「今日、最後に刺身の出前を頼んで食べました。これからは刺身を食べるのは難しいと思うからです。こんな状況で韓国政府は積極的に対応するどころか、『原発汚染水は安全だ』という広告まで作ったなんて…。一切れ一切れ食べていたら、何か悲壮な思いさえしてきました」
ソウル麻浦区(マポグ)に住むYさん(43)は、日本政府が原発汚染水の放出を24日から開始すると発表した22日、夕食は刺身の出前を頼んで食べたと話した。Yさんは「韓国の漁民を考えると気が沈むが、原発汚染水が海洋生態系にどんな影響を及ぼすか分からないので、この刺身が最後だと思って出前を取った」と語った。
日本政府による福島第一原子力発電所の汚染水の海洋放出が目前に迫った23日、市民の不安と商人たちの危機感は高まっている。秋夕(チュソク、旧暦8月15日)を1カ月後に控えているため、海産物のギフトセットの販売にも影響が出るとみられる。
海産物を売る商人は、政府に対する恨みを吐露する。ソウル冠岳区(クァナック)の刺身屋の店主は、「すでに汚染水の放出が確実視されているため売上は30%以上減っているが、今後がさらに心配だ。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は、漁民や商人は死のうがどうしようが構わないというのか。どこの国の政府なのか疑念がわく」と声を強めた。
刺身屋だけではない。海産物と少しでも関係のある食品を売る商売人たちは、原発汚染水の放出の影響は避けられないだろうと口をそろえる。ソウル永登浦区(ヨンドゥンポグ)のカルグクス(手打ち麺)屋の店主は、「昨日、ニュースを見ながらアサリのカルグクスを食べていたお客さんたちが『もうアサリも危ないのではないか』と言っていた」とし、「韓国産のアサリだけを使っていると案内したところで無駄だと思うので、事態が落ち着くまでは『エゴマのカルグクス』など海産物を使わないメニューだけを売るつもりだ」と言ってため息をついた。
大規模なスーパーやデパートなどは先を争って「放射能検査完了」、「汚染水放出前の事前仕入れ分」であることを強調したり、自主的な精密分析装置の導入を発表したりしているが、秋夕を控えてギフトを準備する消費者の苦悩も大きくなっている。
個人事業を営むWさん(46)は、「主な取引先や家族、知人には毎年名節にアワビや干しイシモチのセットなどを贈ってきたが、今年は贈っても陰口を言われそうだ」とし、「社員と相談して贈り物のリストから海産物セットは外すことにした」と話した。
主婦たちは、真空パックされた干し魚を冷凍庫に保管するというやり方で準備に当たっている。40代の主婦のJさんは、「一昨日に束草(ソクチョ)に行ってきた。家族と真空パックされた干し魚を何箱も買って、分けて冷凍庫に保管しておいた」、「友人に『魚が食べたくなったら取り出して揚げて食べれば良い』と助言してもらったので、その方法を使うことにした」と話した。
外食業界も汚染水放出の影響に神経をとがらせている。ある外食フランチャイズの関係者は「新型コロナウイルス禍の余波で店舗数が減るなどの打撃を受け、最近は外食物価の上昇にともなう消費低迷で困難が続いている中で、汚染水問題まで起こるものだから踏んだり蹴ったり」だとし、「日本産ではないものの海産物食材は少なくないため、火の粉が降りかかって来るのではないかと心配だ。危機感はすぐに消えるという楽観論ばかりを信じているわけにはいかないため、放射能測定装置の自主導入を検討中」だと語った。