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「設計者」米国が突き付けた中国けん制参加の明細書…北朝鮮の核問題は優先順位にない

登録:2023-12-11 06:38 修正:2023-12-11 07:15
キャンプデービッド首脳会談から4カ月、韓米日協力をめぐる質問
尹錫悦大統領と米国のジョー・バイデン大統領、日本の岸田文雄首相が8月18日、ワシントンDC近くの米大統領別荘であるキャンプデービッドで開かれた韓米日首脳会談を控え、ローレルロッジ前で記念撮影をしている=キャンプデービッド/聯合ニュース

 今年アジアで最も重要な地政学的変化は「韓米日協力」の急速な進展だ。8月18日のキャンプデービッド首脳会談以来、韓米日は安保、経済、サプライチェーン、サイバーなど様々な分野において協力に拍車をかけている。9日には韓米日の安全保障担当高官がソウルで会議を開き、北朝鮮の核開発の資金源であるハッキングを直接遮断する「対北朝鮮イニシアチブ」を進めることにした。

 キャンプデービッド首脳会談から4カ月が経った今、韓米日の三角協力はどのように進められているのか、韓国の立場からどう評価し、どのような課題を解決すべきか。11月28日から今月8日まで韓日記者の共同取材に参加し、ワシントンとハワイ、日本とソウルで、多くの韓米日の政府高官や軍関係者、専門家らに会った。「設計者」の米国は、韓米日3カ国協力を通じて中国の浮上の牽制という目標に向かって精巧な案を用意していた。韓国の立場からすると、急速に危険になった北朝鮮の核能力や南北の衝突の可能性など切迫した課題を、韓米日協力の枠組みの中できちんと解決しているかについては、多くの疑問が残った。

中国か、北朝鮮の核問題か

 民主党と共和党の2大政党の対立が激しい米国では、どの政治家や専門家に会っても「脅威となる中国を牽制しなければならない」という点では一致していた。分裂が極限まで進んだ米国を繋ぎ止めているのが「中国脅威論」という接着剤ではないかと思えるほどだった。韓米日キャンプデービッド首脳宣言でも、最も主要な挑戦は中国、その次が北朝鮮だった。米国が韓米日協力を通じて中国牽制の戦略的目標に集中している間、北朝鮮の核問題に対する対応は後回しになった。ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ地区への攻撃が続き、台湾海峡の脅威が高まっている状況も、北朝鮮の核問題への対応から関心をそらす要因となっている。

 ブルッキングス研究所のシニアフェロー(韓国担当)、アンドリュー・ヨ氏は「ワシントンの専門家の間では今の北朝鮮政策では効果がなく、状況が悪化しているという認識が広がっている」とし、「ジョー・バイデン政権は北朝鮮といつでも対話すると言ってきたが、北朝鮮は応じていない」と述べた。ヨ氏は、北朝鮮との対話は必要だが、バイデン政権が乗り出す可能性は極めて低いと予想する。「米国が最終目標として非核化を放棄してはならないが、多くの専門家が北朝鮮と接触を維持する必要があり、少なくともリスクの低減と状況の安定のため、対話をする必要があるとみている。しかし、政治的観点からすると、バイデン政権は現在あまりにも多くの外交政策問題を曲芸でもするかのように同時に扱っているため、彼らにこれまでとは劇的に違う、新しい何かを試みる能力があるかどうかは分からない。選挙が近づいているため、バイデン政権は北朝鮮問題を交渉のテーブルに乗せたものの成果を得られない状況を望まないだろう」

韓米日対朝中ロの対立の余波は

 米政府当局者や専門家らは、中国と朝ロの利害関係は異なるとして、韓米日協力が強化されるほど朝中ロがさらに密着するようになり、朝鮮半島情勢の負担になっているという懸念に反論した。ラーム・エマニュエル駐日米国大使は「習近平主席と中国の外務省と安保担当者は、ロシアと北朝鮮の間で起きていることを快く思っていないだろう」とし、「朝中ロの3カ国の協力には限界がある」と述べた。

