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"安倍の日本、軍国主義に駆け上がった1920~30年代 圧縮的再現を憂慮"

登録:2013-01-28 21:10 修正:2013-01-29 09:54
[ハンギョレが会った人] 姜尚中(カン・サンジュン) 東京大教授
25日、2泊3日の窮屈なソウル滞留日程を割いてハンギョレ新聞社を訪れた姜尚中(カン・サンジュン)東京大教授。 彼は1923年関東大震災後、7~8年にわたり軍国主義・侵略主義に上り詰めた敗戦前の日本の状況が安倍政権が再び登場した今、1~2年間で圧縮的に再現されるのでないかと憂慮した。 キム・ポンギュ記者 bong9@hani.co.kr

 姜尚中(63)東京大教授に初めて会ったのは1998年5月だった。 その前月の4月から彼は韓国国籍の在日同胞としては初の東京大正教授になり、韓国の新聞としては<ハンギョレ>と初めてインタビューを行った。(‘ハンギョレが会った人’ 1998年5月11日付)東京大社会情報研究所教授(大学院)であった彼の専攻分野は、日本近代と植民地支配の歴史であり、特に日本の朝鮮・朝鮮人に対する差別の根源糾明が彼の中心研究主題の一つであった。 同じ年に東京特派員生活を始めた記者はその時、東京大を訪ねて行き冷戦体制の解体とほとんど同時に訪れたバブル経済崩壊後の長期不況に苦しんでいた日本の将来に対して尋ねた。 彼の返事はこうだった。

 「今、経済的にかなり難しい状況に置かれた。 エリートたちは破産し、第2の対米敗戦という意識が強い。 軍国主義化の恐れがあるが客観的に実現可能性は殆どない。 今後、日本が現在の経済的地位を維持することは難しいだろう。 グローバルスタンダード(国際標準)を要求する状況では、過去の護送船団方式の国家運営も難しい。 …米・中が東アジア情勢変化を主導し、韓国・日本は相対的に弱体化されている。 …双方の協力関係構築に有利な局面だ。 日本は政治的にも大きな枠組みの戦略がない。 官僚らが外交を受け持っているためだ。 政界が握っている韓国は違う。」

 15年が過ぎた今、姜教授は助教授時期まで含めれば16年間在職した東京大を去る。 来る4月から東京近隣の埼玉県上尾市にあるキリスト教系ミッションスクール聖学院大学へ席を移す。 25日、彼と今度はソウルで会った。 全方向にわたる発言で学者としては日本社会でも珍しい大衆的人気と影響力を確保した彼は、日本が15年前よりはるかに難しい状況に直面しているとし、それが東アジア全体に及ぼす否定的な波及効果を強く憂慮した。 韓国・日本の協力の展望もより一層暗くなり、希望は依然として韓国側にあると彼は語った。

 24日から自身の本の出版関連行事で2泊3日日程でソウルに留まった姜教授に本の出版と定年まで2年を残して東京大を離れる事情、自民党の安倍晋三再執権が象徴する日本の情勢変動の意味などについて尋ねた。

インタビュー/ハン・スンドン文化部記者 sdhan@hani.co.kr

-今年は初めての訪韓でしたね

"そうだ。 昨年も3~4回ソウルに来たが、主に本の出版と関連したことであったし、今回も昨年11月に翻訳出版された<生きなければならない理由>(四季)と関連した講演とイベント行事に参加した。"

-今回の本に対する反応は?

"韓国で今までに1万5000冊程度が出て行ったと聞いた。日本では20万部程度売れた。"

-東京大を去られると聞いた。

"昨年にそうしようと決めた。 東京大は日本最高の大学だが、そこでは私の身分が公務員なので発言に制約もあって、難しい面がある。 もう少し自由に発言して活動したいと考えた。 聖学院大学に行くが、統一部長官を務めたカン・インドク氏も特任教授として行っている。"

-韓国では良く知られていない大学だ。 縁があったのか?

