大韓民国大統領が英国のある通信社とのインタビューで、ウクライナへの軍事支援の可能性に触れた。 ウクライナと戦争中のロシア政府は、「韓国政府がウクライナに兵器を供与するならば、ロシアも北朝鮮への兵器供与を考えるかもしれない」と警告した。このようなロシア政府の反応に大統領室は「何も言うことはない」と述べた。韓米首脳会談を1週間後に控えた4月19日の出来事だ。
兵器供与を示唆する尹大統領の発言は、米政府が韓国大統領室を盗聴し、米政府の要求で韓国政府がウクライナへの兵器供与について論議したことが盗聴内容に含まれた事実が公開され、韓国軍による海外への兵器搬出の情況が次々と確認されている時点で出たものだ。
このまま韓米首脳会談が進めば、韓国政府のウクライナへの兵器供与が公式化されるだけでなく、今後4年間、韓国政府は米国政府の要求に従ってすべてを差し出すことで、みずから朝鮮半島の軍事的緊張を招き、さらに5千万国民の安全と生計をこれまでにない危険にさらすことになるだろう。まず国会が国政調査案、兵器供与の決定および海外搬出承認過程の責任者に対する弾劾案の発議などの措置を取り、首脳会談で大統領が何の約束をしてもそれを元に戻せる最小限の基盤を用意しておく必要がある。交戦国に殺傷目的の兵器を供与するのは現行法違反であるため、大義名分は現状でも十分だ。
そして米ロ、米中対立と軍事的緊張が高まっている世界で、韓国政府の外交政策がどこに向かうべきかに関する市民の同意を問う様々な公論の場が設けられなければならない。国会、政党だけでなく学界、マスコミ、市民団体、町内会に至るまで多様な空間で、今何が起きているのか、5千万の安全を守るべき政府は何をすべきかについて議論する必要がある。
大統領と大統領室、関連長官にすべてを委任し、あれこれ勧告をしながら余裕を持って見守る時期はもう過ぎた。私たちはこの1年間、事前に協議されていない大統領の電撃発言と行動を隠すために奔走する大統領室と、政府内で何が起こっているのか把握できず、突拍子もない発言を連発する首相の姿を目にしてきた。今、大韓民国で韓国政府の外交政策を誰が決めるのか、なぜそのような決定を下したのか、まともに理解している人はほとんどいない。
その間、韓国政府の外交は対日、対中、対ロ、対米政策すべての領域で、民主化以後35年間にわたり歴代政権が維持してきた共通の軌道から大きく外れてしまった。米政府が国際軍事紛争に韓国政府を介入させようとした試みは常に存在していた。米政府の圧力で、金大中(キム・デジュン)政権時代にはアフガニスタンに、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代にはイラクに派兵したこともあった。しかし最後まで守り抜いたのは「平和的目的」という大義名分であり、その大義名分を守ったことで戦闘兵の派兵は免れた。ところが現政権は、過去数十年間、歴代政府が積み重ねてきた外交的成果を一気に崩し、交戦国に殺傷力のある兵器を供与しようとしている。
どちらか一方の大国に振り回されることなく、実利外交を追求してきたのも、これまで35年間にわたる歴代政権の共通軌道だった。北方政策で対中国交正常化を成し遂げたのは盧泰愚(ノ・テウ)政権であり、中国との関係を「戦略的協力パートナー関係」に格上げしたのは李明博(イ・ミョンバク)政権だった。THAAD(高高度防衛ミサイル)配備を受け入れたことで中国と緊張関係を作ったが、米国政府の反対にもかかわらず、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への加盟を決めたのが朴槿恵(パク・クネ)政権だった。中国とロシアが好きだったからではない。国民の安全と生計のために必要だったからだ。ところが現政権は1年という短い期間に中国とロシアを敵に回し、5千万を危険にさらしている。
懸案に関する立場にかかわらず、日本政府と軍事的距離を維持してきたのも歴代政権の共通路線だった。しかし現政権は日本政府とともに軍事訓練を行い、軍事情報を交換することに全く躊躇いがない。歴代政権が米国の圧力にもかかわらず日本との軍事的密着を何とか避けてきたのは、それが5千万の安全を脅かす道という共通認識があったからだ。
もはや韓国政府の外交は「無能外交」「屈辱外交」という断片的な批判や嘲弄の対象となる段階を越えた。全国民が乗り出して、真剣に私たちの未来をかけて現政権に問わなければならない。この事態にどう責任を取るのかと。