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[コラム]米中覇権競争時代の「新朝鮮策略」

登録:2022-08-26 06:55 修正:2022-08-26 08:56
7月29日、オンラインで開かれた米国のジョー・バイデン大統領(左)と中国の習近平国家主席の米中首脳会談を伝えるニュースを、ある市民が香港のショッピングモールで見ている=香港/ロイター・聯合ニュース

 「各締約国は他方の締約国の商品に対して内国民待遇を与える」。韓米自由貿易協定(FTA)第2条に明示された内容だ。同協定の定義を規定した第1条を除けば、事実上協定の最初の原則に当たる。協定文は「内国民待遇」について「同種の、直接的に競争的な商品に対し、(該当政府が)与える最も有利な待遇より不利でない待遇をいう」と親切に説明している。 韓米いずれも相手国の商品に対して差別待遇をしてはならないという意味だ。ところが、米国が16日から施行に入った「インフレ抑制法」の電気自動車(EV)補助金支援規定は、この条項を明確に違反している。同法は北米(米国、メキシコ、カナダ)で最終的に組み立てられたEVを購入した消費者に対してのみ、最大7500ドルの補助金を支給するようにしているからだ。同条項は法施行日から直ちに適用することになっており、韓国産のEVは直ちに補助金支給対象から除外された。同条項は、特定の国に与えた恩恵を他の国にも同様に与えるべきだという世界貿易機関(WTO)の最恵国待遇の原則にも反する。

 自由貿易の守護者だった米国が国際通商ルールを破る「秩序の破壊者」に変わりつつある。自国主導で作られた現在の国際通商秩序さえも、国益に役立たないと判断されれば、何のためらいもなく捨てる米国の姿は、冷酷な国際政治の現実を示している。米国で9日に発効した「半導体補助金法」には、米国政府の補助金を受ける世界の半導体メーカーの中国内先端工場の新設・増設を禁止する条項まで含まれているが、今回は自動車産業にまで範囲を拡大したのだ。中国がEVやバッテリーなど未来自動車産業を掌握していけば、現在の条件では勝てないと判断したためだろう。問題は、韓国がこのような米中対決の流れ弾に当たっていることだ。現代・起亜自動車は今年、米国内のEV市場シェア2位に躍り出たが、今回補助金の対象から排除されたことで、価格競争で後れを取る可能性が高い。半導体分野でも、急速に変化する産業の特性上、サムスン電子やSKハイニックスが適期に中国の工場の新設・増設をしなければ競争力の低下につながりかねない。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は、就任直後から韓米同盟に没頭してきた。「経済安全保障同盟」への格上げを大々的に掲げた。ところが、今回の米国の決定は、現政権の対米外交政策が名ばかりであることを示している。韓国政府の対中国政策も懸念を抱かせる。尹大統領は大統領選挙の過程で、フェイスブックに「THAAD(高高度防衛ミサイル)追加配備」という一行の公約を掲載したが、中国は今月初め「三不(三つのノー:THAADを追加配備せず、米国のミサイル防衛体系に参加せず、韓米日軍事同盟を結ばない)一限(THAADの運用制限)」まで取り上げて韓国政府に対する圧力を強めている。朴槿恵(パク・クネ)政権が拙速に決めたTHAAD配備を文在寅(ムン・ジェイン)政権が辛うじて封印したのに、現政権が再び災いを招いているわけだ。THAAD問題も基本的には米中覇権争いの流れ弾だ。

 韓国はここのところ大国の狭間で板挟みになっている。海洋勢力と大陸勢力が出会う戦略的要衝地である朝鮮半島は、宿命的に大国の角逐の場にならざるを得ない。旧韓末の状況と似ていると言う人たちもいる。しかし、当時と今は天と地ほど状況が異なることを認識しなければ、正しい解決策を見出すことができない。何よりも当時は我々に力がなかったが、今はそうではない。半導体をはじめ先端産業で米中も無視できないテコを持っている。世界で最も大きな力を持つ米国の大統領が、韓国にある半導体工場を訪問して技術協力を要請したのは、我々がこれまで見たことのない場面だ。「チップ4」(半導体サプライチェーン協議体)を進める米国の動きに対し、中国が韓国に「仲裁者」の役割を求めるのも見慣れない場面だ。

 清の外交官の黄遵憲は1880年、『朝鮮策略』で、鎖国政策を展開していた朝鮮に対し、ロシアの南下を防ぐためには「中国と親しく、日本と結び、米国と連携」(親中国、結日本、連米国)することで自強を図るよう勧めた。大国間の力のバランスを作るべきという助言だ。いくらもっともらしい方法でも、力がなければ大国の争いの犠牲者に転落せざるを得ないことを、その後の歴史は物語っている。今は米中新冷戦と高まった韓国の地位を考慮した「新朝鮮策略」が切に求められる。そのためには、次の3つを核心軸にしなければならない。

 第一に、どの大国とも疎遠になってはならない。黄遵憲流に言うと「連米国、和中国、通日本」だ。米国と連帯し、中国と親和し、日本と疎通しなければならない。

 第二に、開放型通商国として経済と安全保障の切り離しを追求し、米中いずれにも通商ルールの順守を求めなければならない。米中が衝突した際、中国との経済的な断絶を懸念する国は韓国だけではない。世界で60カ国が中国を最大の貿易パートナーにしているのが現実だ。アップルをはじめとする中国での事業の比重が高い米国の企業や金融機関も中国との経済的断絶を望まない。これらの国や米国企業と連携し、米中の間で緩衝の役割を果たさなければならない。ワシントンの影響力のある経済専門家、ピーターソン国際経済研究所のフレッド・バーグステン名誉理事は著書『米国対中国(The United States vs. China: The Quest for Global Economic Leadership )』で「米中経済をデカップリング(分離)するのではなく、経済イシューを敏感な安全保障イシューからデカップリングしなければならない」とし、「ドイツをはじめとする米国の主要同盟国がこの戦略を支持している」と述べた。

 第三に、韓国が東アジアの平和秩序構築の主導者として乗り出さなければならない。冷戦時代、欧州諸国が欧州安全保障協力機構(OSCE)を創設して、冷戦的対決を緩和し共存を果たしたように、東アジア版安全保障協力機構を作ることができるだろう。台湾海峡危機など米中の間で激しい軋轢が生じた場合、韓国も巻き込まれる恐れがあるだけに、地域の安全保障協力体を通じて最悪の事態に飛び火することを防がなければならない。

 受け身の姿勢では再び大国間争いの被害者になりかねない。弱小国コンプレックスから抜け出し、能動的な姿勢で臨まなければならない。だが、これは尹錫悦政権にとっては手に余る課題かもしれない。内政もままならないのに、高度な外交力を要する外政で能動的な姿勢を期待するのは難しいだろう。結局、市民社会がともに乗り出さなければならない。

//ハンギョレ新聞社
パク・ヒョン|論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1056219.html 韓国語記事入力: 2022-08-26 02:55
訳H.J

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