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時代錯誤的な「理念戦争」を助長する尹大統領、批判勢力に敵対感あらわに

登録:2023-08-30 03:11 修正:2023-08-30 07:08
尹錫悦大統領が29日、ソウル龍山の大統領室で開かれた国務会議で発言している/聯合ニュース

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が29日、独立戦争の英雄の洪範図(ホン・ボムド)将軍の胸像撤去問題について、国務委員らに「何が正しくて何が間違っているのかを一度考えてほしい」とし、「誰かはやらなければならないことなら、(現政権で)進める」と発言したという。これは洪将軍の胸像を陸軍士官学校(陸士)と国防部庁舎から撤去するのが正しいという考えを示し、「理念戦争」を続ける意志を示したものとみられる。

 尹大統領は同日、ソウル龍山(ヨンサン)の大統領室で開かれた国務会議で、洪将軍の胸像の撤去問題について、「再評価する資料があるから、よく検討してほしい。私が規定するのではなく、皆さん自ら目を通し、何が正しいのかについて判断してほしい」とし、1991年の韓国とソ連の国交正常化直後に発掘されたソ連側の政府文書に言及したと、出席者たちが伝えた。洪将軍をめぐる議論について尹大統領の発言が伝えられたのは今回が初めて。前日、国防部はソ連政府の文書を根拠に洪将軍の「自由市惨変(1921年6月にシベリアのスヴォボードヌイ(自由市)で武装解除を拒否した独立軍がソ連赤軍に攻撃され、400~600人ほどが死亡した事件)」に関与したという疑惑を持ち上げた。

 尹大統領はさらに「鄭律成(チョン・ユルソン)歴史公園は言うまでもなく、洪範図の胸像の設置など、このような問題が次々と出てくる。何が正しいと思うか」とし、「政務的に今このような歴史論争に持っていくのは望ましくないという人もいるが、間違ったことを黙って見過ごすべきなのか。誰かがやらなければならないことなら、(現政権で)進める」と述べたという。

 尹大統領は「理念戦争」を進める意志もあらわにしたという。尹大統領は「理念というのは方向だ。まず方向を正しく定めるべきであり、方向をめぐって右往左往してはいけない」としたうえで、「戦わなければ強くなれない」、「四方から攻撃してくるが、そのような攻撃にひるまず、堂々と対応すべきだ」と国務委員に指示したという。

 最近、尹大統領は政界などを理念戦争の場とみなし、批判勢力全体に対する敵対感をあからさまに示すメッセージを相次いで送っている。28日に開かれた「国民の力研鑽(けんさん)会」で、文在寅(ムン・ジェイン)政権を狙って「時代遅れのでたらめな詐欺理念に埋もれてしまった」、「会計がすべて粉飾であり、内実のあるものが一つもない」、「国政の運営権を持ってこなかったら、この国はどうなっていたかと思うと、ぞっとする」と述べたのが代表的な事例だ。また汚染水に関する批判世論には「1+1を100と言う人たち」だとし、「我々はこのような勢力と戦うしかない」と語った。

 政界とマスコミには「国会を野党が掌握しており、マスコミも全て野党支持勢力が握っているため、24時間現政権の悪口ばかり言っている」と主張した。保守と革新の両陣営を「鳥の左右の翼」にたとえ、「鳥の飛ぶ方向が決まっていてこそ左の翼、右の翼が力を合わせられる」とし、「保守と革新、左派と右派が力を合わせて成長と分配を通じて発展していくのであって、飛んでいく方向についてとんでもない考えを持ち、前に進もうとしているのに(相手は)後ろに進もうと主張してはならない」と述べた。大統領が設定した方向と理念だけが正解であり、民主社会に存在する多様な見解と討論、妥協は障害物とみなす考え方だ。尹大統領は特に「共産全体主義」を韓国社会に現存する主な脅威と捉えるなど、多くの国民とかけ離れた認識を示している。

 尹大統領は同日開かれた民主平和統一諮問会議の幹部委員との対話でも、批判勢力に攻勢をかけた。尹大統領は「自由民主主義と共産全体主義が対決する分断の現実で、共産全体主義勢力、その盲従勢力と機会主義的追従勢力は虚偽捏造と宣伝扇動で自由社会をかき乱そうとする心理戦を日常的に行っており、決してそれを止めないだろう」とし、8・15光復節記念演説の内容を繰り返した。

 激しさを増している尹大統領の「反対勢力への理念攻勢」に対する懸念の声は、与野党を問わずあがっている。与党「国民の力」のアン・チョルス議員は「中道層では暮らしの問題を最も重要視しているため、ここのところ政府が理念攻勢に力を入れていることに対する懸念が大きい」と述べた。またユ・スンミン前議員は「(福島原発汚染水を)放出する日本と戦うのではなく、放出に反対する韓国国民と戦おうとする大統領」だとしたうえで、「汚染水放出に反対すれば1+1も知らない『未開な国民』で、『反国家勢力』になるのか」と批判した。野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表は同日、国立大田顕忠院にある洪範図将軍の墓域を参拝した後、「国民統合を図ることもなく、絶えず国民を分裂させ、対立を助長し、国民の暮らしよりも政治的利益を図るとは本当にあり得ないことだ」と述べた。

 慶煕大学公共ガバナンス研究所のチェ・ジウォン教授(政治学)は、「汚染水の放出から始まった反日感情を反共主義で防御しようとする伝統的手法だ」だとし、「自由を主張しながら時代錯誤的な理念問題に触れ、公正と常識を話しながら極端主義者の言語を使うのは矛盾」だと指摘した。

キム・ミナ、ペ・ジヒョン、イ・ウヨン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1106300.html韓国語原文入力:2023-08-30 01:27
訳H.J

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