「私たちは果たして北朝鮮の人々の顔をまともに見たことがあるだろうか。リソルが言うように、いつも苦しんでいる姿や硬くなった表情、貧しさで疲れ果てた顔だけを見てきたのではないか」
『平和へと続く写真旅行』はこのような質問から出発する。1998年から2003年まで写真記者として6回北朝鮮を訪れた著者のイム・ジョンジンさんは、これまであまり公開されなかった北朝鮮の“素顔”を10歳の娘リソルと読者に一枚一枚見せながら話しかける。
「平壌産院」(平壌の代表的な女性総合病院)で生まれたばかりの子供から、遠足に行って戯れる「乳児組-離乳食組-ご飯組」のいたずらっ子たち、アイスクリームをくわえて明るく笑う少女を通り過ぎて、川辺の公園で互いにいとおしい表情で見つめ合う恋人や、紅葉と酒に酔った赤ら顔の中年まで、彼のカメラは北朝鮮の人々の日常を優しく捉えている。近くで目を凝らさなければ、見逃すかもしれない美しさがそこにある。最初の訪問で「北朝鮮の人々の普段の姿を撮るから制止しないでほしい」と北朝鮮側と“談判”をしたおかげで、著者は被写体に自由に近付いて話しかけ、冗談を交わし、お酒も一杯おごってもらいながら北朝鮮の人々の生き生きとした表情をカメラに収めることができた。
「リソル、お父さんがこの前、北朝鮮の人々に対して狭い心を持っていると言ったこと、覚えているよね?」「うん。固定観念の別の言葉」「可哀想な人を見ると、気の毒な気がするけど、ずっとその姿ばかり見ていると、いつの間に私とは“違う人”に思えてくるからね」
北朝鮮の人々の笑顔が非合理的な体制を隠ぺいするのではないかと、警戒しながらページをめくっていた読者でも、ヒューマニズムに基づいた著者の落ち着いた説明を聞くと、いつの間にか写真の笑顔につられて微笑むようになる。