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[コラム]放送通信委員長候補と「ニューライト20年越しの夢」

登録:2023-08-24 02:14 修正:2023-08-24 10:31
ニューライトの主流化のような理念的志向を、尹錫悦大統領自身が体系的に持っているようにはみえない。しかし、自らの無謬(むびゅう)性を信じ切ったまま薄い支持層を結集しようとしている政権の暴走と無気力に陥っている野党は、ある勢力には日本の自民党体制のような「保守永久政権体制」を夢見させる。 
 
キム・ヨンヒ|編集人
18日に行われた人事聴聞会でイ・ドングァン放送通信委員長候補が宣誓している/聯合ニュース

 イ・ドングァン放送通信委員長候補は普段から、自身のことをニューライトの名付け親であり、それを「政治理念市場の最高のヒット商品」の一つにしたと自負してきた。東亜日報の政治部長時代の2004年、反核反金国民協議会(右翼団体)などが主催した集会の人の多さを見て、編集局に提案したニューライト企画が大きな反響を呼んだのだというのだ。彼は当時、「『ニューライト』を捕まえろ」というコラムで「ハンナラ党の唯一の活路は『ニューライト』に象徴される理念の中間地域へと進出する道しかないように思える」と記している。

 そんな彼にとって「李明博(イ・ミョンバク)大統領の実用主義路線はニューライトの精神」だった。『挑戦の日々』(2015)、『平等の逆襲』(2019)などの著書では、大統領作りの成功は「政治的DNAを共有する勢力が構築され、体細胞分裂と自己複製を続けてこそ」可能だとし、ニューライト勢力が引き継ぎ委員会や大統領府・内閣で主導的な役割を果たせなかったことが敗因だと指摘している。「ニューライトを政治勢力化しなかったことは、韓国の政治史において手痛い部分だ」。イ・ドングァンの放送通信委員長任命の強行が秒読みに入った今、彼の究極の目標が単なる「批判報道の排除」、「尹大統領ばかりのニュースの復活」だとは思えない理由はここにある。ニューライトが政治社会的運動ではなくディスコースを提起しただけにとどまり、「保守長期政権の土台」を作れなかったと残念がっているイ・ドングァンには、今こそ長年の願いが現実のものとなりつつあると感じられるのではないか。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権に起用された真実和解のための過去事整理委員会のキム・グァンドン委員長や、統一部のキム・ヨンホ長官は、進歩・保守政権を問わずこれまで守ってきた国家犯罪に対する最小限の合意と、朝鮮半島の平和の大原則を破壊している。部(日本でいう省)に昇格した国家報勲部の仕事のうち最も物議を醸しているのは、李承晩(イ・スンマン)記念館の建設問題だ。ここ数年、右派団体が雨後の筍のように登場しているのは、二十数年前を思い起こさせる。当時のニューライトの核となる勢力の一つが「旧主体思想派」だったように、最近ではまたしても、民主化運動を繰り広げた勢力を「後片付け」すると主張する「民主化運動同志会」が発足している。

 憂慮されるのは、一時はオールドライトの盲目的な反共主義や国家主義保守とは一線を画したり(アン・ビョンジク-チョ・ガプチェ論争が代表的な例だ)、「ノブレス・オブリージュ」を前面に掲げていたニューライトが、今ははるかに退行した姿で権力に深く入り込んでいることだ。大統領の自由総連盟創立記念式への出席や、チョン・グァンフン牧師ら右翼団体系列の勢いに乗った姿からも分かるように、オールドライトや極右との境界は曖昧になっている。いや、一線を越えている。「共産全体主義」を6回も繰り返して国民を分裂させようとした大統領の8月15日の光復節記念演説はその頂点だ。

21日午前、放送通信委員会の置かれている果川政府庁舎の前の柵に「放送掌握やめろ」、「イ・ドングァン・アウト」などと記された赤いリボンが垂れ下がっている=キム・ジョンヒョ記者//ハンギョレ新聞社

 人事聴聞会で示されたイ・ドングァンの認識には、自らがニューライトの核心だと主張していた合理的保守とは程遠い、善悪の二分法があふれていた。彼は「今の公共放送の最も大きな問題は、権力と資本ではなく労組からの独立」だと述べた。現政権にとっての第1の権力は労組だ。李明博政権時代、1970年代の東亜・朝鮮日報解職事件以降で最大のジャーナリスト解雇があったにもかかわらず、「放漫経営や放送の公正性において顕著な改善はなかった。労営放送(労組が運営する放送という皮肉)が根深いからだ」と述べた。1週間あまりの間に3大公共放送の理事長と理事、放送通信審議委員長らが、最小限の法的手続きも飛び越して相次いで解任されたことについては、「非常に適法な手続きで推進されている」と答えた。

 イ・ドングァンは保守を支える3つの軸として「保守メディア、財界や全経連などの資本、公務員と警察」をあげてきた。李明博政権ではジャーナリスト大量解雇と保守新聞に総合編成チャンネルを与えるというムチとアメが用いられたとすれば、今回の任命は公共放送体制という放送業界を根本的に解体することを目指したものだと読み取れる。韓国放送(KBS)の受信料の分離徴収を突如として断行したように、公共放送の民営化はもはや根拠のない懸念ではない。ポータルやフェイクニュースに対する強い対応を誓い、YTNの報道に連日巨額の訴訟を起こしているのは、表現の自由が2008年の「ミネルバ事件」以来最大の危機に直面する恐れがあるということを予告しているかのようだ。

 ニューライトの主流化のような理念的志向を、尹錫悦大統領自身が体系的に持っているようにはみえない。しかし、自らの無謬(むびゅう)性を信じ切ったまま薄い支持層を結集しようとしている政権の暴走と、無気力に陥っている野党は、ある勢力には日本の自民党体制のような「保守永久政権体制」を夢見させる。イ・ドングァンの放送掌握は、その青写真の印刷されたパズルの重大なピースだ。

 進歩や保守に単純化されない、より多くの多様性が韓国社会にはあるため、どちらか一方を「絶滅」させることは不可能であるだけでなく、激しい後遺症を残すだろう。ただし、野党や市民社会が政権の乱暴な姿勢に対する国民の嫌気だけに寄りかかって型通りの批判を繰り返してばかりいたら、将来がどうなるか分からない。変化した国民の意識、経済状況、国際秩序を視野に入れた省察と代案があってこそ、民主主義のための堅固なガードレールを建設できる。イ・ドングァン任命強行は、報道業界にとどまらず韓国社会全般と未来に暗い影を落としている。

//ハンギョレ新聞社

キム・ヨンヒ|編集人 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1105471.html韓国語原文入力:2023-08-23 15:43
訳D.K

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