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[レビュー]化石燃料パーティーのさなかに都市は沈みつつある

登録:2021-11-20 03:10 修正:2021-11-21 07:12
地球温暖化で氷河が溶けて海面が上昇 
マイアミ、ベネチア、マーシャル諸島などは危険迫る 
「化石燃料の使用をやめなければ被害は減らせない」 
 
『水が押し寄せてくる―上昇する海面、沈みゆく都市、そして文明世界の大転換』 
ジェフ・グッデル著、パク・チュンソ訳、ブックトリガー、2万1000ウォン
南太平洋の島国ツバルのサイモン・コフェ外相が8日、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に際し、水中で声明を発表している。コフェ外相は地球温暖化による海面の上昇で水没の危機にあるツバルの現実を伝えるため、ツバルの海辺でこの映像を撮影した。撮影地域もかつては陸地だった。コフェ外相は「海水が上昇しつつある中、口約束ばかりを待つ余裕はない」とし「私たちの明日を守るために果敢な措置を取るべき」と述べた=YouTubeの動画をキャプチャー/ロイター
『水が押し寄せてくる―上昇する海面、沈みゆく都市、そして文明世界の大転換』ジェフ・グッデル著、パク・チュンソ訳、ブックトリガー//ハンギョレ新聞社

 『水が押し寄せてくる』は、地球温暖化による海面上昇の現実を示し、その危険性を警告した本である。米国のジャーナリストである著者は、米国のニューヨーク、ノーフォーク、マイアミ、キバリナをはじめ、ナイジェリアのラゴス、イタリアのベネチア、オランダのロッテルダム、マーシャル諸島のマジュロなど、海面上昇の危機に直面している都市を訪ね、海面の上昇が人々の暮らしにどのような影響を及ぼすのか、各都市はこれに対してどのような対応をしているのかなどを探る。

 海面の上昇は、現代に新たに現れた現象ではない。40億年もの地球の歴史を通じて、海は上昇と下降を繰り返してきた。12万年前の最後の間氷期には、海面は今より6~9メートル高かった。2万年前の最後の氷河期の絶頂期には、今より120メートルも低かった。「今日の状況に違いがあるとすれば、人間が惑星を熱くし、グリーンランドと南極の巨大な氷床を溶かすというやり方で、こうした自然のリズムに干渉しているという点だ」。気候変動反対論者たちは、こうした事実を否定する。著者は、米国バージニア州議会においてある共和党議員が「海面の上昇」を指して「左派の用語」と言ったと述べる。代わりに使われる表現は「繰り返される洪水」だ。著者の立場は断固としたものだ。彼は「海面の上昇は今の時代の最重要な事実の一つであり、重力と同じく実在する」と語る。20世紀に海は約15センチ上昇した。今日の海は前世紀の2倍以上の速さで上昇している。米国立海洋大気局の2017年の報告書によると、全世界の海面上昇幅は2100年までに最小約30センチから最大250センチ以上に達しうる。

 著者がまず訪ねたのはグリーンランドだ。「将来、マイアミやニューヨーク、ベネチアやその他の沿岸都市を沈めるほとんどの水は、次の2カ所に由来するだろう。1カ所は南極、もう1カ所はグリーンランドだ」。この20年間で北極圏は1.6度以上暖かくなった。世界平均の2倍の速さだ。米国航空宇宙局(NASA)によると、現在グリーンランドから毎年消えていっている氷の量は、1990年代を通じて消えた氷の量の3倍にのぼる。2012年から2016年の間だけでも1兆トンの氷が消えたが、これはエベレストより高い氷の六面体を作れる量だ。

 海面上昇の直接的な被害地域は沿岸都市と島国だ。米国南部のリゾート都市フロリダ州マイアミは、海面の上昇に伴って次第に多くの地域が浸水しつつある。フロリダ州の人口の4分の3以上が沿岸地域に住む。沿岸の住宅、道路、事務用の建物、コンドミニアム、電線、水道管、下水管などは、いずれも暴風による高波と満潮に対して脆弱になっている。今後も数年にわたり海面上昇が続けば、このようなインフラの多くは再整備、または移設しなければならないだろう。ある報告書によると、2050年までに150億~230億ドル相当のフロリダの不動産が浸水する可能性がある。

 由緒ある観光都市ベネチアは、常に浸水に悩まされている。1940年代には、ベネチアの洪水は年に10回程度だったが、今は年に75回も発生している。海面の上昇により、塩水が数多くの歴史的な建物のレンガと大理石の間に染み込んでいる。著者が訪ねたある専門家は「果たしてどうやったらベネチアを救えるのか、私にもわかりません。しかし、ベネチアは実に1000年以上もここにありました。(…)何としても私たちはそれに対処する方法を探し出すつもりです」と述べている。

 400人あまりの人が住むアラスカの島キバリナは、海面の上昇で毎年18メートルずつ海岸線が侵食されている。さらに永久凍土層が溶け出して土壌が不安定になり、住宅が崩壊して海に落ちていっている。町を本土のより高いところに移転するには1億ドルが必要だが、州政府にも連邦政府にもその費用を負担する意思はない。

 おそらく海面上昇の苦しみを最も大きく感じているのは、マーシャル諸島のような太平洋やインド洋の島国だろう。しかし、この問題に責任を取るべき部分は、彼らにはほとんどない。マーシャル諸島の住民がこの50年間に排出した二酸化炭素の総量は、米オレゴン州ポートランド市の年間排出量よりも少ない。彼らは「他の国々の野放図に苦しんでいる」。気候変動は西洋が200年以上にわたって行ってきた「化石燃料パーティー」のせいで始まったものだからだ。マーシャル諸島には移住するに値する高地もまったくない。そこが水に浸かってしまえばすべてが消えるわけだ。島国の立場からすれば、海面の上昇は住宅と生計だけでなく、言語や文化やアイデンティティすら危うくするのだ。

 海面の上昇は富める国、貧しい国を問わないが、海面の上昇に対する対応はそうではない。海面の上昇に対応するには何よりも「金」が必要だ。「豊かな都市と国は海岸に防壁を築き、下水道施設を改善し、主要インフラを再建するだけの余力が十分にある一方で、貧しい都市と国にはそのような余力はない」

 海面の上昇を防ぐ根本的な方法は、化石燃料の利用を減らすことだ。二酸化炭素の削減で気温上昇を産業化以前から1.5度以内に抑えられれば、今世紀の海面上昇は60センチにとどまるだろう。化石燃料「パーティー」をやめなければ、海面上昇は1メートルをはるかに超えるだろう。

 結局、私たちが答えなければならない問いは次のようなものだ。「果たしてどの時点で、私たちは二酸化炭素による汚染を減らすための劇的な行動に突入するのか。上昇する水に都市が備えるための適切なインフラ整備に数十億ドルを使うのか、それとも手遅れになるまで何もしないでおくのか。私たちは水没した海岸や島から来た被災者を歓迎するのか、それとも閉じ込めておくのか」

アン・ソンヒ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/1019951.html韓国語原文入力:2021-11-19 05:00
訳D.K

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