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[寄稿]成熟した民主主義はどのように安保戦略を作るのか

登録:2023-06-26 01:36 修正:2023-06-26 09:46
北大西洋同盟と人権を強調する強硬派もいれば、平和とデタント、貿易による変化と多国間主義を支持する穏健派や欧州主義を擁護する欧州連邦派などもそれぞれの見解を持っていた。驚くべきなのは、このような百家争鳴の構図の下でも、ドイツの指導者たちが忍耐強く政治的合意作りに取り組んでいることだった。 
ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授
ドイツのオラフ・ショル首相(中央)が14日(現地時間)、ドイツのベルリンで開かれた記者会見に連立政権を組んでいる閣僚たちと共に出席し、同日発表した国家安保戦略文書を持って写真撮影に応じている=ベルリン/ロイター・聯合ニュース

 先週、フリードリヒ・エーベルト財団の招待でドイツを訪問した。ASEAN諸国から2人、インドとパキスタンからそれぞれ1人ずつ、そして筆者まで5人で構成された訪問団は、ドイツ政界の指導者や外交安保分野の高官、シンクタンクの研究者、ジャーナリストなど様々な関係者と集中的に討論する機会を設けてもらった。テーマはドイツの対中国戦略だった。

 私たちが知っているドイツは理性的で体系的で周到な国だ。しかし、討論の内容はそのイメージにそぐわないものだった。ドイツ指導層の間でも中国に対する認識は様々であり、アプローチの仕方にも大きな違いがあった。これは6月15日にドイツ政府が初めて発表した国家安保戦略報告書にもよく表れている。報告書は中国をパートナー、競争相手、体制のライバルという3つのアイデンティティとして規定しており、中国に友好的な勢力は中国をパートナーに、敵対的な勢力は体制のライバルに、中道勢力は競争相手にそれぞれみなす傾向が強かった。さらに興味深いのは、今回の報告書に対中国戦略の具体的な内容を盛り込むことができず、今後別途の報告書を採択することにしたという事実だ。ドイツでも中国問題をめぐる政治的合意を導きだすのが難航していることを示している。

 まず経済政策を見てみよう。ドイツは中国を資本主義分業秩序から追い出そうという米国のデカップリング(decoupling・分離)戦略にはある程度距離を置いているようだ。しかし、与党の社民党と連立を組んでいる緑の党の党首であり外務長官のアナレーナ・ベアボック氏は、人権問題を理由に中国に対するデリスキング(de-risking・リスクの低減)を強く支持する立場だ。リスクの高い経済分野から脱中国を進めようという主張で、基本的にはデカップリングと大きく変わらないようにみえる。

 一方、オラフ・ショルツ首相をはじめとする社民党の慎重派は、多角化(diversification)を代案として提示している。従来の対中貿易と投資を続けていく中で、次第に多角化を進め、中国依存度を減らしていこうという立場だ。別の連立パートナーである自民党とドイツの財界代表らは、政経分離原則に基づき、中国への投資と貿易を維持しなければならないと主張する。ドイツの輸出比重は国内総生産(GDP)の35%に過ぎないうえに、このうち65%が欧州市場に集中しており、中国の比重は10%未満なので、それほど大きな問題ではないというのが彼らの立場だ。中国問題に関しては、ドイツにも価値観と国益重視の外交の間に対立が存在することを示している。

 中国をけん制するための北大西洋条約機構(NATO)の拡張をめぐっても意見が分かれていた。外務省や国防省の官僚、北大西洋同盟派の議員たちは、米国と歩調を合わせてインド太平洋戦略に軍事的に参加すべきだという意見を示した。南シナ海と海路の安全、台湾海峡の危機に対s知恵傍観者的な姿勢ばかりを取るわけにはいかないという主張だ。しかし、社民党の主軸をなしている実用主義者とビリー・ブラント元首相の東方政策の継承論者、平和主義者たちはその意見にかなり懐疑的だ。ドイツにはそのような能力と意志において限界があるため、インド太平洋地域の問題にまで取り組むには力不足であるというのが彼らの立場だ。

 ロシアのウクライナ侵攻については一致した見解を示した。これは領土と主権、国際法に対する深刻な蹂躙であり、欧州の安全保障と平和に重大な脅威であるため堂々と立ち向かわなければならず、ウクライナへの全面的な支持を送るべきだということだ。ただし、中国の役割に関しては反応が分かれた。キリスト教民主党と緑の党関係者らは、中国のウクライナ平和案12項目に領土問題について言及がないという理由で懐疑的だったが、一部の社民党関係者らの考えは違っていた。中国の仲裁案を一方的に拒否するのは負担が大きいため、慎重に扱う必要があると主張する。彼らは中国がロシア陣営に加わる契機になるかも知れないという懸念を抱いていた。

 ウクライナ事態、気候変動、そして米中対決構図が触発した「時代の転換点(Zeitenwende)」の課題にどのように対応するかについても意見は分かれた。北大西洋同盟と人権を強調する強硬派もいれば、平和とデタント、貿易による変化(Wandel durch Handel)と多国間主義を支持する穏健派や、欧州主義を擁護する欧州連邦派などもそれぞれの見解を持っていた。驚くべきなのは、このような百家争鳴の構図の下でも、ドイツの指導者たちが忍耐強く政治的合意作りに取り組んでいることだった。

 そのような意味で、オラフ・ショルツ首相の慎重ながらも実用的な指導力が一層目を引く。中国に言いたいことを言いながらも、低い姿勢で多様な政派の意見を取り入れ、折衝しながら外交安保政策を作っていく知恵と経綸。これこそ成熟した民主主義の素顔ではないだろうか。同じ悩みに完全に異なる形でアプローチしている韓国に与える含意が実に大きいといえる。

//ハンギョレ新聞社
ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1097391.html韓国語原文入力:2023-06-25 18:47
訳H.J

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