与党「国民の力」のハン・ドンフン代表が「秩序ある退陣論」を掲げたことで、内乱罪の容疑者である尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は当面、大統領の権能を維持したまま捜査を受けることになった。法曹界からは、12・3内乱事態の最重要容疑者である尹大統領が大統領の権限を維持したままだと、捜査は各段階で難航するだろうとの懸念が示されている。「秩序ある退陣論」が内乱捜査を妨害することで、尹大統領にとってそれは「防衛の武器」になるだろうとの指摘だ。
まず家宅捜索の難航が予想される。刑事訴訟法110条は「軍事上の秘密を要する場所は、その責任者の承諾なしには押収または捜索できない」と規定しており、「責任者は、国家の重大な利益を害する場合を除いては承諾を拒否できない」と但し書きをつけている。
これまで大統領室や大統領府の敷地内に対する家宅捜索は、そのつどこの条項に阻まれ、すべて「任意提出」のかたちが取られてきた。李明博(イ・ミョンバク)大統領の「内谷洞(ネゴクトン)私邸疑惑」を捜査していたイ・グァンボム特別検事チームは、2012~2013年に大統領府の家宅捜索を試みたが、大統領府に拒否され令状を執行できなかった。
尹大統領の弾劾訴追案が国会で可決されて職務が停止されれば、大統領権限代行が大統領室の家宅捜索を承諾することになる。朴槿恵(パク・クネ)国政壟断で特検を務めた弁護士は、「大統領に職務権限があるかどうかにかかわらず、大統領室の家宅捜索は容易ではないが、権限がある状態では困難がさらに加わる」として、「内乱」という初の容疑が適用されただけに、尹大統領が職務を退けば、彼を代行する首相や大統領警護処などは家宅捜索に応じなければならないという大きな圧力を受けるだろう」と語った。
捜査機関が尹大統領の身柄の確保に乗り出した場合も、職務が維持されている状態だと、物理的衝突が発生する可能性もある。警察国家捜査本部特別捜査団は9日のブリーフィングで、尹大統領の逮捕の可能性について「要件が整えば緊急逮捕できる」と述べているが、これまでに現職大統領の逮捕・拘束の前例はない。元部長検事のある弁護士は「(警察は)緊急逮捕を検討すると言ったが、弾劾が可決されていたらすでにしていたはず」だとして、「様々な職務権限を持ち、警護を受けている現職大統領の逮捕は、容易ではない」と語った。
大統領の憲法上の権限である「再議要求権(拒否権)」が依然として尹大統領に与えられていることも問題だ。共に民主党は、内乱特検法案とキム・ゴンヒ女史特検法案を近く本会議に上程する予定で、これらは野党全体の議席数(192席)だけで無難に可決できる。だが、尹大統領が「職務からの排除」の約束を破って2法案に対して拒否権を行使した場合、実質的に防ぐ方法はない。尹大統領はすでに3回にわたってキム女史特検法に拒否権を行使している。
刑事訴追されうるのは「内乱罪」容疑のみだとの法的根拠を掲げて、尹大統領が捜査を妨害する可能性もある。そう懸念する声もある。国政壟断特検にかかわったある弁護士は、「尹大統領は職権乱用罪や国会法違反などでも懲罰されうるが、現職大統領は内乱罪以外では訴追されないと尹大統領に主張されると、捜査に支障をきたす」と語った。職権乱用容疑に関する供述を拒否したり、家宅捜索などの関連手続きに応じなかったりといった可能性があるということだ。