近年ソウル、釜山(プサン)などの韓国の都市を含む世界の主要都市で、市民の生活の質を上げるための主要な政策課題として注目されているものの中に、「15分都市」という概念がある。
学校、医療施設、スーパー、公園、官公庁などの生活に必要不可欠な施設に歩いて、または自転車で15分以内に行ける都市を作ろう、という意味が込められている。
パリの都市計画家でソルボンヌ大学の教授でもあるカルロス・モレノ氏が、自動車への依存を低くし、健康で持続可能な都市生活を促進するために2016年に提案した概念で、その後、全世界の都市政策立案者の間で急速に広まった。
果たして世界の都市は15分都市にどれほど近づいているのだろうか。
イタリアのローマのソニーコンピュータサイエンス研究所で持続可能な都市を研究するチームは、世界の1万あまりの都市を対象として、15分都市にどれほど近づいているかを比較調査した研究結果を、オンライン国際学術誌「ネイチャーシティーズ」に発表した。
この研究によると、研究チームが詳細に分析した54の主要都市のうち、この概念を最もよく具現化している最高の15分都市はスイスのチューリッヒだった。チューリッヒは住民の99.2%が学校、病院、公園、商店などの主要施設から徒歩15分の距離に住んでいる。チューリッヒでは2020年に、住民の71%が50キロの自転車インフラ建設に賛成票を投じている。
ソウルは主な必須施設から徒歩15分の距離に住む住民の割合が69.2%で、主要都市の中で中位圏(26位)。
■最上位圏は欧州の中規模都市…米国の大都市は最下位圏
上位圏の都市はいずれも欧州の中規模都市だという共通点がある。イタリアのミラノとトリノ、デンマークのコペンハーゲン、アイルランドのダブリンも住民の95%以上が徒歩15分圏内に住んでいる。
研究チームは、「欧州の都市は自動車が発明される前に生まれたため」だとし、「当時は基本的にすべての地区が15分の距離にある都市でなければならなかった」と語った。
大都市の中では、15分都市が2020年の市長選挙の主要公約だったパリが最も上の8位につけた。15分生活圏に住む住民の割合は93.3%だった。
一方、米国のサンアントニオ、ダラス、アトランタ、デトロイトなど、自動車への依存度が高く、歴史が相対的に浅い北米の大都市は最下位圏だった。2028年の五輪開催が決まっているロサンゼルスや、上海などの中国の大都市も同様だった。サンアントニオは、主な施設から徒歩15分圏に住んでいる住民が3%にも満たなかった。
■ソウルの15分都市化には施設の22%の移設必要
研究チームは、15分都市を実現するために都市をどれほど変えなければならないかを計算するアルゴリズムを開発し、各都市に適用した。その結果、アトランタは主要施設の80%以上を移設しなければならないことが分かった。一方、パリの移設の必要性は10%、チューリッヒは3.5%だった。
ソウルを15分都市にするためには、主要施設の22%を移さなければならない。割合にすると5つに1つだ。
研究チームはまた、公開されているデータを用いて、世界の都市が15分都市にどれだけ近いかを評価したウェブ地図(whatif.sonycsl.it/15mincity)を作成した。
評価に用いたデータは野外活動、学習、物品、食事、移動、文化活動、運動、サービス、医療の9つの領域のもの。
■都心と街外れの不平等は深刻
研究チームはまた、都市の中でも都心と街外れのアクセスの不平等も深刻だったと述べた。都市の中心地は15分都市の概念がよく具現されているが、街外れはそうではなかった。
これは不平等の大きさを示すジニ係数とも似たような傾向を示したと強調した。15分都市に近い地域は、そうでない地域より経済的な不平等が弱かった。
論文の筆頭著者であるマテオ・ブルーノ氏は、「15分都市はしばしばユートピアとして描写されるが、実はそうではない」と強調した。
同氏はその例として、広い都市に住む米国人は概して自分の家と庭を持っている一方、人口が密集する都市に住む欧州人はアパートで暮らす傾向があるということをあげた。
*論文情報
https://doi.org/10.1038/s44284-024-00119-4
A universal framework for inclusive 15-minute cities.