"東京と近い埼玉県上尾市にあるが、私が洗礼を受けた教会がその上尾にある。 そのためか聖学院大学が私を3度も呼んで講演会を催してくれた。 それも縁と言えば縁だ。 聖学院大学は20年の歴史を持っているが、幼稚園から高等学校まで包括する学校法人としては100年を超える長い歴史を持っている。"

-いつ移るのか? また、どんな仕事を引き請けることになるのか?

"4月1日からだ。 1年間は‘全学教授’として細かい日常業務の負担から外れ、学校全体に寄与する役割を受け持つことになる。 まずその大学の知名度(認知度)を高め、学生たちに細かいところまで配慮の手を伸ばす指導教授の役割をするようだ。"

日本、1923年関東大震災以後
金融恐慌で破産直前に追い込まれ
軍部勢力拡大→侵略主義が広がった歴史
今の状況と重なる面が多い

-東京大にはどれくらいいたか? 所感は?

"1997年からなので16年間だ。東京大は日本の心臓部、頭脳のような所だ。 官界と学界、経済界、言論界の分野で日本を動かすパワーエリートを輩出している。 そこにいたために私立大だったら分からないそのようなメカニズム、国家との関係、彼らが何を考えているかなどを知ることになった。 それが成果とも言える。 そして東京大は教授を含めて優秀な人材が多いが、そのためか現実を新しく変えようとする気勢が芽生えにくいということも感じた。"

-今回の本<生きなければならない理由>で、自ら人生を終わらせた息子さんの話をしたが、命を捨てる程に深刻だった彼の悩みは普遍的・存在論的な悩みだったか、あるいは在日同胞という出生と関連した悩みであったか?

"一言で言えば、治癒が難しい極度の神経症のためだった。 人間は普遍的存在論的悩みと歴史的個別存在としての個人的悩みを同時に持っていて、その二つは密接にからまっていて分離できない。 根本的には神経症のためだ。 胎生的な神経症の苦痛から抜け出せなかった。"

-本で米国の心理学者ウィリアム・ジェームズの話をしながら「人は生死の境をさ迷うほど心の病に罹ってしまってから、はじめて世界の新しい価値とかその時までとは違う人生の意味のようなものを捉えることができる」という‘生まれ変わり’について言及したのは、そのことと関係がなくはないだろう。

"息子のことで私は個人的にも生まれ変わらなければならないと考え、3・11大地震と福島原発事故災害以後 日本社会も生まれ変わらなければならないと考えた。"

安倍、7月参議院選挙に勝利すれば
憲法修正などレジーム チェンジ本格化
独自対北韓制裁強化に乗り出すだろう
韓・米・日-北・中 対峙 新たな冷戦危険

-去る総選挙で自民党が圧勝した。 安倍の再執権を‘日本の自殺’と酷評する視線もあるが。

"圧勝は予想の範囲内だった。 注目すべきは、安倍が繰り返し‘レジーム チェンジ’(体制改造)を強調している点だ。 これはもちろんジョージ・ブッシュ米国大統領がイラク侵攻の時に言った言葉だ。 北韓に対してもそうだし、日本でも北のレジーム チェンジを一貫して主張してきた。 安倍のレジーム チェンジは日本の戦後体制を変えるということだ。 日本銀行に金融緩和を強要しているが、安倍は経済分野から社会・政治・文化分野にレジーム チェンジを拡大して行くことが明らかだ。 しかし、日本の一般国民がそれを必ずしも支持しているわけではないと見る。 注目しなければならないのは3・11事態まで重なったが戦後(第2次大戦敗戦後)日本が今まで積み上げてきたこと、その土台自体が揺れているという事実だ。 これと関連して私が思い出すのは、1923年の関東大震災以後の日本で展開された歴史的事件だ。 関東大震災後の1928~9年‘昭和恐慌’と呼ばれた金融恐慌が襲った。 続いて1929年にはニューヨーク証券市場の暴落と共に世界大恐慌が起きた。 日本経済は破産直前まで追い込まれ、結局 満州侵略と軍部の台頭、そして日本国家改造(軍国主義化)に進んだ。 私はその時の7~8年間にかけて進行された状況が、今1~2年間に圧縮的に再現されているのではないかと心配している。 安倍はヨーロッパのNATOのように米国との同盟を通じて日本自衛隊が正式軍隊として海外に派遣されうる‘普通国家’を作ろうとしている。 彼は米軍占領下で制定された憲法とそれが作り出した意識自体を変えようとしている。 言ってみれば戦後体制と決別した新しい日本国家を作ろうとしている。 日本の一般国民がそこまで考えているかはよく分からない。"

