるほど模範的だったにもかかわらず、罪(器物破損)に比べれば長く治療監護所にいた。当時チョルスを長い間見守っていた看護師の言葉が疑いを後押しした。「じつは、母親のほうが患者みたいでした。(…)精神鑑定を申請したのも母親で、(退所可否を決めるための)審査をずっと受けなかったのも母親だったんです」。キリスト教信者だった母親は、医者に祈りを求めたり、「治療が終わったかどうかは神が決める」と言い、治療にむやみに介入した。チョルスと彼の兄ヨンスをカウンセリングした著者は、チョルスの母親が小学生だった子どもたちに早朝の祈り、聖書の勉強をはじめ、毎日登校前に教会周辺のゴミ拾いまでさせるほど統制がひどかったという話を聞き「統合失調症にさせる母親」理論を思い浮かべた。不安で過保護で冷徹な母親に育てられると、子どもは統合失調症にかかる確率が高いという理論で、メジャーな理論でもなく攻撃も受けたが、著者はこの理論に残っている一抹の真実を慎重に提示する。「不安定な家族形態での養育は、統合失調症に脆弱な素因を持つ人には十分な発病原因になりうる」

元は日刊紙の編集記者であり精神科医の著者リュ・ヒジュは「不安とうつは実在する病気なのか、人間の本性なのか」を自らに絶えず問う=写真・ゲッティイメージバンク//ハンギョレ新聞社

 著者は、妻の家出で体重が30キロも減るほど激しいパニック障害に苦しむ「ジョン」と、名門大学出身の研究員で社会的成功は遂げたがうつ病と社会不安症に苦しむ「ジウ先輩」からも家族の暗い影を読み取る。「パニック障害はすべての種類の喪失と関係がある」ため、「ジョン」が経験した死の恐怖は配偶者の喪失からつながっている可能性がある。「今でも一番おいしいおかずは自分の前に持ってくる」自己中心的な父と「おまえを産むのをやめようと思った」と度々口にした母、ソウル大学出身の二人の姉の間で存在感を失わないために強迫観念のように行なってきた自己検閲が「ジウ先輩」の心を縛り付けた蓋然性も著者は指摘する。

 市中に精神科医が書いた本はかなり多いが、この本は「ハウツー」(how to)がないという点で区別される。著者は下手に傷を回復させる方法は語らない。その代わり、心の「恒常性」が崩れた多くの患者の心を解剖し、その礎に家族の存在があるということを静かに示してくれる。

チェ・ユナ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/981961.html韓国語原文入力:2021-02-05 09:40
訳C.M

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