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「写真お撮りしましょうか」…空港勤務5年目の「気さくなロボット」がかけた声

登録:2022-12-24 11:58 修正:2022-12-31 08:10
[ハンギョレS]シン・ヒソンのロボット批評 
空港ロボット「エアースター」 
 
マスク勧告や、写真撮影も 
搭乗ゲートや道の案内だけでなく 
「ロボットとの初めての出会い」の経験を提供
タッチスクリーンを通じて情報を伝えるエアースター/聯合ニュース、シン・ヒソン提供

 12日、仁川国際空港第1旅客ターミナル。あちこちに設置されたクリスマスツリーと華やかな装飾が年末の雰囲気を漂わせる。空の道が開かれ、新型コロナウイルス感染症によってしばらく静かだった空港も少しずつ活気を取り戻している。仁川空港ターミナルは、保安検査と出国審査を行う出国ゲートを基準に「ランドサイド」(一般区域)と「エアサイド」(免税区域と搭乗棟)に分かれる。出国を控えた旅客と見送りに来た人たちでにぎわうランドサイドの3階は、空港内で最も忙しいところだ。たくさんの国籍の人々が行き来するここでは、喜びと悲しみ、ときめきとさみしさなど、様々な感情が交差する。

 第1旅客ターミナルのランドサイド3階で、世界で初めて商用化された空港案内ロボット「エアースター」が歩き回るようになって5年になる。360度回転が可能な球形の頭には、両目の形で表情が表示される画面が付いている。頭の下に、27インチのタッチスクリーンがついた長い胴体がつながっている。通常はマスク着用勧告、仁川空港チャットボットサービス紹介などのポスターが表示されているタッチスクリーンは、ユーザーが近寄ったり声をかけたりすると、希望する機能を選択できる画面に切り替わる。エアースターは出国ゲートごとの混雑度や航空会社別の搭乗ゲートを教えてくれたり、目的地まで案内したりもする。空港を背景に記念写真を撮り、携帯メールや電子メールで送信してくれる機能もある。

「航空会社の前までご案内します」

 エアースターは1日2回働く。午前7時から11時30分まで働き、午後2時から2回目の業務を始める。2時ちょうど、充電中だったロボットが目を開けて女性の声の機械音を発する。「こんにちは。私の名前はエアースターです。お手伝いが必要であれば『エアースター』と呼んでください」。仕事を終える午後6時まで、エアースターはランドサイド3階の2番出入口の前をぐるぐる回りながら、あらかじめ入力されたいくつかのフレーズを韓国語と英語で繰り返す。「航空会社の情報をいただければ位置をご案内します」、「わあ、今日はとっても素敵ですね。写真を一枚お撮りしましょうか?」というように、大抵は好意的な内容だ。ロボットに関心を示すのは主に子どもたちだ。子どもたちはロボットを追い回したり、ロボットの前を塞いで手を振りながら交流を試みる。しかし、子どもたちの前ではエアースターの好意は大抵意味がなくなってしまう。韓国語と英語がわからない子どもたちにとって、ロボットの言葉は意味のない機械音に過ぎず、ロボットにとっては目の前で速く動く物体は避けなければならない障害物に過ぎないためだ。

 エアースターを見るためにわざわざ2番出入口まで訪れる人は多くない。ランドサイド3階に来る人のほとんどは、行く場所とやるべきことがはっきりしている。出国前に搭乗手続きをして荷物を送る。両替をしたり保険に加入したり、非常薬を買ったりもする。まとめきれなかった荷物をまた整理し直す人もいる。家族、恋人、友達と別れの挨拶もしなければならない。2番出入口の前を通る人たちも同じだ。それぞれやることで忙しい人たちは、たまにロボットに目を向ける程度。時折、ロボットに興味を持った人たちが近づいてきて、タッチスクリーンのボタンをあれこれ押してみるだけだ。12日午後の勤務時間中、エアースターが行ったのはたった3回の道案内と、数回の写真撮影。その場を歩き回りながら虚空にフレーズを吐き出し、残りの時間を過ごした。

 エアースターは、案内員の役割をきちんと果たしているとは言いがたい。ロボットが提供する情報は、すでに空港に数カ所設置されたデジタル案内板で探すことができる。エアースターはむしろ「動くキオスク(無人端末機)」に近い。何でも聞ける人間の案内員とは異なり、エアースターは利用客が質問する前にまず、施設案内、機内搬入禁止物の案内、航空会社案内、写真撮影サービスといったいくつかの選択肢を並べて選ばせる。この中で、ロボットにできないことはない。そもそもロボットが提供できる機能だけを並べてあるからだ。

 その上、空港を訪れるすべての人がデジタル案内板の情報やロボットの機能から助けを得られるわけではない。案内ロボットは、ロボットの言語が理解できなかったり、タッチスクリーンを使用できない人には有用ではない。そのため、私たちは人間の案内員の役割をロボットで縮小したり、代替できると期待してはならない。万が一、エアースターの設置が失敗だったと判断されるとしたら、それはエアースターがリアルタイムでデータを受信できなかったり、前方の障害物を認識できなかったときではなく、一日に数万人訪れる空港が電子案内板とロボットという限られた方法だけで情報を提供するようになるときだ。私たちは案内ロボットの失敗を心配するよりも、助けの必要な誰かが何かを尋ねることのできる対象がロボットしかなくなる状況を恐れなければならない。

「ロボットの効用」を経験する楽しさ

 ならば、エアースターの効用は何だろうか。エアースターはどうやって仁川空港のマスコットになったのだろうか。エアースターの本当の使い道は、ロボットをしばしの時間でも自分のものとして専有することにある。誰でも来ることができるが、長くとどまることなく通過する空港は、ロボットをしばし経験するのに適した場所だ。深い交流よりも、一瞬の娯楽のほうが合うところだ。モンゴルから来た子どもたちが、周囲からの干渉なくロボットに触ったり、抱きしめたりして「いじって」みる。親は子どもとロボットが遊ぶ写真を撮る。インドから来た大人たちが直接道を調べる代わりにロボットに助けを求めてみる。照れくさそうにポーズを取りながらロボットに写真を撮ってもらう。ここで、人とロボットの間にどれだけ深い相互作用が起きたのか、またはロボットが上手に案内できたのかを問い詰めるのは、大して意味がない。ロボットはすでに存在自体で任された仕事をすべて果たしているからだ。「案内ロボット」と名付けられたエアースターの重点は、「案内」ではなく「ロボット」にある。

 午後6時、規定の業務時間が終わると、最後の道案内を終えたエアースターは充電所に復帰する準備をする。「休憩しに行く途中です。移動できるように少しだけ道をあけてください。またお会いしましょう」というフレーズが画面に表示される。通路をわたり悠々と通り過ぎるロボットを、人々が興味深い視線で眺める。案内を求めて引き留める人はいない。BカウンターとCカウンターの間に設置された充電台に到着したロボットは、目を閉じて充電を始める。エアースターは翌朝7時に必ず目を覚まし、2番出入口の前に移動する。そしてランドサイド3階を通り過ぎる人々にロボット体験と楽しさを提供するために仕事を続けていく。

シン・ヒソン|科学技術学研究者

https://www.hani.co.kr/arti/science/science_general/1072964.html韓国語原文入力:2022-12-24 00:47
訳C.M

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