戦時作戦統制権(戦作権)の返還問題について、大統領室とアン・ギュベク国防部長官候補との間には多少の「ずれ」があるようにみえる。しかし、李在明(イ・ジェミョン)大統領の大統領選挙公約にもとづいて答えたアン・ギュベク候補と、韓米同盟の全体的な変化の様相を念頭に置くべきだとする大統領室では、「強調点」が違うだけで、両者の根本的な意見の相違が露呈したわけではない。戦作権の返還という「長年の難題」を解決するためには、在韓米軍の将来の姿についての米国の戦略がまず明確に整理されなければならない。近く公開される米国の新たな国家防衛戦略(NDS)とその後続措置を綿密に観察し、いかなる変化にもうまく対応できるよう、準備を怠ってはならない。
アン・ギュベク候補は15日の人事聴聞会で、「李在明政権の任期内の戦作権返還を目標にしていると認識している」と述べた。しかし、大統領室のカン・ユジョン報道官が「候補個人の意見」であって「期限(5年)を定めたわけではない」と反応すると、アン候補も「戦作権返還を推進する意志を明らかにしたもの」であって、「韓米連合態勢の堅固さと両国の『条件』の合意充足履行が基本の前提になるということを改めて申し上げる」と述べ、一歩引く姿勢を示した。トランプ大統領の就任後、米国が経済や安保を含むあらゆる分野で過酷な圧力をかけ続けている中、この問題が矢面に立つのはよくないと判断したとみられる。
戦作権返還問題は、2003年の盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の光復節祝辞(「独立国家は自らの国防力で国を守れなければならない」)を契機としてはじまったと理解する見方があるが、そうではない。その直後の「米国の安保戦略が変わる度に国論の混乱を繰り返し」てはならないとの発言から分かるように、米国が推進していた世界規模の米軍の再編・再配置(GPR)政策に韓国が積極的に「対応」したに過ぎない。その後も米国の戦略の変化によって浮き沈みが繰り返されてきた。2014年10月には、韓米が「時期」ではなく「条件」が満たされてこそ返還が可能になるということで合意しているため、米国の同意なしにまとめることもできない。
トランプ政権は、現在2万8500人いる在韓米軍の大幅な削減、「韓国防衛」から「中国けん制」への役割の根本的な変更を積極的に検討しているという。実際にそうなると、これまでのあらゆる努力が無意味になる恐れがある。米国の戦略の変化を確認してから対応するしかない。韓国だけで大騒ぎすべきことではまったくない。