(1から続く)
「危機の後に持ち直す」与党の歴史、繰り返されるか
すべての人の視線が公認候補問題に注がれていますが、いざ民主党が直面した総選挙の悪材料は別にあります。公認問題とは比べものにならないほど威力の強い二つの障害物です。
一つは、与党「国民の力」のハン・ドンフン非常対策委員長です。ハン委員長は政治経験が全くない検事出身です。本人は誰よりも頭がよくて話も上手だと思っているかもしれませんが、実はそれほど頭がよいわけでも、話が上手なわけでもありません。政権与党の代表としては口数が多すぎて、必要以上に攻撃的です。質問する記者を責める場面も多々あります。現場で取材する記者団の間に疲労感が広がっています。
にもかかわらず、ハン委員長は民主党にとっては手ごわい相手です。理由は何でしょうか。「未来権力」だからです。与党の未来権力は、その存在そのもので巨大な力を持っています。過去にもそのような事例がありました。1996年の第15代総選挙を前に、当時の金泳三(キム・ヨンサム)大統領はイ・フェチャン前首相を全国区比例代表名簿の1番に据え、選挙対策委員長を任せました。「未来権力を前面に押し出す」戦略は成功しました。新韓国党は予想を破り、第一党に躍り出ました。
2012年の第19代総選挙を控えてもそのようなことがありました。2011年10月26日の再・補欠選挙で、ハンナラ党はソウル市長選にナ・ギョンウォン候補を擁立しましたが、無所属のパク・ウォンスン候補に敗れました。これによって総選挙の敗北の危機が高まると、与党は未来権力だった朴槿恵(パク・クネ)前代表を非常対策委員長に据えました。朴槿恵委員長はキム・ジョンイン、イ・サンドン、イ・ジュンソクなど新しい人物で非常対策委員会を作り、経済民主化を前面に押し出しました。党名も変え、色も変えました。そのような革新の動力で総選挙と大統領選挙の両方で勝利を収めました。
昨年10月11日、ソウル江西(カンソ)区長補欠選挙で民主党が圧勝して以降、これまで起きた一連の出来事から、2011年ソウル市長補欠選挙と2012年の第19代総選挙を思い浮かべる人が多いようです。与党の補欠選挙の敗北、総選挙の敗北の危機感、未来権力を前面に掲げるところまで、展開の様相が似ているということです。もちろん、ハン・ドンフン委員長の率いる与党「国民の力」が、これから残りの期間、総選挙勝利の楽観論に酔い痴れて油断する可能性が残ってはいます。それでも野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表と民主党指導部が今「世論調査とマスコミ報道は信じられない。私たちが勝っている」と叫ぶ状況ではないと思います。
4年前はコロナ禍、今回は医療大乱
民主党が直面したもう一つの障害物は、医学部の定員拡大と医師たちの診療拒否事態です。最近、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の支持率が上がる唯一の理由は、医学部の定員拡大と医師たちの診療拒否事態のためです。
なぜでしょうか。4年前のコロナ禍当時を振り返ると、簡単に理解できます。2020年の総選挙を前に、新型コロナウイルス感染症が拡散したことを受け、ファン・ギョアン代表の未来統合党、そして韓国の保守勢力は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と民主党政権を強く非難しました。コロナを「武漢肺炎」と呼び、理念的な攻撃も展開しました。しかし世論は野党の思惑とは真逆に動きました。常識的な国民の多数が、国家危機の状況では政府与党を後押しすべきだと判断したのです。与野党が変わっただけで、民意の作動原理は今でも同じです。尹錫悦大統領は6日、中央災害安全対策本部会議を主宰し強硬発言を並べました。
「国民の命を人質にする不法な集団行動には、法と原則に則って厳重に対応するしかない。国民のための医療改革を揺ぎなく進め、必ずやり遂げる」
尹錫悦大統領に実際に医学部の定員拡大と診療拒否事態を解決する力があるかどうかは分かりません。しかし、国家危機の状況で有権者の票心が政府与党の方に傾くのは当然のことです。民主党にとっては困ったことです。これといった対策がないからです。
そろそろこの文を締めくくりたいと思います。政治の世界では、正しいから勝つわけではありません。勝ったから正しいのです。選挙戦での勝利が善であり、敗北は悪という意味です。4月10日に第22代総選挙の結果が出れば、尹錫悦大統領とイ・ジェミョン代表のうち1人は選挙敗北の責任を取らなければなりません。国民の前で頭を下げて謝罪せざるを得ないでしょう。それは果たして誰でしょうか。皆さんはどう思いますか。