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THAAD基地正常化秒読み… 問わなければならない3つのポイント(2)

登録:2022-09-06 06:36 修正:2022-09-06 08:18
9月4日深夜、ブルドーザーなど基地に搬入 
「ハンギョレ21」で再び問う「THAAD配備の虚と実」
THAAD装備が2017年4月27日午後、慶尚北道星州郡星州ゴルフ場跡に置かれている=ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

(1から続く)

中国の軍事的対応を刺激

 むしろ、THAADの目的は対中国牽制用とみなければならない。一部の専門家らは、THAADでは中国本土から米国に向けて発射される大陸間弾道ミサイル(ICBM)を迎撃できないため、対中国用ではないと話す。中国内陸から米国本土に向かって飛んでいく大陸間弾道ミサイルは、朝鮮半島ではなく北極上空に飛行し、韓国上空ではすでにTHAADの迎撃ミサイルが飛んでいける高度以上に上昇して飛行するためだ。その通りだ。

 しかし、THAAD配備は中国の大陸間弾道ミサイル迎撃が目的ではない。THAADシステムには迎撃ミサイルと共に「AN/TPY2」というレーダーが配備される。同レーダーは、中国内陸地方に配備された弾道ミサイルを探知することができる。THAADレーダーで中国の弾道ミサイル発射を早期に探知し、これを米国と日本に提供できるようになる。そうなれば、米国と日本は中国の弾道ミサイル発射を迎撃する十分な時間と多くの機会を確保できる。中国のミサイル発射を早期に探知すれば、アラスカ、グアム、在日米軍基地で迎撃を試みることができる。 日本も同じだ。韓国に配備されるTHAADシステムが対中国牽制用だというのは、まさにこのレーダーのためだ。

 THAADレーダーを韓国に配備することで、米国はアジア太平洋地域で中国を牽制するミサイル防衛(MD)体制を補強できる。すると、韓国は対中国ミサイル情報を獲得する前哨基地になるわけだ。この場合、矛と盾の論理を米日同盟と中国の間に適用できる。日米同盟はTHAADという盾を用意することで、中国の第2撃能力を弱化させることができる。

 結局、米国と中国の戦略的バランスが崩れることになる。これが中国が反発する主な理由だ。中国はバランスを維持するため、MD体制を無力化する軍事的態勢を整えようとするだろう。中国政府は、これまで公式にはTHAADが韓国防衛の範囲を越えて中国の安全を脅かすと指摘するのにとどまっている。しかし、非公式には軍事的対応態勢について言及している。中国の予備役将軍たちは、2014年から各種の非公開会議で「THAADが韓国に配備されることは中国にとって脅威になるため、THAADが配備された在韓米軍基地は中国の攻撃対象になりうる」と威嚇する発言を繰り返してきた。

 中国がTHAAD配備地域に対し軍事的に備えるのは、実際に攻撃するというより、THAADという盾を破るための槍を強化することを意味する。中国東南部地域におけるミサイル配備を強化する形で進められる可能性がある。

潜水艦発射弾道ミサイルを阻止できる?

 日本にはすでに、THAADの探知装備であるAN/TPY2レーダーが2基配備されている。しかし、地球は丸く、朝鮮半島には白頭大幹の山脈が南北に横たわっている。地球の曲面と白頭大幹のため、日本に配備されたレーダーが中国ミサイルを探知するのは、発射後数分が過ぎた上昇段階に入ってからだ。早期探知は難しい。THAADを朝鮮半島に配備するのはそのためだ。

 THAADが北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を迎撃できるというハン・ミング国防長官の発言は「THAAD盲信」と言えるほどだ。北朝鮮はまだSLBMを完成させた段階ではない。だが、SLBMで最も難しい技術といわれる射出実験には成功した。射出実験とは、海水の中から水の外にミサイルを出して点火する技術だ。今後飛行まで成功すれば、SLBMは隠密性が高いため、非常に恐ろしい兵器になる。北朝鮮がSLBM開発に執着するのは、THAADを無力化しようとする意図が強い。北朝鮮がSLBMを完成させ、星州に配備されたTHAADの後方である済州南方から発射した場合、THAADでは成すすべがない。THAADレーダーは北朝鮮の前方に向かっているためだ。

 北朝鮮がSLBM開発を試みるのは、隠密性と奇襲性によって米国のMD体制とTHAADを無力化できるからだ。ロシアも2015年にモスクワ広場で開かれた第2次世界大戦勝利70周年行事で「RS24ヤルス(Yars)」という多弾頭大陸間弾道ミサイル(ICBM)を登場させた。この多弾頭ミサイルは、飛行中に弾頭が10機以上に分離されるため、米国のMDを弱化させる武器システムだ。北朝鮮はMD無力化カードを通じて中ロと協力を取ろうとする努力を強化するだろう。

 THAADは防衛目的と限定することはできず、北朝鮮のミサイル攻撃にそれほど効果的な防御手段にもならず、首都圏も防御できない。韓中関係を悪化させて韓国を米国と中国のミサイル角逐の場にし、北朝鮮と中国・ロシアの関係を癒着させる結果をもたらす。北朝鮮の核を廃棄するためには、中国とロシアの協力が欠かせないが、そのような国際協力も弱める恐れがある。

尹錫悦大統領選候補(当時)が1月30日、フェイスブックに「THAAD追加配備」という書き込みを残した=尹候補のフェイスブックよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

むしろ北朝鮮の核廃棄から遠ざかるだけ

 韓国政府はTHAAD配備の理由として、北朝鮮の核とミサイルに備えるという名分を掲げているが、実効性のない口実に過ぎない。むしろ北朝鮮の核とミサイル廃棄から遠ざかる選択になるだけだ。北朝鮮の核とミサイルに対する対応原則は明らかだ。朝鮮半島と周辺の安定と平和を確固たる目標にしなければならない。国際的な北朝鮮制裁を通じて非核化に向けた対話テーブルに導く協力体制を構築すべきだ。そして平和体制戦略を作ることだ。偏りの外交ではなく、韓国のバランス外交が切に求められる。

キム・チャンス|コリア研究院院長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://h21.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/52531.html韓国語原文入力: 2022-09-0518:09
訳H.J

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