日本が推進する福島第一原発事故で発生した汚染水の海洋放出について最も多く問われているのは、どうも「安全」のようだ。だが、安全性を問う前にまず「正当なのか」という問いに対する答えを得るべきだ。最悪の原発事故で発生した放射性物質を、数多くの生物の生活の場であり、人類共同の資産である海に放出する行為が、果たして正当化できるのか、との問いだ。
この問いは放出に否定的な側からのみ発せられているものではない。放出しようとする側が「従う」という「国際安全基準」も同じ問いを投げかけている。国際原子力機関(IAEA)は、施設と活動の正当化▽保護の最適化▽個人に対するリスクの制限という3つの原則を、放射線から人間と環境を保護するための基本原則として提示している。
このうち1つ目の「正当化」原則は「放射能のリスクを発生させる施設と活動は、全般的な利益を生産しなければならない」と定義される。放射能による被害を誘発する活動は、それによって発生する利益と損害を計算し、利益の方が被害より大きい時のみ正当であるということだ。
「最適化」は、放射能のリスクを誘発する活動が正当であっても、合理的に達成可能な最高水準の安全を提供しなければならないというもの。「リスクの制限」は、先の2つの原則に従ったとしても十分な安全は保障されないから、放射線被ばくの「線量の限度」を守らなければならないという要求だ。汚染水は排出基準さえ順守すれば良いのだという主張や、甚だしくは飲むこともできるという誰かの大言壮語は、3つの原則のうち最後のひとつのみを守れば良いという話だ。
IAEAは2021年9月から汚染水放出計画の安全性を検討してきた。この過程において真っ先に問うべきは汚染水放出の正当性だったが、それは放棄された。正当化を含む3つの基本原則の履行指針ともいうべき全般的安全指針「公衆と環境の放射線防護(GSG-8)」を検討基準から除外したのだ。
GSG-8は「正当化は放射線防護の範囲よりもはるかに広く経済的、社会的、環境的要因も考慮する」と規定している。安全基準に則って放射線被ばくの利害当事者を判断する際、国境は重要ではない。「GSG-8」を適用するならば、韓国や太平洋の島しょ国の経済、社会、環境的得失も考慮されなければならないということだ。
汚染水の海洋放出に反対してきた太平洋諸島フォーラム(PIF)専門家パネルのアルジュン・マクジャニ教授(カリフォルニア大学バークレー校)は、先月10日の韓国国会での討論会で「汚染水放出は韓国や太平洋の島しょ国にとって期待しうる利益が0であるため、『GSG-8』を適用すれば正当化条件に違反することになる」と断言した。
このため専門家パネルは、IAEAの放出計画検討基準に「GSG-8」を含めるべきだと主張し続けてきた。専門家パネルと連絡を取ってきたヤン・イ・ウォニョン議員室(共に民主党)によると、IAEAは、「GSG-8」を検討する責任は日本の原子力規制委員会にあるとして、これを拒否している。
IAEAは、福島第一原発の汚染水放出計画の安全性検討結果が記された最終報告書を近く発表する。日本が同報告書を大義名分として来月にバルブを開けば、汚染水は海に流れ込むことになる。放出は正当化されうるのかという問いに何も答えないまま。
訳D.K