-安倍の試みは成功するだろうか?

"去る総選挙で安倍が得た票は全有権者の25%、4分の1程度にしかならなかった。 60%を下回るほど投票率は低かったし、 自民党は比例代表では力を入れられなかった。 自民党は当選者一人だけを選ぶ小選挙区で勝ったおかげで、議席数で圧勝した。 国民全体からの得票数で見れば圧倒的勝利ではなかった。 その点を自民党はよく知っているだろう。 安倍のレジーム チェンジ構想が成功するかどうかは、これから来る7月の参議院選挙を見守らなければならない。 安倍はその時までは本格的にレジーム チェンジ構想を持ち出さないだろう。 今はまず急がれる経済再生に集中している。 参議院選挙も勝つならばそれは変わるだろう。 だが、そうした時も安倍が公約した日本経済の安定化と成長は容易なことではないだろう。 日本の財政赤字が国内総生産(GDP)の2倍にあたる1000兆円に達するなど困難が多い。 安倍が推進している金融緩和政策は国際的反発と共に通貨戦争を誘発するかも知れない。 日本国内の市場反応も期待ほどに良くない。 万一、経済再生に失敗すれば破局が訪れて来るだろうし、安倍政権も短命に終わるだろう。"

韓国 民主化勢力の大統領選挙敗北は
分断国家という環境影響が大きい
保守市民結社・保守言論影響で
市民社会の性格も変わった

-安倍政権が成功しようが失敗しようが、日本は東アジアの不安定を増幅させるだろうという展望が多い。

"安倍は連立政党である公明党の代表を中国に送り、日-中和解を演出しようとした。 だが、尖閣列島(釣魚島)を巡る領土問題のために両国関係は順調には行かないだろう。 偶発的衝突の危険とそれによって戦争まで進むかもしれない統制不能状況に駆け上がる可能性も排除はできない。 日本は一方では米-日同盟により一層寄り添いながら、中国にはより一層強硬な姿勢を取るだろう。 安倍は韓-米-日 三角同盟体制を強化しつつ、韓国がその一つの軸を担当することを願うはずだが、韓国としてはそれをそのまま飲むことにはならないだろう。 安保は米国、経済は中国、この二つの輪で回っていくべきだということには韓国内の保守・進歩共に意見が一致しているのではないか。 対北韓政策は、安倍が対北韓強硬策で自身の知名度を高めてきた人物であるだけに、国連安全保障理事会の制裁以上に独自制裁を強化しようとするだろう。 そうなれば、ややもすると北韓-中国、韓-米-日が対立する新しい冷戦が再演される危険性もある。"

-なおさら韓国の役割が重要だという話があって、姜教授も普段からそうした点を強調してきたが。

"セヌリ党勝利の原因は様々だが、その一つは結局民主化勢力の敗北それ自体ではないだろうか。 韓国は市民社会が活発で日本に比べて野党もはるかに存在感があったのに失敗した。 なぜそうなったのだろうか。 やはり分断国家という条件による限界を先に挙げなければならないだろう。 そして市民社会の性格が変わった点も影響を与えたのではないか。 軍事政権時期には国家と市民社会という対立軸が形成されたが、民主化以後には保守側市民の対抗結社も生じながら対立軸が市民 対 市民の構図に変わった。 特に今回は(保守一辺倒の)言論の役割も非常に大きかったようだ。 だが、韓国人には自ら民主化を勝ち取った記憶が鮮明にあり、、日本に比べて反動に対する抵抗力も強い。 依然として期待できるし、そのような韓国の情勢は日本にも少なからぬ影響を及ぼすだろう。"

-安倍政権の登場で姜教授個人の事情も影響を受けるか?

