韓国国防部が今月18日に、年末に発行される「2026国防白書」で「北朝鮮政権と北朝鮮軍は我々の敵」という従来の表現を維持する方針を示したところ、統一部は北朝鮮を「主敵」と規定することに反対することを表明した。これについてメディアは、北朝鮮を主敵と表現することをめぐって国防部と統一部が意見の相違を示したと報じた。保守政権の李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)、尹錫悦(ユン・ソクヨル)の各政権の時代には国防白書に主敵という表現が用いられ、盧武鉉(ノ・ムヒョン)、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代にはその表現は使用されなかったとも報じた。
実際には李明博、朴槿恵、尹錫悦政権の時代にも国防白書に「北朝鮮は主敵」という表現は使用されていない。保守政権が使用したのは「北朝鮮政権と北朝鮮軍は我々の敵」だ。
保守が政権を握ると、国防白書に「北朝鮮は主敵」表現を復活させるよう求める声が強まった。特に「2010国防白書」の発行前には、同年に天安艦事件や延坪島(ヨンピョンド)砲撃戦があったため、国防白書に北朝鮮は主敵との表現が復活するだろうという予測が有力だった。李明博大統領(当時)は2010年5月のある会議で、「韓国軍は過去10年間、主敵概念を確立できていなかった」と述べ、その復活を示唆する発言をした。
しかし「2010国防白書」は、北朝鮮を主敵と表記するのではなく、「北朝鮮政権と北朝鮮軍は我々の敵」と表現した。当時、国防部は「将兵の精神教育では昔から北朝鮮を主敵と規定しているため、国防白書にそれを入れないからといって軍の準備態勢に支障をきたすわけではない」とし、「外国には国防白書やそれに類する公式文書に主敵表現の例がないことも考慮した」と説明した。
尹錫悦前大統領も、大統領選候補時代の2022年1月にフェイスブックに突如「主敵は北朝鮮」と投稿したが、尹錫悦政権が唯一発行した「2022国防白書」には「主敵」表現は登場しなかった。「北朝鮮政権と北朝鮮軍は我々の敵」という李明博、朴槿恵両政権時代の表現をそのまま使用したのだ。
保守政権が北朝鮮を主敵と表現しなかったのには、いくつかの理由があった。まず、北朝鮮を主敵と規定すると、北朝鮮を構成する主要な要素である北朝鮮住民全体が敵になってしまうという問題が発生するからだ。歴代政権は、北朝鮮から脱出した住民は大韓民国の国民とみなすとの立場を取ってきており、最高裁判所や憲法裁判所も北朝鮮住民を大韓民国国民とみなす立場を数度にわたって司法的に確認している。軍人服務基本法は「国軍は大韓民国の自由と独立を保全し、国土を防衛し、国民の命と財産を保護し、さらに国際平和の維持に寄与することをその使命とする」と規定している。北朝鮮は主敵という表現にこだわってしまうと、大韓民国国民に当たる北朝鮮の住民さえも敵とみなすという矛盾に陥ることになる。
次に、北朝鮮の安定化作戦の観点から、敵を「北朝鮮政権と北朝鮮軍」に限定する必要があったからだ。安定化作戦は、戦後に当該地域の治安を確保し、住民の生活を支援して民主主義体制の条件を整えることで、その地域を安定させるもの。米国はイラク戦争、アフガニスタン戦争で戦闘には勝利し、サダム・フセイン政権とタリバンを崩壊させたが、その後の安定化作戦が失敗したため、甚大な被害を受けた。韓国軍当局はイラク戦争とアフガン戦争を見て、「善良な」北朝鮮住民と「悪い」北朝鮮政権および北朝鮮軍を分けることが重要だと気づいた。
「北朝鮮は主敵」と「北朝鮮政権と北朝鮮軍は我々の敵」に何の違いがあるのかと問う人もいるだろうが、事実として、保守政権さえも北朝鮮主敵概念を廃棄しているということだ。
にもかかわらず、国内では北朝鮮主敵概念をめぐって20年以上にわたって消耗的な論争が続いている。6月3日の統一地方選挙では、選挙運動中の候補者にいきなり近づき、「大韓民国の主敵はどこだと思うか」という質問をあびせる「主敵チャレンジ」が繰り広げられた。北朝鮮も南北を「敵対的な二国家」と規定したうえで、2024年1月には「大韓民国の輩は我々の主敵」と規定している。争っていると似てくると言うが、こんなことは南北で似なくてもよいと思う。
クォン・ヒョクチョル|統一外交チーム長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )