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[寄稿]「平和仲裁者」に生まれ変わろうとする中国、米国の選択は?

登録:2023-03-27 06:27 修正:2023-03-27 08:16
ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授 

各国の主権尊重、即時休戦と終戦要求および平和交渉の開始、人道主義的危機解決、一方的制裁の中断、戦後再建などを含む同和平案は、ウクライナ事態でも平和の仲裁者としてのイメージ確保を狙う中国の野心をうかがわせる。(…)国連が無気力な状態に陥り、米国とEUが仲裁の役割を果たせていない中、中国が素早く仲裁者を買って出た。休戦と終戦の突破口は見出せなかったものの、中国GSI外交の新たな姿を示しているといえる。
21日、習近平中国国家主席(左)とロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、モスクワのクレムリンで首脳会談を行った後に開かれた夕食会で乾杯している=モスクワ/ロイター・聯合ニュース

 2月21日、中国公共外交協会と北京大学が共同主催した「藍庁」(ブルールーム)フォーラムにオンラインで参加した。藍庁とは中国外交部記者室の会議場を指す言葉だ。基調演説者として出た秦剛外相は昨年4月、ボアオ(博鰲)アジアフォーラムで習近平国家主席が提案した「グローバル安全保障イニシアチブ」(GSI)の概念文書を発表し、6つの原則と20の具体的な協力方向を示した。秦外相はGSI構想が世界の安全保障問題に関する中国の代案であり、世界の紛争地域の問題を解決するための青写真になると強調した。

 同文書に盛り込まれた6つの原則は、共同、包括、協力、持続可能な安全保障ビジョンを堅持し、各国の主権と領土の完全性を尊重すると同時に、国連憲章の目的と原則を順守するというものだ。自国の安全保障のために他国の安全保障を侵害せず、対話と協議で紛争を解決し、伝統と非伝統の領域で安全保障を守らなければならないという内容も含まれている。細部協力案としては、大国間の調整とポジティブな相互作用促進、「核戦争では決して勝利できず、してはならない」という共同認識の維持、ウクライナ危機のような地域的問題の政治的解決、東南アジア諸国連合(ASEAN)中心の安全保障分野協力への支援などが提示された。

 どこかで聞いたような話ではないか。まるで米国の民主党の外交政策のルーツとも言えるウッドロウ・ウィルソン大統領の自由主義路線を連想させるほどだ。ジョー・バイデン民主党政権が中国けん制のために攻勢的現実主義の動きに乗り出している今、北京はむしろ自由主義を政策として掲げて差別化を図っているわけだ。文字通り歴史のアイロニーだ。

 筆者は藍庁フォーラムで二つの問題点を提起した。一つは普遍的なルールと国際法に基づく構想を「中国特有」のものとして示すのは適切でないという点、もう一つは実行可能性の限界だった。過去に習近平主席が出した「アジア安全保障構想」など様々な提案のうちきちんと実行されたものがなかったため、今回の提案は実行可能なのかという問いだった。中国側の関係者は前者に関しては答えなかったが、後者についてはまもなく可視的な措置があるから見守ってほしいと述べた。

 3月10日、その「可視的な措置」が姿を現した。中国政府の仲裁でイランとサウジアラビアの国家安全保障担当高官が北京で会合し、「両国が外交関係を修復し、2カ月以内に相手国に大使館を再び開くことで合意した」という共同声明を発表した。2016年にサウジ政府がシーア派聖職者の死刑を執行したことを機に両国の国交が断絶して以来、7年ぶりのことだ。イスラムスンニ派の宗主国であるサウジとシーア派の宗主国であるイランは、地域覇権をめぐって敵対的な競争を繰り広げており、イエメンやシリアなどで代理戦争を行ってきた。今回の妥結は中東和平に大きな好材料となるだろう。1978年のキャンプ・デービッド協定以来、中東和平の仲裁者であることを自負してきた米国を困惑させた一手だった。

 北京のこのような動きは中東にとどまらない。ウクライナ戦争から1年目の2月24日、中国は事態の政治的解決に向けた12の要求が盛り込まれた和平案を公開した。各国の主権の尊重、即時休戦と終戦要求および平和交渉の開始、人道主義的危機解決、一方的な制裁の中断、戦後再建などを含むこの和平案は、ウクライナ事態でも平和の仲裁者としてのイメージ確保を狙う中国の野心をうかがわせる。このため習近平主席は3月20日にロシアを訪問し、プーチン大統領と首脳会談を開き、ウクライナ側とも意思疎通を続けていると明らかにした。

 しかし、領土の返還、戦犯の処理、戦後復旧と戦争賠償問題に関する十分な議論なしには、休戦の実現は難しい。実際、今回の中ロ首脳会談も平和仲裁よりは両国の戦略的密着に帰結した。しかし、国連が無気力な状態に陥り、米国と欧州連合(EU)が仲裁の役割を果たせていない中、中国が素早く仲裁者を買って出た。休戦と終戦の突破口は見出せなかったものの、中国GSI外交の新たな姿を示しているといえる。

 中国外交はよく「戦狼外交」と呼ばれている。荒々しく攻撃的な外交の形態からついた異名だ。しかし、バイデン政権がインド太平洋戦略と価値観同盟を掲げて陣営構築を試みている最近の隙を狙って、北京はむしろ世界平和と安定のための仲裁外交を積極的に打ち出し始めた。世界は米国の同盟と友好国だけで構成されているのではなく、紛争と対立は主に米国の影響圏外で発生している。中国のGSI外交の動きが、米国の外交的指導力に対する大きな挑戦になりうるのもそのためだ。米国もこれを他山の石にして、新たな外交的発想を模索しなければならない。

//ハンギョレ新聞社
ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1085206.html韓国語原文入力:2023-03-27 02:39
訳H.J

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