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[インタビュー]「学術出版は厳しいが、結局、いい本は売れます」

登録:2017-06-16 03:47 修正:2017-06-17 07:06
馬場公彦・岩波書店編集局部長 
 
ソウル国際図書展に参加した100年伝統の出版社 
「日本も学術書籍では生存が難しい 
学問間の融合講座シリーズを作るなど 
企画・編集の力で危機を乗り越えていく」
日本を代表する出版社「岩波書店」編集局の馬場公彦部長=キム・ジョンヒョ記者//ハンギョレ新聞社

 学術書籍の場合、初版1000部を超えられない、真面目な本の“砂漠化”が進んでいる韓国。似たような現象を経験している日本ではどのようにこの危機を乗り超えているのだろうか。

 100年伝統の岩波書店は日本の知性と良心を象徴する代表的な出版社に挙げられる。日本の出版業界では「哲学は岩波、文学は新潮社、社会科学は改造社」と呼ばれている。岩波書店は1913年に創業して今年3月まで3万3千種の本を発行しており、年平均約450種(雑誌を除く)の本を出版する総合出版社だ。創業者の岩波茂雄が東京帝国大学哲学科出身の人脈を利用し、哲学者たちの本を出版し始めた伝統を受け継いでおり、日本の総合出版社の中では哲学に最も強い。日本の世界的な哲学者の柄谷行人の『トランスクリティーク:カントとマルクス』、『哲学の起源』など哲学著述の大半も、岩波書店が出版している。

 12日、ソウル三成洞(サムソンドン)のコエックスで、ソウル国際図書展での講演のため訪韓した馬場公彦・岩波書店編集局部長に、ベク・ウォングン「本と社会研究所」代表と共に会った。彼は1989年に岩波書店に入社し、雑誌「思想」と「世界」の編集者を務めた。

 岩波書店は韓国の民主化と韓日関係の発展にも一翼を担ってきた。「世界」は1973~1988年、池明観(チ・ミョングァン、当時の筆名はT・K生)の「韓国からの通信」を連載し、世界に韓国民主化闘争を伝えた。1991年に日本軍慰安婦強制動員被害者ハルモニ(おばあさん)の故金学順(キム・ハクスン)さん(当時67歳)の証言を初めて報じ、最近、日本の右翼から捏造記事だと非難された元朝日新聞記者の植村隆氏(カトリック大学招聘教授)が書いた『真実:私は「捏造記者」ではない』も岩波書店から出版された。馬場部長は日本の嫌韓・嫌中の動きについて「目をそらしたい現実だ。そのような本が歪曲している現実の中で、正しい歴史が書かれた本を出版している」と話した。

 日本も出版事情が厳しいのは(韓国と)変わらない。1990年代末をピークに下落を続けている。学術教養書の場合、初版を3000~5000部印刷するが、これは20年前に比べて半分程度に過ぎない。1年以内に2刷以上になる人文分野の本は20%に止まっている。馬場部長は「日本も韓国のように学術出版は部数も多くなく、厳しいのは同じだ。小規模出版社の場合、政府や財団の出版支援金なしでは生存が難しい所も現れている」と話した。

 岩波書店では過去に出版された本を電子書籍にして学術データベースを作成する作業に注目しているという。1921年に創刊して100年近く発行されている「世界」を電子書籍に変えてデータベース化すれば、この期間の思想と時代の変化を抽出する「テキストマイニング」(text mining)が可能になるということだ。例えば「祭り」や「福祉」など特定の言葉がいつから使われており、いつ集中的に使われたのかなどを統計化することができる。

 馬場部長は「互いに閉ざされていた学問分野間の交流を促進し、共同作業を作り出す『岩波講座』シリーズが出版社の企画・編集の力を示してくれた」と話した。 「トマ・ピケティの『21世紀の資本』や柄谷行人の著書などは高価でありながら、かなり売れた。結局、重要なのは本の内容」だと語った。

キム・ジフン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/799052.html 韓国語原文入力:2017-06-15 21:11
訳H.J(1684字)

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