本文に移動

国民が任期の半分も耐えられなかった唯一の大統領、尹錫悦の進むべき道

登録:2024-06-17 01:01 修正:2024-06-17 06:46
[ソン・ハニョン先任記者の政治舞台裏] 
 
総選挙惨敗後、刷新なくイベントばかり 
国会との衝突も辞さず…混乱は不可避 
「少数派」大統領職を維持するには 
権力分有か改憲か
尹錫悦大統領と妻のキム・ゴンヒ女史が6月10日、京畿道城南市のソウル空港で、中央アジア3カ国(トルクメニスタン、ウズベキスタン、カザフスタン)歴訪に向かうため、専用機の空軍1号機に乗り込む前にあいさつしている/聯合ニュース

 世の中には時として、目の前ではっきりと繰り広げられているのに、現実として受け入れ難い出来事があります。4月の総選挙以降の韓国の政治状況がまさにそうです。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は総選挙直後、「総選挙で表れた国民の意思を謙虚に受け止め、国政を刷新し、経済と民生の安定に向けて最善を尽くす」と誓いました。2カ月が過ぎました。このかん尹大統領は何をしてきたでしょうか。

 大統領室の秘書室長と政務首席を交代させ、最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表と会談し、就任2周年の記者会見を行いました。大統領室の担当記者に卵焼きとキムチチゲをふるまい、与党「国民の力」の議員ワークショップでビールを注ぎ、アッパーカットセレモニーを行いました。イベントに注力してきたのです。国政の刷新はありませんでした。国会が議決した「海兵隊員C上等兵特検法」には再議要求権(拒否権)を行使しました。総選挙で表れた国民の意思も尊重していないのです。

 尹大統領が国政を刷新せず、総選挙の民意にも従わないのはなぜでしょうか。うそつきだからでしょうか。悪党だからでしょうか。もしかしたら、何も分からないからなのではないでしょうか。もしそうだとしたら大変です。政治家の無知は、邪悪であることよりもはるかに危険です。

■何もしない尹大統領

 尹大統領は就任から2年間にわたって、国政で成果を出せないことを、国会の多数派の野党のせいにしてきました。ですが総選挙で惨敗しました。残りの任期中に成果を出すには、国会と野党の協力が必要です。イ・ジェミョン代表との会談を定例化するなり、大連立を提案するなり、任期短縮改憲を推進するなり、何がしかをしなければなりません。でなければ国政を引っ張っていくことはできません。大統領の職務も遂行していけません。しかし尹大統領は何もしていません。

 尹大統領が何もしないものだから、国民の力も魂が抜けています。国民の力の議員たちはウ・ウォンシク国会議長を選出した6月5日の国会本会議に出席しませんでした。11の常任委員会の委員長を選出した6月10日の本会議にも出席しませんでした。国会をボイコットしているのです。

 民主党は国民の力を無視して速攻を仕掛けています。C上等兵特検法を法制司法委員会に上程し、「キム・ゴンヒ特検法」を成立させることを党の方針と定め、同法案を再発議しました。11の常任委員会を次々と開催して野党幹事を選出し、長官の出席を求めています。国民の力に残してある7つの常任委員長も近く選出する勢いです。

 国民の力は議員総会を毎日開いて対策を協議していますが、お手上げ状態です。何人かの跳ね上がり議員は「政府が来年度予算案を編成する際に民主党議員の選挙区の予算をすべて削ってしまおう」とか、「絶対に必要な立法は施行令として推進すればよい」などと非現実的な提案をしています。

 大統領室の高官なる人物は、「民主党が対話と妥協という議会制民主主義の本質を無視し、数の力一辺倒の国会運営に固執すれば、大統領の再議要求権行使の大義名分はさらに堅固になるだろう」と述べています。

 極めて空虚な発言です。野党は今、尹大統領の拒否権行使をまったく恐れていないからです。国民の力の議員の中からは「いくらなんでも政権与党が国会を無視するわけにはいかない」として、登院すべきだという声があがっていますが、まだ少数意見のようです。

 国会を無視することは民生を無視することです。国会ボイコットに対する否定的な世論を意識した国民の力は、15の党内特別委員会を開催し、政府と政策について協議しています。

 例えば次のようなものです。12日には議員会館第9懇談会議室で「教育改革推進に関する政府与党懇談会」を開催しています。ソ・ボムス、チョン・ソングク、チョン・ジョムシク、キム・デシク、キム・ミンジョン、キム・ジェソプ、ソ・ジヨンの各議員らが出席しました。イ・ジュホ長官、オ・ソクファン次官ら教育部の公務員たちもこぞって出席しました。政府与党は学校安全法、児童福祉法などを改正することを決めました。少子化危機の克服に向けて幼保統合を推進することを決めました。「ヌルボム学校支援特別法」も制定することを決めました。地域消滅の危機に対応して教育発展特区指定・運営のための特別法を制定すること、地方大学育成法を改正することを決めました。

 しかし、このような政府与党会議は空念仏に過ぎません。どれも法律の裏付けがなければならないのに、民主党の協力なくして法律を制定することはできないからです。

国民の力の議員たちが6月13日、国会で開催された「議会政治原状復旧議員総会」に参加し、産業通商資源部の「東海深海ガス田開発の進行経過および推進計画」と題する資料を見ている/聯合ニュース

