尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は文在寅(ムン・ジェイン)政権の「脱原発」政策の廃棄にとどまらず、新規の原発建設の地ならしを始めた。
産業通商資源部は10日、「新規原発建設検討」計画を明らかにした際に、「現在の生活および産業全般の電化の急速な進展、先端産業分野への投資の増加に伴って電力需要が急激に増加すると予想されるため、安定的な電力供給のための供給能力の拡充が必要だ」と、その理由をあげた。この日行われたエネルギー委員会に出席した「多数の民間委員の要請」があったというのが産業部の説明だ。しかしエネルギー業界ではすでに先月から、尹錫悦政権は今年樹立される第11次電力需給基本計画(電基本、2024~2038年)に新規原発建設計画を盛り込むだろうとの見通しが流れ始めていた。
尹錫悦大統領の大統領選挙公約には、新規原発建設計画は含まれていない。せいぜい「文在寅政権時代に中断された新ハヌル3・4号機の建設を再開するほか、稼動原発の継続運転などを通じてベースロード電源としての原子力発電の比率を30%台に保つ」といったものだった。
雰囲気が変わったのは就任から1年を過ぎたあたりからだ。尹大統領は5月10日、カン・ギョンソン大統領室産業政策秘書官を産業部第2次官に任命し、本格的な「原発エコシステムの復元」推進を開始。カン次官はその後、「新再生可能エネルギー事業推進の実態」と題する監査などで産業部の公務員と太陽光事業者らの癒着などが明らかになったことを機として、文在寅政権の推進した新再生エネルギー政策の見直しを示唆した。代わって「原発利用を積極的に拡大する」との考えを示した。
今年1月に確定した第10次電基本(2022~2036年)では、2036年の電源別の発電比率を原発34.6%、新再生可能エネルギー30.6%などと見通している。設計寿命が過ぎたため一時停止した古里(コリ)2号機を除き、現在稼動中の原発は24基。新たに竣工する新ハヌル2号機と新古里5・6号機を含めれば、2030年には計28基に増えると予想される。第11次電基本で新規原発建設が確定すれば、2038年の原発の比率は高まると予想される。
産業部は「電力需給環境の変化を綿密に分析し、対応戦略を立てる」とし「(新規の原発建設を)検討するということであって、確定したわけではない」と話している。しかし早くも、第11次電基本の諮問機関である総括委員会への原発専門家の参加が増えるだろうとの見通しが示されている。
政府が新規原発建設を示唆したことを受け、専門家は懸念の声をあげている。設計寿命が40年に達する大規模原発の建設は、十分な検討と議論が必要だとの指摘だ。エネルギー転換フォーラムのイム・ジェミン事務処長は「政府が電力需要増加の根拠として掲げた半導体と二次電池は、いずれもRE100(企業が使用する電力の100%を再生可能エネルギーとすること)の影響を受ける企業」だとし「再生可能エネルギーを増やさなければならない状況で原発を増やすという話」だと述べた。
原発の安全に対する懸念が依然として強い中では、社会的対立を誘発するだけだとの批判の声もあがっている。緑色連合のファン・インチョル気候エネルギーチーム長はハンギョレに、「新規原発はすでに数年前、三陟(サムチョク)と盈徳(ヨンドク)で長い対立の末、推進が中止されている。このような状況での新たな原発建設の推進は、不必要な社会的対立とコストを生むことは明らかだ」とし「新規原発をどこに建てるのか。誰かに危険を強要するやり方の発電方式はもはや続いてはならない」と話した。