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現代自動車「アトラス」ショック…ロボットによる雇用破壊はロボット税より早いか

登録:2026-03-08 20:12 修正:2026-03-09 09:49
[エコノミーインサイト_Economy insight] 
経済の裏側
ヒューマノイドロボット「アトラス」=ボストンダイナミクスのホームページより//ハンギョレ新聞社

 2026年1月、米ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市(CES)の主役は誰が何と言おうと、ボストンダイナミクスのヒューマノイドロボット「アトラス」だった。ボストンダイナミクスの最大株主は現代自動車グループであり、この発表以降、現代自動車の株価は100%以上急騰した。人間のような精巧な動き、人間より優れた力、そして人間には真似できない柔軟な関節まで、すぐにでも工場に投入できそうなロボットだった。

 証券業界では、アトラスの価格は13万ドル(約2千万円)程度になると見込まれている。約2年分の労働コストに相当する金額だ。アトラスには休憩時間や昼食時間は必要ない。さらに、バッテリーが切れると自ら交換に行く。1日に8時間ではなく16時間働かせても、追加労働手当を要求しない。

■使用場所が明確なロボット

 ヒューマノイドロボットが2026年に特に注目されるのには理由がある。これまでさまざまなロボットが登場したが、使用先は明確でなかった。現代自動車は実際の工場に投入できるレベルのアトラスを披露し、2028年からは米ジョージア州の現代自動車メタプラントに導入するという具体的なスケジュールも公開した。

 ロボット技術の参入障壁が大幅に低くなった点も期待を高めた。ロボットを作る際に最も難しい点は「頭脳」だ。ロボット企業は大規模な投資が必要な人工知能(AI)モデルを構築するのに限界がある。グーグルやエヌビディアなどの大手AI企業は、ロボットが利用できるソリューションを公開した。今回のCESには2025年とは比較にならないほど多くのロボット企業が参加した現象もこれに関連している。現代自動車グループがさらに注目を集めた理由は、自社が需要先になり得るためだ。ロボットを製作すれば、現代自動車が直接購入し、自社および系列会社の工場に配置できる。

 現代自動車の労働組合はアトラスの「入社」に反対する声明を発表した。労働組合は「労使合意なしには1台のロボットも現場に入ることはできない。年俸1億ウォン(約1060万円)を基準に24時間稼働した場合、3人の人件費は年間3億ウォンかかるが、ロボットは初期購入費の他には維持費しか発生しない」と強調した。一部では現代自動車の労働組合の行動を「貴族労組」と批判した。

 一方では、ロボットの導入を避けられない時代の流れと見なしている。韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領も最近の首席補佐官会議で「転がってくる巨大な荷車を避けることはできず、結局その社会に早く適応しなければならない」と述べた。

 本当にヒューマノイドロボットは人間の仕事を代替できるのだろうか。現代自動車でロボットを製造している上級関係者と話をした。彼は現在の技術レベルでは人間を完全に代替するのは時期尚早だと述べた。自動車の生産工程は、プレス・車体・塗装・艤装に分かれる。車体を製造し色を塗る塗装工程までは、すでに相当なレベルの自動化が進んでいる。現在、人が配置されているのはシートや計器盤など車両内部の部品を搭載する艤装工程だ。摩擦力と力の微細な調整が必要な装飾工程をロボットが完全に代替できるかどうかはまだわからない。

 一旦ロボットが量産され工場に配置されれば、重い部品を持ち上げて移動させる単純な繰り返し作業を支援する可能性が高いというのがロボット専門家の現実的な診断だ。何よりも、強力な労働法と労働組合が守る現職労働者を解雇することは現実的に不可能だ。労働者の仕事を脅かすことなく、厳しい仕事を代わりにやってくれる。皮肉なことに、ロボット導入に反対する現代自動車の労働組合は、ロボット導入の最大の恩恵を受ける可能性がある。雇用は維持しつつ、業務の負荷は軽減できるからだ。もちろん、中長期的には雇用に影響を与える可能性がある。その影響は現在の労働者よりも未来の労働者、若者たちがより大きく受ける可能性がある。

現代自動車でロボットを製造している高位関係者は、現在の技術レベルではロボットが完全に人間を代替するのは時期尚早だと述べた。2022年1月、インドネシアの「ブカシ・デルタマス工業団地」内の現代自動車の工場の車体棟に設置されたロボット400台以上が溶接などで車体を組み立てている/聯合ニュース