■選出された二つの権力「議会と大統領」

 さて、尹大統領はどうすべきでしょうか。韓国国民は2022年3月、尹大統領を選びました。しかし2年後の2024年4月、尹大統領の所属する国民の力に残酷な敗北をもたらしました。この状況を政治的にどう解釈すべきでしょうか。もしかしたら尹大統領と国民の力が今直面している状況は、単に彼らの無知と無能のせいで生じているものではないのかもしれません。非常に根本的で構造的な問題である可能性があります。

 議会中心の融合型権力構造である議院内閣制は、議会に国政の失敗の責任をはっきりと問えるという長所があります。一方、大統領制は議会と大統領を国民がそれぞれ選出する分立型権力構造です。

 ここで複雑な問題が発生します。大統領制は行政府の安定とそれによる強力な行政、法案に対する拒否権行使による拙速立法の防止と少数者の利益の保護という長所があります。しかし、致命的な短所もあります。1つ目、大統領の独裁化傾向。2つ目、権力分立に起因する国政の混乱。3つ目、行政府と立法府が衝突した時の調整策の不在、などです。特に2つ目と3つ目は深刻です。大統領制の元祖である米国でも、しばしば議会と行政府の激しい対立で行政府がまひする事態が起こります。

 韓国の歴代の大統領はこの難題をどのように解決してきたのでしょうか。李承晩(イ・スンマン)、朴正煕(パク・チョンヒ)、全斗煥(チョン・ドゥファン)の各大統領はこれといった困難に直面しませんでした。独裁だったからです。「帝王的大統領」は行政府、立法府、司法府を支配しました。

 1987年の民主化後に当選した盧泰愚(ノ・テウ)大統領は、1988年の総選挙で少数与党国会という状況に直面しました。金大中(キム・デジュン)、金泳三(キム・ヨンサム)、キム・ジョンピルらの野党総裁たちと対話と妥協の政治システムを構築しました。あらゆる政治懸案と国政課題について、彼らとの会談で協議しました。やがて、1990年1月の3党合同により、国会で多数勢力を構築しました。

 金大中大統領は、自由民主連合のキム・ジョンピル総裁とのDJP連合で政権を握りました。新政治国民会議と自民連は連立与党でした。やがて2000年の総選挙でハンナラ党に第一党の座を奪われると、イ・フェチャン総裁とのトップ会談で突破口を開きました。深刻な少数与党の状況下で就任した盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は選挙制度改編、大連立、再信任国民投票などを提案し、それこそもがいていました。やがて2004年の総選挙で、弾劾が野党にとって逆風となったことで、国会の過半数の議席をようやく確保することができました。

 李明博(イ・ミョンバク)大統領は2007年12月の大統領選挙で当選した後も、2008年4月の総選挙で圧勝し、国会で多数議席を確保しました。朴槿恵(パク・クネ)大統領は2012年12月の大統領選挙を前にした同年4月の総選挙で、セヌリ党の過半数の議席を確保しました。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2017年3月の大統領選挙で当選後、国会での議席不足で苦戦しましたが、与野党と政府による常設の国政協議体、野党代表および院内代表との会談で、国政を解決していきました。2020年4月の総選挙では180議席獲得という圧勝を収めました。

 こうしてみてくると、1987年の民主化以降の韓国の総選挙の歴史は、大統領を倒す「審判選挙」ではなく、概して大統領がきちんと働けるよう後押しする「支持選挙」だったと考えられます。今回の第22代総選挙だけが、例外的に現職大統領に対する強力な審判選挙でした。

■参考になる前例はないものの…

 総選挙惨敗後、尹大統領に対する民意は悪化の一途をたどっています。世論調査の数値は危険水位に近づいています。韓国ギャラップが14日に発表した定例世論調査(全国の有権者1千人に対する電話調査)を見ると、尹大統領の職務遂行に対する支持率は26%、不支持率は66%です。2週間前の支持率21%、不支持率70%からは多少改善されています。北朝鮮の汚物風船や北朝鮮に対する放送再開など、安全保障の争点に起因する一時的な効果とみられます(中央選挙世論調査審議委員会のウェブサイト参照)。

 任期中盤の総選挙で国民の強力な審判を受け、国会で少数勢力へと転落した大統領は、政治をどうすべきでしょうか。参考になるような前例はありません。このような状況そのものが韓国政治史で初めてだからです。

 1つ目、退陣です。国会の協力を得られない大統領は、国政を引っ張っていくことはできません。大統領を改めて選んだ方がよいかもしれません。退陣には自ら退く辞任があり、国会と憲法裁判所によって追われる弾劾があります。しかし、多くの国民はまだ尹大統領の辞任や弾劾に同意していないと思います。

 2つ目、権力の分有です。権力を野党と半分ずつ分け合い、国政に対して共同で責任を負うのです。この方法はイ・ジェミョン代表と民主党が受け入れるとは思えません。

 3つ目、改憲です。4年重任分権型大統領制改憲で、尹大統領の任期を1年減らし、残る2年の任期の国政運用動力を確保するという方法です。私はどう考えても、今は尹大統領のためにも国民の力のためにも、民主党のためにも、大韓民国のためにも、改憲が最も合理的な選択だと思います。

 まとめます。破天荒という言葉があります。それまで誰もできなかったことを初めて成し遂げるという意味です。尹大統領は任期半ばの総選挙で国民の審判を受けた最初の大統領です。まさにそのことで、「協同統治の制度化」を最も確実に成し遂げる機会が開かれています。決心さえすれば、第7共和国を大きく切り開いた大統領として歴史に記録されえます。できるでしょうか。みなさんはどうお考えですか。

ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1144986.html韓国語原文入力:2024-06-16 07:30
訳D.K

関連記事