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ポピュリスト右派とウォーク左派の共謀【寄稿】

登録:2024-07-15 08:55 修正:2024-07-15 09:24
スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授
パリ市民たちが7日、フランス・パリのレピュブリック広場で、この日行われた早期総選挙の決選投票で極右・国民連合の第1党への登板が阻止されたことを祝っている/AP・聯合ニュース

 極右ポピュリズムがふたたび力を増している。ポピュリスト右派は、自分たちが左派の課す抑圧的な強要に対抗して「穏健な正常性」を擁護しているというレトリックを繰り返し用いる。たとえば、これらの人たちは、ウォーク(woke:覚醒した、目覚めた)左派の「キャンセル・カルチャー」によって、個人が異性愛者であるとか伝統的な見解を持っているという理由だけで罪悪感を抱き、ある話や行動が突然禁止される可能性があるという恐れを感じ、息が詰まる雰囲気がつくられていると非難する。

 一例としては、最近、ファシズムを擁護するマイケル・ミラーマンという右派知識人が「なぜ正常なすべてのことがファシストと呼ばれるのか」(Why is everything normal called fascist?)と題する動画をSNSに投稿し、「自分が嫌いなことをすべてファシズムだとして攻撃する現象が広がっている」と主張した。これに対する反応は注目に値する。「誰かが私をファシストだと呼ぶのであれば、それは私が正しいことをしているという証拠だ」「第2次世界大戦前は普通の人は全員ファシストだった。家族と祖国を愛して他者を警戒することが間違っていたというのか」「正常なことがファシズムであるのなら、ファシズムこそ正常だ」

 極右ポピュリズムが広範な訴求力を持つ現象を、右派のイデオロギー操作として分析するのは表面的な捉え方だ。これらの浮上は、単なる伝統的な人種主義には還元されない深い不満が存在することを示している。愛国心はそれ自体はファシスト的だとは言えないが、ポピュリスト右派は、外国人や性的マイノリティなどを外部の脅威として認識し、怒りと敵意の対象となるよう愛国心を歪曲する。

 ここにポピュリスト右派のパラドックスがある。彼らの愛国心は過度に愛国的なのではなく、むしろ不十分に愛国的だ。それは、グローバル資本主義に対する抵抗を歪曲したかたちにすぎない。ポピュリスト右派は、自分たちが国家、大企業、メディアのようなエリートの圧力に対抗し、労働者階級を代弁すると主張する。しかし、彼らは億万長者の巨額の支援のもと、資本主義の根本的な構造にはいっさい触れない。

 問題は、極右ポピュリズムを批判する人たちも同様に、矛盾に陥っていることだ。ウォーク左派は、性的、人種的、経済的に排除され疎外された人たちの保護者を自任しながらも、きわめて抑圧的な超自我の体系を課すことによって、特定の人や立場を排除することを越え、それについての討論の可能性自体をなくしてしまう。表面上は多様性と包容を主張するが、これについての自分の定義に完全に同意しない人たちを容赦なく排除してしまう。「私たちの中には多様性と包容性に反対する人はいない。そのような人はすでに全員追放してしまったから」。最後に残った人食い人種を食べてしまったというジョークの極端なバージョンだ。

 ウォーク左派は抑圧的な体系を作り、個人に厳格な理想に完全に合致できないという罪悪感を絶えず抱かせる。ポピュリストはこの隙を狙って「リラックスして、あなたのありのままを誇りに思いなさい」とささやき、解放的な気持ちを抱かせる。しかし、実際には、既存の秩序を維持することを望み、現実の問題を回避する。左派も同様に、口では急進的な変化を主張するが、彼らが描く変化は、真の変化なしに既存の秩序が維持されるようにする変化だ。

 結論としては、新ポピュリスト右派は十分に愛国的ではなく、ウォーク左派は十分に急進的ではない。ウォーク左派は被抑圧者の真の利益が何であるのかを自分たちがもっとよく知っているかのように行動し、これらの人たちが期待値に合致しないことを咎める。そのとき、抑圧されている人たちは「なぜ私があなたたちの言うような存在にならなきゃならないのか」と言って遠ざかる。このようにして、新たなポピュリスト右派とウォーク左派は深いところで共謀する。これらはコインの裏表だ。これらは現在直面している根深い問題を回避し、グローバル資本主義に刻み込まれた根本的な敵対を無視する2つの手法だ。

//ハンギョレ新聞社

スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1149059.html韓国語原文入力:2024-07-14 19:52
訳M.S

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