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空路には「地雷」増え、海路には安全地帯なし(1)

登録:2025-02-06 09:55 修正:2025-02-08 10:25
全知的気候変動の視点 
空路、海路の目撃者たち
L機長が運航中に自ら撮影した積乱雲周辺の落雷発生の様子。強い上昇気流が下降気流と出会って垂直に発達した積乱雲はひょうや強い空気の渦を伴うため、空の安全にとって脅威となる//ハンギョレ新聞社

 「ファンファン(メーデーの前段階の非常信号)、タービュランス(乱気流)発生」

 昨年8月、中国の河北省上空を飛んでいた韓国のA社の民間航空機が、管制塔に緊急非常信号を送ってきた。同機体は1万メートル上空で強い乱気流に遭遇して激しく揺れ、100メートルほど急降下した。一部の乗客は天井に頭をぶつけ、トレーや毛布などの物品が床に散乱した。昨年12月13日、ソウル金浦(キンポ)空港で取材に応じた経歴30年のベテラン、L機長は、「瞬間、あらゆる考えが頭をかすめた」と言って当時を振り返った。機体を早く正常軌道に乗せなければという本能の裏では、激しく揺れる機体の中で乗客が負傷する恐れと、豪雨を避けるための航路変更を承認しなかった中国の管制当局を恨む気持ちが交錯した。幸いにもすぐに高度を回復したため、軽微な負傷者が10人あまり発生しただけで済んだが、あの日の記憶はL機長にトラウマとして残った。

■民間航空機で30年の経験持つ機長「近ごろ晴天乱気流が増えた」

 L機長にとって、中国北東部の上空は数え切れないほど飛んだ、慣れ親しんだ航路だった。「海に囲まれていて突然の豪雨など気象が急変する東南アジアや太平洋に比べれば、大陸性気候の影響で雨や気象の変化が少ない中国航路は無難なコース」とL機長は説明した。しかし、普段なら晴天が続く時期である8月初めであったにもかかわらず、その日の河北省上空は台風を伴う強い豪雨に見舞われていた。昨年夏、朝鮮半島に猛暑をもたらした南の気団の勢力が異例にも中国北東部にまで押し寄せ、記録的な豪雨となったのだ。

 「経験したことのない状況だったので、豪雨を避けるため中国の管制当局に航路変更を要請しました。中国の手続きが厳しいうえ、別の飛行機も同航路の行き来に問題がなかったという理由で、承認が下りなかったんです。旅客機に搭載されている最先端の気象観測レーダーとリアルタイム予報データでも予想できなかった乱気流に、なす術もありませんでした」

飛行機の操縦席から眺めた空が雲に覆われている。飛行の過程では、雲は気流の流れを把握するうえで重要な手がかりとなる=ゲッティイメージバンク//ハンギョレ新聞社

 機長たちは通常、雲で気流の流れを把握する。「ゲリラ豪雨のような気まぐれな気象状況が発生する場所には、垂直に伸びる『積乱雲』が発生します。大気が温かいほど積乱雲は高く、大きくなり、積乱雲内部の渦も強くなります。運航中にこのような雲の塊が見えたら緊張するし、何はともあれ避けます」。しかし、近ごろの「晴天乱気流」は雲のない晴れた空に現れる。裸眼やレーダーでは把握できないため、なおさら危険だ。機長たちは、このような乱気流を「空路地雷」と呼ぶ。「文字通り晴天の霹靂(へきれき)です。気候変動のせいで空路にはより多くの、強い地雷が埋まっています」

 晴天乱気流は、航空機が飛行時間を短縮するために「高速道路」として利用する「ジェット気流」の周辺で多く発生する。地球の気温が高まれば高まるほど水蒸気と上昇気流が増え、それに伴ってジェット気流の流れにもずれが生じるが、その過程で晴天乱気流も増える。英国レディング大学のポール・ウィリアムズ教授の研究チームの調査によると、北大西洋と米国路線での深刻な乱気流の発生時間は、1979年の17.7時間から2020年には27.4時間へと54.8%増えている。中強度の乱気流の発生時間も37%(70→96.1時間)増加。米国大気研究センターの研究チームは、1970~2014年に比べて2056~2100年には乱気流の発生頻度が約2倍(高炭素シナリオによる)になるとの見通しを示している。

 空路の危険は年を追うごとにすべての季節へと拡大していっている。L機長は、昨年4月の豪雨による砂漠の中のドバイ空港の滑走路の浸水、昨年11月の韓国での秋の大雪による数百便の欠航を例にあげた。冬と春の渡り鳥の動線が不規則になっているのも、気候変動の影響だ。

「長年の飛行経験の蓄積がすべて役に立たなくなっています。だんだんとひどくなってきている空の異常気象を直に目撃すれば、先端技術と人間の知恵だけでそれを克服するというのは傲慢な考えだということが分かるでしょう」(2に続く)

//ハンギョレ新聞社
オク・キウォン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/environment/1180782.html韓国語原文入力:2025-02-05 07:00
訳D.K

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