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[ハンギョレが会った人] 「ニューメディアは出版の救世主ではない…紙の本が依然として知識社会の中心」

登録:2013-10-28 20:49 修正:2014-09-05 20:48
‘100周年’岩波書店 岡本社長
岡本 厚 岩波書店(出版社)社長は、ニューメディアが登場しても本は依然として知識社会の中心であり、紙の本は未来にも生き残るだろうとし、自身の任務をこのように要約した。 "岩波書店を維持、発展させながら、出版界を活性化してさらに多くの人々が本を読んで教養を深化するようにすること、そして岩波書店の存在感を一層高めること。" カン・チャングァン記者 chang@hani.co.kr

日本の岩波書店が今年で創業100年をむかえた。 1913年8月、東京神田区(現 千代田区)神保町で古本屋として出発し、本と近代的教養の大衆化の先頭に立つ進歩的自由主義指向の岩波書店は、今までに3万5000種の本を出版し今も毎年600余種の本を出す日本の代表的出版社だ。

 「出版社はその規模や読者数を見ても、他のメディアと比較して決して大きいものではない。 しかし問題に深く食い込み真実を歪曲せずに伝えようとする態度だけを大事にしてゆくならば、社会を変える大きな力を持っていると信じる。」 今月初め京畿道(キョンギド)坡州(パジュ)出版都市で本の祭‘ブックソリ’に合わせて開かれた国際出版フォーラムに参加した岡本厚(59)岩波書店第6代社長は、出版業と紙の本の影響力は以前と同じではないが、依然として知識・教養の中心にあって今後もそれは変わらないだろうと見通した。 彼は早稲田大でフランス文学を専攻して1977年に入社し、1996年から昨年4月までの16年間にわたり岩波が出す月刊<世界>編集長を務めた後、今年6月から社長職を遂行している。 毎年2~3回程度訪韓するという彼は、この頃の韓-日関係に憂慮を表明しながらも未来を楽観した。 出版フォーラム期間のインタビューに続き、今月15~17日に交わした電子メールに基づいて整理した。

インタビュー/ハン・スンドン記者 sdhan@hani.co.kr

-日本大衆の知的・精神的生活に岩波書店が及ぼした影響力は莫大だった。 東アジア次元でもその存在感は小さくなかった。 岩波100年の意味を話すならば?

"近代という時代は出版なしでは不可能だった。 ‘出版資本主義’という言葉さえあるほどだ。 岩波書店もその一翼を担ってきた。 岩波書店は日本大衆の知的関心に応じて、その教養を支えながら近代日本の知的基礎を形成してきたと言える。

 しかしテレビが広く普及して大多数の人々がインターネットを利用するこの時代に、出版は多くのメディアの内の一つになり影響力も相対的に減った。 岩波も同じだ。 だが、それでも出版の意味が消えたわけではもちろんない。 むしろ精製された思想、表現を読者に伝達するのは出版でなければ不可能だ。 そして本を読まない世代は自己形成力が弱まる。 本の機能は今後むしろ次第に再評価を受けることになるのではないか。"

-日本には岩波の他にも100年を越える歴史を持つ出版社があるか?

"幾つもある。 講談社,有斐閣,新潮社等が100年内外の歴史を持っている。 最大の出版社は講談社だ。 職員が2000人だ。 次いで小学館だ。 日本の外では岩波が日本を代表する出版社だが、内ではそうではない。"

原発事故 倫理的論議など
売れなくとも必ず出さなければならない本は出版
出版人の義務であり生き残れる方法

-岩波を簡単に紹介するならば? 商業主義側に伸びた出版社と岩波とは違うと言われるが。

"売上規模で見れば岩波は10~11位程度になるだろうか。 アマゾン書店集計基準で、10位前後だ。 だが、売上額のうち相当部分を受験生対象書籍の販売が占めている他の大型出版社と岩波とは違う。 岩波の職員は200人を若干下回る。 年間600種程度の本(雑誌を除く)を出しているが、多方面にわたる本を等しく出している。 他の出版社はほとんど手を付けない個人全集、作家全集も相当数出している。

 人々が必ず読まなければならない本を出すことが私たちの仕事だ。 例えば原発問題は福島原子力発電所事故以後、今も現在進行形だ。 問題解決に100年、いや1000年かかるかも知れない。 海洋の大規模核汚染は人類歴史上初めての出来事だが、今後どのように生きていくべきなのか? そのような問題意識を扱った本を出してみても、何百冊売れるかだ。 だがそれでも出さなければならない。 そのような本を出さなければ、出版業をする意味がない。 そしてそのようにしなければ生き残ることもできないだろう。

 岩波は1927年に‘岩波文庫’を創刊した。 日本と外国の古典を安価で普及させることによって文化の大衆化に寄与した。 現実的な課題に対応するために1938年から始めた‘岩波新書’も、今日多くの出版社が出している新書の嚆矢だった。 他の大型出版社が面白さ中心の本側に行ったのに比べ、岩波はもう少し知的なもの、学術的なものを重視しつつも大衆が接し易くする、高級知識の大衆化に大きな貢献をした。"

-岩波を代表するに足る本を挙げるならば?

