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[寄稿]尹錫悦政権の価値観外交1年の成績表

登録:2023-05-22 07:22 修正:2023-05-22 08:13
「民主主義連合」と「権威主義の軸」という二分外交で韓国が中枢的役割を果たすという部分は大きく問題視される。そのような陣営論理は世界と地域の秩序を大きく害し、朝鮮半島の地政学的地位を危うくする恐れがある。日本との首脳外交が示したように、国民を説得する努力の不在と一方的な行為、相次ぐメッセージ管理の失敗は大統領に対する信頼と正統性を大きく傷つけた。 
 
ン・ジョンイン|延世大学名誉教授
米国を国賓訪問した尹錫悦大統領が先月28日(現地時間)、ハーバード・ケネディスクールで「自由へと向かう新たな旅程」をテーマに演説。その後、ジョセフ・ナイ教授と対談している/聯合ニュース

 4月末の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領による米国への国賓訪問は、ハーバード・ケネディスクールでの「自由へと向かう新たな旅程」と題する演説で終わった。この演説で尹大統領は、反知性主義や全体主義などによって自由と民主主義が危機に陥っていると診断しつつ、韓国は米国と共に価値観外交の先鋒となることを明らかにした。道徳的外交の指導者として目指すものがあらわになった演説だった。演説後の対談で司会を務めたハーバード大学のジョセフ・ナイ名誉教授はもちろん、一般聴衆も尹大統領の価値観外交に賛辞を送った。

 有名な国際政治学者であり、クリントン政権にもかかわったナイ教授は、2020年に出版した『国家にモラルはあるか?:戦後アメリカ大統領の外交政策を採点する』(原題:Do Morals Matter?)で、第2次世界大戦後の米国の歴代大統領の道徳的外交リーダーシップを意図、手段、結果という3つの基準で採点評価している。

 第1に意図の適実さ。指導者が提示する道徳的ビジョンはどれほど魅力的か、あわせてこのようなビジョンを追求する過程でリスクを最小化し国益を最大化するためにどれほど慎重に行動したか。第2に、外交政策の手段としての武力をどれほど分別をわきまえ適切に行使したか。そして武力行使において国内外の法と制度を順守し他国の権利を尊重したか。第3に、国民的合意と受け入れ、他国の利益に対する世界的考慮、そして心からの説得の論理で内外の信頼を構築してきたか。この3つを外交政策の結果に対する評価基準として提示した。

 この評価基準から見ると、尹錫悦政権のこの1年間の外交・安全保障政策の成績表はどうなるか。政権発足から1年が過ぎたばかりの政権にナイ教授の基準を適用するのは適切ではないかもしれないが、尹政権の外交・安保政策の基本的な方向性はすでに設定されており、急速に実行されている。暫定的な評価は十分に可能だ。

 まず、意図の適切さを見てみよう。尹大統領は就任後、普遍的価値を外交政策の基調としてきた。自由、民主主義、人権、法治、ルールにもとづいた国際秩序を強調し続けてきた。このような価値志向は魅力的だが、指導者の慎重さという視点からみると話が変わってくる。米国との価値の一体化を追求することで中国、ロシア、北朝鮮を過度に敵視したり、ワシントンよりも根本的な非妥協的態度を打ち出せば、現実的に韓国の安保と繁栄に及ぼす損失は大きくならざるを得ない。価値と国益を調和させなければならないという慎重さの徳目から考えると、良い成績は得られない。

 第2にの手段についての評価も同じだ。尹大統領は前政権の「朝鮮半島和平プロセス」を「偽りの平和」と規定し、「力による平和」のみが唯一の解決策だと強調してきた。独自の抑止力増強とともに韓米合同軍事訓練および演習、米国の戦略資産の前進配備、拡大抑止の強化に相当な力を入れてきた。一方、危機を安定的に管理したり、戦争の可能性を最小限に抑えたりするための予防外交の努力はほとんど見られない。北朝鮮の核の脅威に対して韓米日協調対応は強調しているが、交渉再開に向けた多国間外交の努力はなかった。外交政策の手段という面での武力の誇示あるいは使用と、外交的解決策との間に、深刻な不均衡があることを示唆する。

 ナイ教授は、大統領という地位は国民の信託を受けて外交政策を代行するポストであり、したがって国民的合意が必要不可欠だと述べる。しかし尹大統領には指導者としての決断があるのみで、国民的合意を得る過程はないようにみえる。野党を含む政治社会との協議の失敗は前例がないほどだ。特に「民主主義連合」と「権威主義の軸」という二分外交で韓国が中枢的役割を果たすという部分は大きく問題視される。そのような陣営論理は世界と地域の秩序を大きく害し、朝鮮半島の地政学的地位を危うくする恐れがある。日本との首脳外交が示したように、国民を説得する努力の不在と一方的な行為、相次ぐメッセージ管理の失敗は大統領に対する信頼と正統性を大きく傷つけた。

 ナイ教授の評価基準で考えると、尹錫悦大統領のこの1年間の外交・安保政策に高い点数をつけるのは困難だ。直ちに北朝鮮との軍事的衝突に至ったわけではなく、中国とロシアもまだ明示的に敵対的反応を示してはいないため、落第点は免れたとも言える。しかし今後、価値と国益を賢く調和させられず、危機の安定的管理と予防外交で新たな地平を切り開くことができなければ、外交・安保政策が失敗するのは自明にみえる。きめ細かな説得の努力と国民的合意の構築なしに、南北関係が悪化し、急激に陣営外交の沼にはまってしまえば、その悪影響は想像が容易ではない。そして、その被害は結局のところ国民にそのまま返ってくるということも留意しなければならない。

//ハンギョレ新聞社

ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1092655.html韓国語原文入力:2023-05-21 18:28
訳D.K

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