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[コラム]「私の大統領ではない(NOT MY PRESIDENT) 」

登録:2023-09-14 06:33 修正:2023-09-14 07:34
歴代大統領の支持率はジェットコースターのように激しく揺れ動いてきた。振幅が大きいというのは良いことではない。それでも「みんなの大統領」になれる可能性が開かれているという兆候とはいえる。これまで革新と保守を問わず、歴代大統領たちが例外なく、少なくとも表向きには「統合と協治」を掲げたのはそのような理由からだ。ところが、尹大統領は違う。支持率が30%台に留まっているにもかかわらず、そこから抜け出そうとする意志がないようだ。
2016年11月の米国大統領選挙直後、ドナルド・トランプ候補の当選に抗議するデモに参加したある女性が額に書いた「私の大統領ではない」というスローガンを見せている=シアトル/AP・聯合ニュース

 「私の大統領ではない(NOT MY PRESIDENT)」

 数年前のドナルド・トランプ政権時代、米国で流行っていたスローガンだ。2016年の大統領選挙でヒラリー・クリントンが有権者総得票では勝ったにもかかわらず、選挙人団獲得数で敗れた後に出てきたこのスローガンは、4年間ずっと反トランプデモの定番だった。選挙民主主義が根付いた米国で、現職大統領の存在自体を否定する表現が広がったのは異例のことだ。歌も登場したが、歌詞にはトランプの人種差別と金持ち向けの政策に対する強い反発がにじみ出ている。あるコラムニストはニューヨーク・タイムズ紙に「私はこの合唱に罪悪感を覚えた。トランプを支持したからではなく、極めてトランプらしいスローガンだったからだ。(しかし)トランプが私と私の家族、私が大切にしている人々、多数の米国国民を代弁するつもりがないのは事実だ」と書いた。「私の大統領ではない」ほど政治的分裂と対立を象徴的に示す言葉はない。

 先週末の夕方、ソウル市庁前の地下歩道を歩いていたところ、「尹錫悦(ユン・ソクヨル)は私の大統領ではない」と書かれた黒いTシャツを着ている市民を見た。トランプ時代のスローガンをパロディーしたTシャツをソウルの中心街で見かけたのは意外だった。「ああ、そうなんだ、韓国も米国も大統領を認めたがらないほど政治的な対立が激しくなったんだ、批判と反感を越えて憎悪と怒りが私たちの心を占める時代になったんだ」。しばしそんな考えに浸った。多くの面で尹大統領はトランプと本当によく似ているかもしれない。

 尹大統領が好きで支持する国民も少なくない。様々な物議を醸している中でも、尹大統領の支持率は30%台前半で下げ止まりとなっている。このように非弾力的な支持率の推移を示す大統領はおそらく初めてではないかと思う。金泳三(キム・ヨンサム)大統領は任期序盤、ハナ会の解体と金融実名制の実施で支持率が83%まで上がったが、1997年の通貨危機以降は6%に下がった。盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は任期最後の年には12%の支持率を記録しており、李明博(イ・ミョンバク)大統領は就任100日目にして米国産牛肉輸入問題により支持率が21%まで落ち込んだ。最高60%の支持率を誇っていた朴槿恵(パク・クネ)大統領も、国政壟断事件で弾劾される直前の最後の支持率は5%だった。

 歴代大統領の支持率はジェットコースターのように激しく揺れ動いてきた。振幅が大きいというのは良いことではない。それでも「みんなの大統領」になれる可能性が開かれているという兆候とはいえる。国政運営がうまくいけば多くの国民が支持を送り、逆にうまくいかなければ多数が支持を撤回するという意味だ。歴代大統領たちが例外なく、少なくとも表向きには「統合と協治」を掲げたのはそのような理由からだ。朴槿恵大統領の2012年の大統領選挙当時のスローガンは「100%大韓民国」だった。このスローガンが空言だったことを知るのにそれほど時間はかからなかったが。

 一方、尹大統領は違う。支持率が30%台に留まっているにもかかわらず、ここから抜け出そうとする意志がないようだ。支持率は低いが、堅固な理由は推測できる。2016年のろうそく集会と大統領弾劾の経験は、革新だけでなく保守陣営にも明確な学習効果を残した。何があっても味方は守らなければならないという信念だ。尹大統領はまさにそのような信念を持った国民だけに向けて国政を運営している。

 最近の大統領と与党代表の発言を振り返ってみよう。「反国家」「国紀の乱れ」という言葉をあまりにもたやすく使っている。尹大統領は南北和解政策を追求した前政権を「反国家勢力」と称し、戦争英雄の献身を貶めるのは「反国家行為」だと切り捨てた。与党「国民の力」のキム・ギヒョン代表は「ニュース打破」の「シン・ハンニムとキム・マンベの録音ファイル」報道を「国紀を乱した罪で死刑に処さなければならない反国家犯罪」と述べた。敵にでも使うような恐ろしい言葉だ。大統領を支持する30%に属さない人々は「私の国民ではない」と考えているのだろうか。

 尹大統領は1年4カ月間、野党第1党の代表とは一度も対話を試みなかった。首相曰く、「司法的リスクのある野党代表に会うのは非常にアンフェア(unfair・不公正)なことになりうる」という理由からだという。大統領が野党代表と対話するのは、個人に会うのではなく(野党を指示する)国民の声に耳を傾けるという意志の表現だ。金大中(キム・デジュン)大統領は1998年、「大統領選挙資金不法募金事件」で実弟が拘束されたイ・フェチャン当時ハンナラ党総裁にも会った。通貨危機を乗り越えるために力を合わせようという意味だった。経済状況が危ういのは今も同じだ。

 適法な選挙で選ばれた大統領に対し、「私の大統領ではない」というスローガンが広がるのはやるせないことだ。さらにやるせないのは、大統領が多数の国民を排除したまま、国政を推し進めていく姿を見守らなければならない国民の心境だ。

//ハンギョレ新聞社
パク・チャンス|大記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1108336.html韓国語原文入力:2023-09-14 02:37
訳H.J

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