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[寄稿]ベトナム民間人虐殺と、私たちの良心のための平和=韓国

登録:2022-12-15 03:06 修正:2022-12-15 08:09
ドアン・ホン・レ|ドキュメンタリー監督
2018年4月19日午前、フォンニィ・フォンニャット事件の生存者グエン・ティ・タンさん(左)が韓国の国会で当時の状況を証言しつつ涙を流している。右はハミ事件の生存者グエン・ティ・タンさん。2人は同姓同名=カン・チャングァン記者//ハンギョレ新聞社

 「2022年12月5日のソウル会談後、ベトナムのグエン・スアン・フック国家主席と韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は記者会見を行い、両国関係を『包括的戦略的パートナーシップ』へと引き上げることで合意した」と語った。これは今後、ベトナムと韓国の協力関係拡大の機会を開くきっかけになるという点で重要な事件といえる」

 私は自分のドキュメンタリープロジェクト『平和への道』で8月に撮影したシーンを見ている時に、このニュースに接した。1968年にベトナムで起きたフォンニィ・フォンニャット虐殺事件について、韓国政府に謝罪と賠償を求める訴訟を行っている被害者のグエン・ティ・タンさんは、8月の訪韓時に、ある記者会見でこのような質問を受けた。「現在のベトナムと韓国の関係についてどう思いますか」。タンさんは答えた。「私は2000年以前は韓国に対する憎しみがありました。しかしその後、多くの韓国人に会って言葉を交わすことで慰められ、私の苦しみもかなり和らぎました。今、私は彼らを私の友人だと思っています」。裁判の準備過程で原告の弁護人は、タンさんにこのように尋ねた。「法廷ではこんな質問をされる可能性があります。『現在、ベトナムと韓国の関係は非常に良いが、虐殺被害は非常に昔のことだ。なぜ、そして何のために当時のことをこのように暴き、掘り起こさねばならないのか』と」。タンさんは、自分の進む道が正しいと信じる人だからこそ発せる断固とした声で答えた。「韓国政府が自分たちの兵士の犯したフォンニィ・フォンニャット虐殺事件を認めれば、両国の関係はさらに良くなると思います」

 私は戦後生まれで、ベトナムでドキュメンタリーを作っている。戦争当時の韓国軍について知っているのは、従軍記者だった私の父に聞いた話くらいだった。しかし、このテーマについて深く掘り下げることで、私はようやく韓国軍による民間人虐殺の被害者の苦しみの真実を知った。戦争が終わって韓国軍の最後の足跡も消え去り、今年はベトナムと韓国の国交正常化30周年だ。この30年間、ベトナム人は韓国人がベトナムを行き来し、働き、愛し、結婚し、旅する姿を見守ってきた。若い世代はK-POPと韓国のイメージに歓呼するが、ごく少数は過去の両国の屈曲した凄惨な出会いについて知っている。もちろん、韓国軍に関する老年層のそのような記憶も次第に薄れてきているが、毎年正月にベトナム中部の様々な村で行われる「タイハンの祭祀」(韓国軍に虐殺された民間人を追悼する祭祀)のような集団記憶の中には、当時の暗い記憶が今も残っている。

 5年前にソウルで行われた顕忠日追悼式で、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、ベトナム戦争に参戦した「功労者」の名誉を語り、ベトナム外務省はハノイの韓国大使館に「厳重な外交的」連絡を取った。「我々は韓国政府に対し、ベトナム国民の感情を傷つけ、両国の友好と協力関係に否定的な影響を与えうる言動と行動を控えるよう要請する」。戦争が終わったのはかなり前なのでベトナム人は過去を忘れたと考えられているのとは異なり、ベトナム人は過去をしばらくしまってあるのであって、忘れたわけではない。韓国軍についてのベトナム人の心と記憶は深く複雑で、その傷は時間と共に傷跡として残り、季節と気候が変わる度に全身がうずく。

 グエン・ティ・タンさんとフォンニィ・フォンニャット村の住民たちは、2023年1月中旬に言い渡される国家賠償訴訟の一審判決を待っている。まもなく虐殺から55年目の年とタイハンの祭祀もやって来る。彼らにとって勝訴は、虐殺事件で犠牲となった魂を慰めるだけでなく、半世紀を超える長きにわたる過去の苦しみを、彼らの望み通りに閉じることでもある。それは真実と良心、そして人間の品格の勝利でもある。数年の間、グエン・ティ・タンさんと韓国の市民社会は忍耐強く今回の訴訟を共にしてきた。今回の裁判は単なる法廷闘争ではなく、両者の共感と連帯を通じた出会いでもあった。おそらく、それは今回の訴訟が、私たち人類が追求してきた普遍的な価値にもとづいているからではないか。両国間の平和は、まさに我々の良心のための平和でなければならず、そうしてはじめて、人道的で美しい平和と呼ぶことができるだろう。

 私たちはみな、それぞれ過去を持っており、その過去を見つめる瞳の中には未来の姿を映し出す鏡があるのだ。

//ハンギョレ新聞社

ドアン・ホン・レ|ドキュメンタリー監督 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1071454.html韓国語原文入力:2022-12-13 19:38
訳D.K

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