 米スタンフォード大学の研究チームは「炭鉱の中のカナリア? AIの雇用効果に関する6つの事実」という論文で、データに基づく洞察を提供している。研究チームは、米国の主要企業向け給与精算ソリューションを提供するADP(Automatic Data Processing)のデータを活用し、AI導入が雇用に与える影響を測定した。結論は明確だった。AIにさらされている職種では、特に22~25歳の若者の雇用が減少している。開発者やカスタマーサービスなどの職務で見られる共通の形態だった。

■若者の雇用に直撃弾

 青年層が特にAIへの転換に影響を受ける理由は、まだ雇用されていないからだ。現在勤務している人をすぐに解雇したり、賃金を下げることはできない。代わりに、雇用保護対象から外れた新規採用は減る。AIやロボットが導入される範囲が広がるほど、労働市場は硬直化し、世代間の対立が本格化する可能性がある。

 短期的には若者が主に影響を受けるが、中長期的には皆が影響を受ける。ロボットへの転換による社会的負担をどのように受け止めるかについての考慮が必要な理由だ。仕事を失った労働者の生活だけが問題なのではない。労働者の別名は消費者だ。消費者の購買力が減少すれば、企業の売上も減少せざるを得ない。労働者がいなくなれば、消費者もいなくなり、企業の売上もなくなる。

 最も普遍的に議論されている制度は「ロボット税」だ。2017年、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツは「労働者は賃金に対して税金を払うのに、ロボットはなぜ税金を払わないのか」という最も常識的な問題提起とともにロボット税を代案として提案した。ロボットの導入によって得られた利益の一部を福祉、再教育、基本所得の資金として活用しようという趣旨だ。

 概念自体はシンプルに見えるが、実際に適用するには考慮すべき点が多い。ロボット税をどのように課税するのか。ロボットが代替した労働者の賃金を基準に税金を課す「仮想所得税」、ロボット導入によって企業が得た超過利益に対して課される「超過利益税」、AIの使用に課される「AI消費税」などが挙げられる。方式ごとに長所と短所があるが、ロボット導入の効果なのか、マーケティングなど他の要因による効果なのかを詳細に見極めるのが難しいという限界がある。

 精巧な制度的設計に先立ち、ロボット税の導入自体が論争の対象となる。ロボット導入が雇用に与える影響は、観察対象の範囲によって異なる可能性がある。ロボットを導入して事業が拡大すれば、雇用も増える可能性がある。ロボットを導入しないことで競争力が低下した企業は、雇用を減らさざるを得ない。個別企業単位で見ると、ロボットの導入が雇用を促進する可能性がある。国家レベルではロボット導入が総雇用に与える影響を考慮する必要がある。

 国家も競争の観点から見ると、企業と同様の問題に直面する。ロボット税はロボットの導入コストを高め、導入を遅らせる効果がある。特定の国でロボット税を導入した場合、ロボット税を導入しない国に工場を移転する税逃れの現象が起きる可能性がある。工場がないよりは、ロボットを導入した工場でもできる方が雇用に有利だ。長期的にはロボット導入が人類の雇用を減らすかもしれないが、過渡期にはロボットを先に導入した企業や国の雇用が増える可能性がある。このような理由から、税逃れ現象を防ぐために複数の国の協議が必要だという主張が出ている。

■「公共AI」の導入も選択肢

 ロボット税の他に「公共AI」の導入も一部の代替案となる可能性がある。公共AIは、病院費、教育費、交通費などの公共財領域にAIを導入し、実質的な生活費を削減する方式だ。また、週あたりの労働時間を減らし、仕事を分かち合う方法も代替案となる可能性がある。公共AIも資金が必要であり、雇用の分配も企業が損失を被る賃金差分だけ資金が必要だ。どのような方法であれ、ロボット導入による利益を社会的に分配する構造を確立しなければならない。

 ロボットが人間の仕事を代替する問題に対する対策が必要だという点は誰もが共感できる。しかし、技術革新によって雇用が減少する時点と、それを制度的に補完する時点には違いが出ざるを得ない。技術革新と経済的変化は急速に進行し、社会的変化はゆっくりと表れる。雇用の減少と消費力の崩壊が先に訪れ、豊かな分配が遅れてくる不均衡の時代を私たちは迎えるしかない。

 現代自動車労組のアトラス導入反対の主張は、国家と企業の競争力の観点から受け入れられにくい。高い年俸を取る現代自動車の労働組合が「収入を守る」のが憎らしく感じられることもありうる。しかし、私たちが何を準備すべきかについての考察は必要だ。正解はないが、質問を見逃せば私たちは最も重要なものを失う可能性がある。雇用は技術の問題ではなく、社会の選択であるという事実を明確に認識しなければならない。

クォン・スンウ|サムプロTV取材チーム長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/1248127.html韓国語原文入力:2026-03-07 16:34
訳J.S

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