今年1月、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が「独自核保有」の可能性を示唆する発言をした後、韓国の「独自核武装」に関する議論に火がついている。1月30日、チェ・ジョンヒョン学術院が発表した世論調査によると、回答者1000人のうち76.6%が韓国独自の核開発の必要性に同意した。国会では2月15日、与党「国民の力」のチェ・ジェヒョン議員室と北東アジア外交安全保障フォーラムが共同主催した「韓国独自の核武装と韓米同盟の強化」という公開討論会も開かれた。1970年代以降、固く守られてきた韓国の核武装議論のタブーが崩れていることを示している。
核兵器保有の最大の大義名分は国家の安全保障だ。国家の安全保障の目標は国家の生存、繁栄、地位を保障することにある。しかし、核兵器を保有することで軍事的に強くなる道は国家の生存をさらに危険にさらし、繁栄を脅かすだけでなく、国際社会における韓国の地位に悪影響を及ぼす逆説的な結果をもたらしかねない。詳しく見てみよう。
核に基づく軍事力強化は、米国の拡大抑止をどこまで信じられるかという疑念と、「北朝鮮の核には韓国の核」で対応すべきという論理に基づいている。しかし、その選択は利益より損失の方が大きい。韓国の核保有は北朝鮮の核武力を強化し、朝鮮半島の核軍拡競争を激化させるだけでなく、エラー、誤認、誤算による核戦争の可能性を高めるためだ。また、中国とロシア極東の核戦力の増強と牽制を招き、朝鮮半島をめぐる軍事的緊張はさらに高まるだろう。韓国を牽制するための日本の核武装の動きにより、朝鮮半島が北東アジアの核ドミノの中心に立たされることも考えられる。
最大の危険は韓米同盟が破局する可能性だ。独自核武装論者たちは、韓国の核武装が中国を牽制する効果もあるため、米国は大きく反対しないだろうと主張するが、これは大きな誤算だ。ワシントンには韓米同盟を擁護する勢力よりも、核不拡散を守ろうとする勢力の方がはるかに強く、核兵器を手に入れた韓国が米国の言うことを聞くと信じる人も極めて少ない。したがって、韓国独自の核武装が韓米同盟を強化するという希望的な期待は虚構に近い。独自核武装に伴う韓米同盟の亀裂と北東アジアの脅威環境の悪化は、韓国にとって最悪の安全保障シナリオだ。
独自核武装論者たちはよくインドとパキスタンの事例を挙げ、核武装をしても国際社会の制裁圧迫に耐えることができると言う。これまた、過度な我田引水である。韓国の濃縮や再処理行為が国際原子力機関(IAEA)査察の過程で発覚した瞬間、IAEAは直ちに韓国を国連安全保障理事会に付託し、様々な制裁を論議することになる。2004年、韓国の一部の原子力科学者たちが0.2グラムという少量のウランを実験的に秘密で濃縮した代償がどれほど大きかったかを、私たちはまだ鮮明に覚えている。当時、米国や英国のような同盟・友好国が、どの国よりも積極的に制裁に乗り出した。さらに、米国、日本、欧州連合(EU)の独自制裁、特に米国の金融制裁は、輸出中心構造である韓国経済を瞬時に焦土化させる恐れがある。長い間、輸入代替戦略を貫いてきたインドやパキスタンとは、影響のレベルが全く違うだろう。
最も確実な結果の一つは、韓国の原子力産業が回復不可能な打撃を受けるという点だ。インドやパキスタンと違って、韓国の原子力産業は全面的に米国に依存してきた。韓国は1954年に制定された米原子力法第123条に基づき、米国が移転した核物質、資機材、技術を核兵器開発など軍事的に転用することが禁止されており、これに違反したり、IAEAの査察規定に違反した場合、移転物を直ちに米国に返還しなければならない。さらに、原子力供給国グループ(NSG)は韓国への原料供給を中止することになる。韓国が密かに核兵器開発事業を推進すれば、原子力産業の麻痺はもちろん、平和的利用目的の原子炉の輸出も不可能になる。
核保有による軍事力強化の道は、核拡散禁止条約(NPT)脱退を前提にしているため、大韓民国の国際的地位も深刻に損ねるだろう。韓国が民主主義国家の中で初めてNPTを脱退した国になれば、朝鮮半島非核化共同宣言以後、韓国が享受してきた国際舞台での北朝鮮に対する道徳的優位は消え、NPTの国際秩序を破壊した「ならず者国家」という汚名を避けられなくなるだろう。
韓国の核保有を求める人の多くが、独自の核武装でなければ無気力な屈従だけが我々に残された分かれ道であるかのように言っているが、その選択が我々の生存、繁栄、地位に及ぼす影響は致命的だ。ワシントンがいつにも増して東アジアの戦略的価値を重視し、拡大抑止のコミットメントを繰り返し確認しているのではないか。その上、韓米連合戦力構造も健在だ。対話と交渉を通じた外交的妥結の道もまだ残っている。このような状況で、なぜ自分の首を絞める独自核武装にこだわるのか、全く理解できない。
ムン・ジョンイン | 延世大学名誉教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )