「もっとも重要なのが理念」と述べ、旬の過ぎた反共理念政治を2023年に前面に掲げる尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の姿勢の背景については、様々な解釈が示されている。
国民統合という責務を放棄してしまった尹大統領の「分断」メッセージは、積極的支持層を除いた国民の多くに背を向けさせる分裂、対立助長行為だ、というのが多数の評価だが、尹大統領の口は気にしていないし、ためらいもない。
「自由主義」を基礎とする尹大統領の長年の信念、独断的なキャラクター、ニューライト系列で占められる内閣と参謀陣の構成、政治の両極化という張り詰めた状況などがその理由として指摘される。
尹大統領の反共主義基調はこのところ増幅している。15日と29日の公開メッセージがこれを示している。
「共産全体主義勢力は常に民主主義運動家、人権運動家、進歩主義行動家に偽装し、虚偽扇動と下品で破倫的な工作を事としてきた」(光復節祝辞)、「共産全体主義勢力、その盲従勢力と日和見主義的追従勢力はでっち上げ、宣伝扇動によって自由社会をかく乱する心理戦を事としており、決して止まらないだろう」(民主平和統一諮問会議の幹部委員との統一対話)。行間からは彼の「理念政治」をよりいっそう鮮明にするという意志が読み取れる。国民の力のある議員はこれについて「政界入り時は中道に見えたが、次第に極右化している」と述べた。
実は、尹大統領の「反共主義」認識は政界入り初期にもあらわになっているが、今ほど露骨ではなかった。2021年に検察総長を辞任し、政界入りを宣言した彼は、共に民主党の主流だった運動圏に対する怒りを政界入りの動力とし、「国民略奪政権」、「独裁と専制を民主主義だと語る扇動家たちと腐敗した利権カルテル」(2021年6月の政界入り宣言記者会見)のような敵意に満ちた言葉でそれを表出している。
しかし政権発足から1年を経て、保守支持層のみに対するものではなく国民全体に対するメッセージにおいても、このような基調はより強まっている。政権担当2年目の大統領の自信、または使命感の表れ、だというのが与党内部の解釈だ。
与党の関係者は30日、ハンギョレに「1年間にわたって各分野の国政を見てきた結果として、あのようなメッセージが発せられた」、「大統領として国をこのままにしておいてはならないという考えが強く刻まれたもの」と説明した。この1年間での頻繁な北朝鮮の武力示威、貨物連帯のストライキ、労組連係疑惑が提起された「昌原(チャンウォン)スパイ団事件」などを確認したことが「反共主義」を前面に掲げる引き金になったというのだ。
尹大統領はすでに就任演説で「自由」、「自由民主主義」を最高の価値および体制として強調しているが、それは多様性や包容性を含むものというより、「共産全体主義」の対立軸としての偏狭な自由または自由民主主義だということが、ますます明らかになってきている。
大統領を補佐する内閣と参謀陣の構成、大統領自身の独断的な個性が、尹大統領の理念政治傾向を強めている、という分析もついて回る。この日、政界の重鎮、ユ・インテ元国会事務総長はCBSラジオのインタビューで「あの歳になってニューライト意識化したのではないか。そもそも歳を取ってからなった方が情熱的」、「それなりに頑張ろうとしているのに支持率が上がらないことに対する恨みが混ざっており、その恨みが『自分を支持しない奴らは反国家勢力なのではないか』、このようなもののようにみえる」と語った。
実際に、イ・ドングァン放送通信委員長、キム・テヒョ国家安保室第1次長ら、李明博(イ・ミョンバク)政権時代の参謀陣を多数重用している尹大統領が、ニューライト系の主張を積極的に受け入れ、最近では洪範図(ホン・ボムド)将軍の胸像の移転などの全面的な歴史論争に飛び込んでいる、と解釈する人は少なくない。国民のコンセンサスも形成されていない状況で韓日関係の改善を推し進めたり、自由・人権などの価値を強調しつつ「韓米日対朝中ロ」構図の最前線に立つことを自任したりするのも、このような脈絡につながる。
これについては「左派政党・団体の清算を主張する高位参謀やメディアなどに尹大統領は振り回されているとみられる」(パク・チウォン前国家情報院長)という解釈と「尹大統領が本人の考え通りに行動している」(ある政治評論家)という解釈が交錯する。
岩盤支持層を持たない新人政治家である尹大統領が、支持層を結集させるという政治的意図に沿って右偏向メッセージ戦略を取っている、との観測も一部からは示されている。だが、極端な理念攻勢は来年4月の総選挙での首都圏・中道層の攻略には役立たない、というのが政界での大方の分析だ。実際に与党の首都圏議員の間からは懸念の声があふれている。
国民の力のある議員は「理念論争は味方をさらに味方に引き入れる道具だが、それで総選挙に勝つことはできない」として首都圏危機論に言及した。尹大統領に民意を伝えるのは与党の責務でもあるが、現在の国民の力の支配的雰囲気は総選挙での公認を意識した「龍山(ヨンサン)の顔色うかがい」だ。
慶煕大学未来文明院のアン・ビョンジン教授(政治学)は、「与野党が鋭く対立している現在の政治状況においては、中道層を捨てるメッセージを発しても戦略的に有利になるとの計算がはじき出される可能性はある」、「自らの陣営に情熱的な人々ばかりを結集させるという分断戦略を大統領が用いることに対する評価は、後日なされるだろう」と述べた。