「具体的で個別的な人間にどのような苦痛が実際に起こっているかについての理解と共感なしに、全体の利益と全体の幸せを語る言説は、ファシズムを呼び寄せる結果を招く可能性もあります」
来年1月の重大災害処罰法の施行を控えて政府が立法を予告した施行令案について、立法の趣旨が損なわれたという批判が起きるとともに、労働界と経営界が対立している中、小説家のキム・フンさんは20日、「同法の発効を待つこの1年間(2020年7月~2021年6月、労働健康連帯による集計)だけで、800人以上の労働者が生業の現場で働いている途中に命を失っている」とし、労働者の「具体的な苦痛」に注目してほしいと述べた。
市民団体「生命安全市民ネット(市民ネット)」はこの日、キム・フンさんの「個別的苦痛を考えつつ」と題する文章を公開した。この文章は、今月24日に開かれる国会生命安全フォーラム創立1周年討論会「文在寅政権の生命安全政策4年の評価と課題」で冒頭発言をするためにキム・フンさんが書いたもの。キムさんは市民ネットの共同代表でもある。
キム・フンさんは、重大災害処罰法の施行を前にして企業と経済団体が否定的な立場を示していることについて、重大災害処罰法に関する議論は「人間対人間の問題だ」と強調した。
「働く人々が職場で働いている途中に死んだり、けがをしたりする事態を改善すべきだというこの当然の議論が、このように一進一退を繰り返し、困難に直面しながら展開している背景にある最大の障害物は、おそらく企業が全国民を『食わせてやっている』という認識でしょう。このような主張は経済論理的に妥当なものなので、それは違うとは言い難いのですが、労働の主体性を軽視する思考を赤裸々にあらわにしています。企業の利潤は、企業だけでなく社会全体のための大切な資産ですが、今の韓国の労働の現実で繰り広げられている死と抑圧の土台の上に、企業の上部構造と持続的な利潤を建設することはできないのです。これは決して進歩と保守の政治的対立の問題ではありません。これは人間対人間の問題であり、人間と物質の問題であり、人間が人間同士の社会的、経済的関係を設定する原理に関する問題なのです」
キムさんはこの文章の中で「死者の多寡を基準として事故の重大性を等級付ける社会的慣行は、命を物量として扱うことで物事と同一視する非人間的認識でしょう」と述べ、重大災害処罰法の立法過程で繰り広げられている対立を見つめる思いも語った。「なぜ事態がこれほど悲劇的な規模にまで拡大し、ここまで来てしまったのかは、誰もが知っています。その解決策がどのようなものなのかについても数多くの議論が重ねられており、この跛行はいまだに続いています。しかし我々はこの議論を最後まで推し進めていかなければなりません」
一方この日、市民ネットは政府の施行令案の中の「市民災害」の部分を検討した結果、「全般的に法制定の趣旨が反映されていないため、安全の死角地帯の問題と災害防止の実効性が深刻に懸念される」とし、これに対する7つの主張を含めた意見書を法務部に提出したことを明らかにした。