 朝ロ密着を中国があまり快く思っておらず、朝ロ密着は韓米日がキャンプデービッド首脳会議で3国協力を強化するずっと前に始まったという分析は正しい。2019年のハノイ朝米首脳会談が物別れに終わり困難に陥った北朝鮮が、2022年のウクライナ侵攻後に北朝鮮の助けが必要になったロシアと、戦略的密着で突破口を見出したためだ。米当局者や専門家らも、朝ロの軍事的協力を通じて、北朝鮮が衛星や潜水艦技術を発展させることが非常に深刻な脅威であることは認めている。だが、この問題に対する真剣で効果的な解決策はまともに稼動していない。

 ブルッキングス研究所のアンドリュー・ヨ氏は、中国との外交を通じた解決策に触れながらも、バイデン政権内部には北朝鮮の核問題の解決において中国が米国と協力するかどうかについて疑念を抱いている人が多いと語った。「APECを機に行われた米中首脳会談後、習近平主席が米国と若干協力する空間を望んでおり、北朝鮮問題がそれに当たるかもしれないという分析が出た。結局、習近平は北朝鮮が核能力を強化することを望んでいないだろうし、中国がロシアと北朝鮮の協力を歓迎するわけでもない。この点でロシアが北朝鮮により多くの物資と技術を伝授することを防ぐために、中国と協力する方法もあり得る。しかし、今のところ中国がこれに関して意味のあることをする政治的意志があるのかについて、バイデン政権内では懐疑的な見方が多い」

 現在ジョージワシントン大学の訪問教授である国防大学のキム・ヨンジュン教授は「中国とロシアがライバル関係であるため、朝中ロの連帯が実際には長期的には可能ではないというのは『希望的思考』」だとしたうえで、韓国の立場では最悪のシナリオにも備えなければならないと強調した。「2018年以後、中ロ関係が根本的に変化し、ますます緊密になり軍事的なパートナーになった。北朝鮮をオブザーバーや参加国とし、朝中ロ共同軍事訓練に乗り出す可能性もある」と指摘した。また「金正恩(キム・ジョンウン)の戦略は、ハノイでのノーディール以降、根本的に変化した。今や北朝鮮は核兵器だけでなく、さまざまなオプションを考慮しており、中国やロシアとの共同訓練も選択肢になり得る」とし、「今は、中国が朝ロと緊密な軍事協力に乗り出さないよう、外交的努力を傾けなければならない」と語った。

ブルッキングス研究所のアンドリュー・ヨ・シニアフェロー(韓国担当)//ハンギョレ新聞社

トランプがホワイトハウスに戻ったら

 実施まで1年を切った来年11月の米大統領選挙を控え、多くの世論調査でトランプ前大統領がジョー・バイデン大統領をリードしていることが明らかになっている。トランプ前大統領が帰還する可能性に対する不安と懸念が、ワシントンに暗い影を落としている。だが、米国の政治家と専門家たちは、トランプ前大統領が復帰して韓米日協力のスピードが緩くなることはあっても、以前のような状態に戻るのは難しいとし、韓日をなだめようとしている。

 トランプ前大統領と親交がある人物として知られるビル・ハガティ上院議員は「トランプは大統領在任中、世界のどの地域よりもインド太平洋地域を多く訪問した。私も3回訪日に同行したことがあり、そのたびにソウルも訪れた。トランプは韓米日3カ国の協力を続けることに深い意味があると思っている」とし、「インド太平洋地域で同盟に対するトランプの立場を懸念する必要はないだろう」と語った。

 ハワイのシンクタンク「パシフィック・フォーラム」のアジア太平洋地域プログラムディレクター、ロブ・ヨーク氏は「トランプ政権が再び発足すれば、韓米同盟を弱体化させると脅す可能性は高いが、持続的に『障害物』にぶつかるだろう。トランプは、中国との競争が目標だと強調しているが、同盟とパートナーを弱体化させれば、その目標を実行することはできない」と語った。多くの専門家が、ホワイトハウスにトランプが戻ってきても韓米日3カ国協力を元に戻せないようにするために、様々な方面で韓米日協力の「制度化(institutionalize)」を急ぐこと、議会外交を強化すること、トランプが実際に戻ってきた場合には首脳間の個人的ネットワークを構築することを強調した。

