25歳のSさんは「常識が崩壊した」という思いで眠れず、6日の午前2時にソウル松坡区(ソンパグ)のオリンピック公園へと向かった。35歳のJさんも「不正選挙論とユン・アゲインだけが怒っているわけではない」ことを示すために「デモ隊」に加わった。大学院生のCさん(36)は、現場にやって来た数千人の人々が集うグループチャットを常にチェックしつつも、彼らとは一緒にやれなかった。「不当なレッテルを貼られるかもしれない」という恐怖が原因だった。
韓国の統一地方選挙の投票用紙不足事態をきっかけに起きた抗議行動は、10日で丸1週間になる。参政権侵害に対する常識的な怒りと、それを不正選挙論の燃料にしようとする極右政治界隈の欲望が入り混じった「混乱した広場」で最も目立つのは、20代から30代の若者たちだ。彼らはそれぞれ異なる視点からこの1週間を説明したが、「手続き的公正」が傷つけられたことに対する怒りに「極右勢力の反発」というレッテルを貼った初期の雰囲気が自分たちを動かしたと口をそろえた。怒りを表明するとともに、真剣に議論する「空間」を望んでいることも語った。
■「正当な怒り、極右扱いにさらなる怒り」
投票用紙不足事態の発生から1週間でデモの様相は劇的な変化を遂げた。3日の夜、蚕室(チャムシル)7洞第2投票所に最初に集った怒りは、実際に投票権を失ったか、投票権行使に苦労した住民たちによるものだった。投票が4時間遅れて終了した夜10時ごろから、不正選挙論の主張者たちが前面に立ち、支持者たちが集まりはじめた。極右・陰謀論的な性格の「投票箱封鎖デモ」は、5日に投票箱がようやく運ばれたオリンピック公園のハンドボール競技場に場を移し、「開票所封鎖デモ」となった。
流れは週末の6日から7日を起点として変化した。SNSへの様々な投稿を見て、保守的な傾向の若者だけでなく、政治に無関心だった若者までもが大量に流入し、外延が拡大したのだ。現場には「再選挙(選挙やり直し)以外の政治スローガン禁止」を呼びかける掲示が登場し、一部の参加者は星条旗を掲げる保守系ユーチューバーを制止した。6日の早朝に集会にやって来たSさんは、「政治に興味がなさそうに見える同世代が多くて驚いた」と語った。
当初、彼らの怒りを「極右デモ」とみなすのみだった政界やメディアの視線も、新たな参加者流入の原動力となった。10カ月の赤ちゃんを連れてオリンピック公園にやって来たJさんは「純粋に選挙のやり直しを求める人がいるのに、不正選挙や前大統領の復権を求める人ばかりが注目されているのが不快だった」と語った。
尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の弾劾デモなどの様々な集会に参加した経験を持つ会社員のLさん(31)は、「(集会に参加している若者は)明らかに非常識な事柄に問題を提起しただけなのに、与党の反応は煮え切らず、『極右の不正選挙論者』というレッテルを貼る視線もあるので怒りを覚えた」として、「彼らはこの問題を政治的に有利か不利かではなく、手続きや制度の公正の問題として捉えている」と指摘した。
■「問題意識を受け止めてくれる安全な空間の欠如」
しかし進歩的な傾向の若者たちにとって、「蚕室デモ」は正当な怒りを安全に吐き出せる場所ではなかった。週末を過ぎるころから、オリンピック公園を覆う集会のスローガンは「選挙やり直し」から「不正選挙・再選挙」へと変わり、現場でそれを制御しようとする人々は「スパイ」呼ばわりされるようになった。主催者も中心もなくSNSを通じて結集したデモは、一瞬にして極端な陰謀論に変質するほどぜい弱だった。
大学院生のCさんは、当初から事態対応にあたる数千人規模の団体チャットルームに入ってこの状況を見守っていたという。Cさんは「初期にはチャットルーム運営陣が過激なスローガンを控えさせ、デモを『不正選挙論』から切り離そうとしていたが、7日の夜から『何の資格があってスローガンを制限するのか』と言って様々なヘイトスピーチが飛び交いはじめた」と語った。進歩的な傾向を持つもののデモ参加を検討していたCさんは、現場には行かないことを決めた。
Lさんは7日の夜に集会に参加した際、実際に「摘発作業」を目撃した。Lさんは現場で「一部の参加者が『大進連(韓国大学生進歩連合)だろ。出て行け』と他の参加者を乱暴に突き飛ばす場面を目撃し、衝撃を受けた」「ここではカラーの異なる主張をすると実際に脅される可能性があると思った」と語った。
ハンドボールのユース選手に対して権限もないのに所持品検査を行うなど、デモの「行き過ぎ」が目に付くようになり、極端な主張に飲み込まれた怒りの空間は、今や大学街に移りつつある。12大学の学生会は10日、各大学のキャンパスで、統一地方選挙の投票用紙不足事態の糾弾を趣旨とする時局宣言と手書きのプラカードデモを同時多発で行う。偶然にも10日は、6・10民主抗争が起こってからちょうど39年目に当たる。
Cさんはこの1週間のデモの混乱を振り返りつつ、投票用紙不足事態に対して「広場」の不在を問いかけた。「真っ当な問題意識を真剣に受け止め、代案を模索してくれる市民社会や、責任ある政治的空間が、完全に欠如していた1週間ではなかったでしょうか」