ソウルのど真ん中とは思えない静寂が、やがて涙と歓声、安堵とともに吐き出すため息に変わった。韓国の最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補の勝利を予想した放送会社の出口調査結果が発表された3日午後8時、ソウル清渓(チョンゲ)広場に集まって放送中継を見守っていた市民たちは、上気した顔で互いに抱きあった。「ここに出て一緒に歓声でもあげないと、この6カ月間続いた胸のつかえがとれないような気がしました」。京畿道高陽市(コヤンシ)から来た会社員のクォン・イルリャンさん(50)が歓声の意味を説明した。喜びよりも「ひとまず安堵」に近かった。
12・3内乱事態からちょうど6カ月、至難だった冬と春を超え、李在明候補を韓国の新大統領に選んだ市民たちは慎重に「再スタート」への期待感を覗かせた。市民の期待は常識的ながらも、重みのあるものだった。「安全が保障される」、「働いた分だけ報酬が得られる」、「法を信じて暮らせる世の中にしてほしい」と語った。「国民が国の主人であることを忘れないこと」で、「新大統領の5年は無事であること」を願った。
娘のジュヨンさんを梨泰院(イテウォン)惨事で失った10・29梨泰院惨事遺族協議会のイ・ジョンミン運営委員長は、新大統領の当選のニュースを携帯電話で見ながら、再び「安全と命」を思い浮かべた。「国民の安全と命を守ることが国家の基本。最小限の役割にすら背を向ける政権が二度と繰り返されてはなりません」。李在明時期大統領は惨事被害者が求めてきた「生命安全基本法」を公約に掲げた。イ・ジョンミン運営委員長は「大統領と公職者が責任を取る姿勢も切に求められる」とし、「よくやったことは褒められ、過ちについては責任を取ることができる大統領になってほしい」と語った。
内乱事態以後、長い時間を弾劾の広場で過ごしたソ・チャンウォンさん(27)は、広場を通じて知った「高所座り込み労働者」の話を新大統領に伝えたいと話した。「韓国オプティカルの労働者、パク・ジョンヘさんの高所座り込みデモは世界記録を更新するほど長い期間となっており、世宗ホテルの労働者のコ・ジンスさんも、造船下請け労働者のキム・ヒョンスさんも、高所で闘い続けているということを忘れず、解決してほしい」とし、「非正規職労働者も権利を行使できるよう、公約した通り労働組合法の改正に取り組んでほしい」と語った。
市民たちが望む「経済回復」は大げさなものではなかった。自分と周りの状況を振り返り、正当な報酬、福祉の好循環を取り戻してほしいと要請した。タクシー運転手のSさん(72)は、「1日働いて(会社に社納金を)入金できずに帰る日もある。車を運転していると、建物の大半が空き店舗なのが見える」とし、「庶民層がより良い暮らしができるようにしてほしい」と語った。ソウル江西区(カンソグ)に住むクォン・ヒョクファンさん(55)も、「働いた分だけ報われると信じて暮らせるようにしてほしい」と話した。ウ・ソヨンさん(22)は「社会的弱者に対する認識を変え、彼らのための福祉が拡充されることを願う」と話した。
内乱と捜査・裁判過程のもつれ、勢力を伸ばした過激な主張の前で不安と混乱を感じ、「安定と基本」を新大統領の優先課題に掲げる市民も多かった。ユン・ソンボンさん(67)は「今回のことを経験し、検察改革の重要性を痛感した。国民が法を疑わずに信じて暮らせるようにしてほしい」と語った。会社員のイ・ヒョヌさん(24)は「女性やマイノリティに対する差別的な態度が蔓延しているが、新大統領はより多様な国民の存在に配慮してほしい」と話した。イ・ジェミンさん(46)は「『国民が国の主人』という考えを大統領が当然持っていると信じられるようにしてほしい」と話した。
市民たちは二度と同じ悲劇が繰り返されない、希望に満ちた始まりであることを祈った。「政治的報復よりは和合を実現し、意味のある議論を行ってほしいです。一度このようなことを経験したからこそ、新大統領はその点に気をつけると信じています」(ソウル瑞草区住民のKさん)。「本当に切実な気持ちで投票しました。終わりではなく、始まりです。どうか無事に5年(の任期)を全うしてほしい」(ソウル鍾路区住民パク・ジョンミンさん)