パシフィック・フォーラムのロブ・ヨーク・アジア太平洋地域プログラムディレクター//ハンギョレ新聞社

韓日の歴史問題から目をそらし続けるか

 ワシントンと東京で尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は、韓米日3カ国の協力を可能にした「英雄」と称されている。駐日米国大使を務めたハガティ上院議員は、「韓米日の協力で大きな挑戦課題は、韓日の間に存在する歴史問題だと考えている。米国は数十年間、韓日関係がより緊密になることを望んできた。尹錫悦大統領と岸田首相が困難な歴史と政治的挑戦にもかかわらず、関係改善の意志を示したことを歓迎する」と述べた。

 韓日の歴史問題に関して、米国の立場は「韓日は過去は脇に置いておき、未来に集中すべきだ」というものだ。韓日の歴史問題の意味と敏感性、植民統治の被害者として韓国国民が「第3者弁済」という尹大統領の一方的な強制動員被害解決策にどれほど懸念を抱いているのかついては、深く考慮していない。「コップの半分を日本が満たさなければならない」という韓国の要求に対する関心はほとんどない。エマニュエル駐日米国大使は「米国を通じるより韓日両国が直接対話した方が良い」とし、米国の「仲裁」の役割には線を引いた。「過去の歴史問題を解決するためには持続的な努力が必要だ」としながらも、日本でK-POPの人気、韓国で日本アニメーションの人気がどれほど高いかを見てほしいと話した。新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの終息後、最近韓日両国間の観光客数が急増していることや、特に韓日の若い世代の間で互いに対する好感度が高い点も強調した。

 一方では、韓国で政権交代が起き、尹錫悦政権と異なる対日政策が推進される可能性を極度に懸念する雰囲気がワシントンと東京で明らかだった。

ビル・ハガティ上院議員//ハンギョレ新聞社

中国とのデリスキングは現実的か

 パシフィック・フォーラムのロブ・ヨーク氏は、「中国との半導体協力制限の目的は、中国が自主的な半導体製造能力を持つのを妨げることではない。それは不可能だ」と断言した。「中国は近いうちに自主的な半導体生産能力を発展させるだろうが、問題はこのような彼らの目標実現を遅らせることができるのかだ。半導体をはじめとするサプライチェーンの安全保障、南シナ海、台湾海峡の問題はいずれも大きな構図の一部としてつながっている。このような問題が解決されるまでの間、中国の半導体製造能力を数年遅らせるのが実際の目標だ。中国が隣国と米国に対して好戦的な態度を示している間は、彼らの浮上を遅らせることを目指している」と語った。

 ブルッキングス研究所のミレヤ・ソリス先任研究員も「中国が最近自主生産した先端半導体を搭載したとみられる華為技術(ファーウェイ)の携帯電話を公開したことは、米中先端技術競争が終わらないゲームであることを示している」とし、「中国は成果を出しており、米国は時間を稼ぐことが最善の目標」だと話した。

 中国が半導体など先端技術製造能力を確保する時間を少し遅らせることはできるが、結局韓国企業は大きな挑戦に直面する可能性が高い。米国が主導するCHIP4とインフレ抑制法(IRA)、サプライチェーンの再編で韓国の半導体・バッテリー企業が念頭に置かなければならない部分だ。

 この他にも、韓米日は発展途上国に対する援助、ロシア、中国、北朝鮮発のフェイクニュースと選挙介入に対しても共同で対応することにした。「設計者」の米国は、有能な同盟国たちにより多くの役割を果たすことを求めている。韓国が受け取った明細書と果たすべき役割は大きくなったが、韓米日協力の枠組みのもとで、韓国政府は果たして韓国に最も切実な問題を解決しようとする戦略と実行に向けた努力をしているのだろうか。

ワシントン・ホノルル・東京/パク・ミンヒ論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/1119764.html韓国語原文入力:2023-12-10 20:22
訳H.J

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