"最近出た新書の中に300万部以上刷られたものもある。 永六輔の<大往生>がそれで、<日本語練習帳>も150万~200万部程度が出て行った。 岩波の本はステディセラーが多い。 出版して5~10年を経て累積販売量が50万~300万部に達する本が多い。 岩波の初めての文学作品 夏目漱石の<心>は、今まで100年間 文庫、新書として発行されたものまで含めて1000万部以上が販売された。 トルストイやドストエフスキーなど、海外古典も相当数が長期セラーだ。

 1955年に初版が出た日本語と百科事典を合わせた辞典<広辞苑>もたくさん売れた。 今は電子辞典形態で多くが出て行くが、紙の辞典も依然としてたくさん売れる。 10年ごとに新たに印刷するが、2008年に出た第6版も100万部売れた。 紙の辞典販売が今はちょっと減ったが、ニューメディアの影響を大きく受けてはいない。 スマートフォン用アプリケーションも出ている。"

-小説家 夏目漱石(1867~1916)の発掘が岩波の大きな業績であり、成功の秘訣と言われているが。

"そうだ。 初めて古本屋(新刊も共に販売)を出した当時、漱石は人気流行作家で、<朝日新聞>の専属作家であった。 朝日に連載された<心>を見て、創業者の岩波茂雄が直接彼を訪ねて行き、出版をお願いした。 その時、漱石はその本の出版費用を自分で賄い、表紙の絵も装丁デザインも自分で直接行った。"

‘出版界の危機’世界的傾向
人権など近代価値を共有し
知的基盤が崩れないよう
全世界的運動を繰り広げるべき

-雑誌も多数出している。

"<世界>、<思想>,<科学>,<文学>等の雑誌も出しているが、それ自体では利益が出ていない。 だが、雑誌の発行は出版社として一種の義務であり、投稿者と作家に紙面を提供する仕事だ。 そこから新書や文庫などの本も出てくる。 雑誌は著者と編集者のトレーニング コースであり、企画の訓練場でもある。"

-岩波100年記念 企画出版は?

"今年前半期に<岩波講座 日本の思想>を出し始めた。 20冊を超える<アリストテレス全集>の刊行も始まった。 以前に出したことがあるが、今回翻訳を完全にやり直した。 マニアは好むだろうが、購入者は多くないだろう。 だが、このような作業を通じて知的基盤を固めることは、出版社の義務であり出版の底力、岩波の底力を見せるという意味もある。 22巻の<岩波講座 日本歴史>も11月中旬から順次発売される。 西洋と中国 韓国の人物、そして作品中の架空の人物まで含めた分厚い<世界人名大辞典>も12月に出版される。 10年前から準備してきた二巻ワンセットだが、執筆者だけで800人に及ぶ。 日本の人名辞典の中で韓国,中国の人物を最も多く含む辞典になるだろう。"

-韓国は今出版分野の事情が難しい。日本は?

"そのような事情は読書人口の低下とともに世界的な傾向だ。 日本も同じだ。 日本の出版は1996年に本と雑誌の総売上額(漫画を含む)が2兆3000億円だったが、最近は1兆8000億円水準に減った。 このような傾向が止まっていない。 韓国もそうだとは知らなかった。 米国、ヨーロッパもかなり厳しい。 大型出版社の合併、有名出版社の倒産の便りも聞いた。 この憂慮すべき事態を阻止しなければならない。 思うに、知的基盤を拡充する道以外には方法がない。 知的基盤が崩れないよう世界次元の運動を繰り広げなければならない。

 近代の到来はグーテンベルク以来、活字があったために可能だった。 ポストモダニズムが語られているが、まだ近代は完成していない。 人権など近代的価値に対する共有は依然として未完の状態だ。 この近代的価値が消えるまで放置してはならない。 出版だけでなく、新聞もまた読者が減っている。 一緒に悩まなければならない。"

-もう少し具体的に言うならば?

"重要なことは、やはり内容(コンテンツ)だ。 読みたいこと、見たいことをどのように作り出すか、ここに死活がかかっている。 映画にしても斜陽化の話が多いが、宮崎駿監督のアニメーションは大きな成功を収めている。 本も同じことではないかと言える。 おもしろくて楽しくて有益なもの、意味があるものを作り出さなければならない。 電子書籍はまだそのような傾向を阻止したり状況をひっくり返すほどの変数にはならない。"

-内容さえ良ければ売れるという話は、ニューメディアの影響力は今後も制限的だと見るという意味か?

"もちろん映画もそれが唯一の娯楽だった時代よりは難しいかもしれないが生き残ったし、良い映画には多くの観客が集まる。 本、出版も同じだ。 読者数は減っても依然として良い本を出せば必ず売れると考える。 インターネット、スマートフォンなどとは異なる方式で楽しみをプレゼントする。 共存して行くのではないだろうか。"

-紙の本も生き残るだろうという話か?

"そうだろう。 常に先んじる新しい媒体が現れるが、読まれるかはまた別の問題だ。 ニューメディアが大きな影響を与えはしないだろう。 それが(出版不況の)決定的な理由ならば、同じコンテンツでも媒体だけをニューメディアに変えればたくさん売れる筈だが、そうではないではないか? ニューメディアが出版の救世主ではない。 紙は生き残る。 ニューメディアの場合、新しいバージョンが出てくれば以前のバージョンは効果がなくなる。 重要なものであるほど紙の本にする他はない。 電子ブックの場合、8割が漫画だ。"

-岩波は創業時から現在まで定価販売をしてきたし、価格割引もしなかった。

"日本では全部が定価制だ。 政府の文化政策もそちら側の方向だ。 自由競争と割引販売を許容すれば、相対的に文化の恩恵をあまり受けない田舎が本をより高価で買うことになる。 新聞も同じだ。 政治家たちも全国単一定価制を支持している。 電子ブックは定価の対象ではないが、岩波は電子ブックも紙の本と同じ価格にしている。 アマゾン キンドルを通じて米国で買えば5%安く買えるが、これが今日本で論議の的になっている。"

https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/608841.html 韓国語原文入力:2013/10/28 19:16
訳J.S(4763字)

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