"安倍個人の指向とも関連があるが、メディアの動向に強く気を遣うだろうし監視が強化されるのではないだろうか。 有形無形の介入があるだろう。 そのような管理体制下でメディアは自粛しつつ萎縮せざるを得ないだろう。 結果的に私個人のメディア活動範囲も大きく狭まるのではないか。"

オバマ2期は最強のリベラル政権
北核脅威、米との直接交渉を意図がある
東京大教授は公務員なので発言に限界
聖学院大学で自由に活動する

-安倍の再執権は米国のような保守両党制が日本にも定着しつつあるという意味があるとか。

"米国の共和-民主両党制とは違う。 米国の両党制は今オバマ大統領が代表するリベラル勢力も含んでいるが、日本では中道リベラルがほとんど解体状態だ。 極右政治家たちも多い。 民主党中道派勢力が再び力を得られない限り、日本はガリバーのような巨大保守政党体制に進むだろう。 米国はオバマ2期政権就任演説で強いリベラル姿勢を取ったが、それが本心であるようだ。 ジミー・カーター政権以上に強い、歴代最強のリベラルだ。 国内的には福祉拡充、対外的にはブッシュの時のように軍事力を前面に押し出した力よりは平和・協力主義を強調する側に切り替えるのではないだろうか。 そうなるとオバマと安倍の関係は大きく擦れ違うことになる可能性がある。 米国は今まで東アジアに積極的に介入して問題を解決する意志を見せなかった。 ヒラリー・クリントン長官の意向も作用したのかも知れないが、1期政権時は6者会談も中国に任せて韓国政府優先の立場を堅持した。 ところで2期はちょっと変わるのではないだろうか。 北韓が国連制裁に対して過敏な反応を見せるのも、オバマ2期政権のそのような変化の可能性を念頭に置いて米国との直接交渉を誘導しようとする強力な信号と見ることもできるだろう。 万一、オバマ2期政権がそれに応じるならば状況が変わることもあると見る。"

-3・11大地震以後、日本は一時 脱原発側に行きそうだったが、今はそうではないようだ。

"その時、2つの可能性があった。 市民社会側が力を得て脱原発側に、国家掌握力が弱い自然(再生)エネルギーで行くこと。 そしてもう一つは関東大震災以後の流れのように再び国家主義側に旋回すること。 去る総選挙以後、後者側に確実に傾いている。"

-去る大統領選挙の結果で心を病んでいる韓国人が多い。 ヴィクトル・ユーゴーの<レ・ミゼラブル>が人気を得ているのもそうで。

"文字どおり希望の芽が折れたことから来る悲惨と無情。 それが世界の姿だ。 韓国は1997年外国為替危機以後、社会が途方もない速度で変化しながらその影響と波紋がより大きく作用しているようだ。 特に若年層に希望を持てと言いにくい、それこそ‘ミゼラブル(悲惨)な’状況だ。 ダンテの<新曲>地獄篇に出てくる "この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ" のような状況というか。 だが、だからと言って生きられない状況ではない。 未来は神のみぞ知る。 今世界の最高パワーエリートも分からないことは皆同じだ。 私たちは結局、食べて飲んで人々と付き合って生きながら、その意味を探さなければならない。 未来を心配するのは当然だが恐れをなす必要はない。 今、現在、最善を尽くせば良い。 毎日毎日熱心に生きながら意味を訪ねて行くことが重要だ。"

https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/571529.html 韓国語原文入力:2013/01/27 20:23
訳J.S(6421字)

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