犠牲者が150人以上にのぼる建国以来最悪の圧死事故が起きた「梨泰院(イテウォン)惨事」について、大規模な惨事が発生せざるを得ない条件だったという嘆きの声が上がっている。外国で起きた大規模な圧死事故よりもはるかに死亡者数の規模が大きい今回の事件の要因を分析した。
(1)10万人以上の人出
普段から梨泰院をよく訪れていた人たちにとっても、この日の人出は異例だったという。毎年路上ライブのためにここに来るというKさん(37)は、「車道を占拠して歩くほど人でいっぱいだった。こんなに人が多いのは初めて見た」と話した。
惨事発生直後の30日午前1時頃、梨泰院駅から緑莎坪(ノクサピョン)駅に向かう道は、ハロウィーンの扮装をした人たちで埋め尽くされていた。梨泰院住民のLさんは、「(事故現場は)毎回統制を受けずに多くの人が移動する路地」だと言い、「このような事故がいつか起きるのではと思っていた。観光特区といって毎回このように人が集まって大騒ぎになる」と語った。
15~16日にも梨泰院では「地球村祭り」が開かれ、約100万人が行き来した。ただし、当時は行事を主宰した龍山区役所が道路の統制や安全フェンスの設置、案内スタッフの配置など、管理を行った。警察や区役所などは、(ハロウィーンイベントは)主催が明確な公式行事ではないうえに集会でもないため、安全対策を講じる理由がなかった説明した。
近くのタバコ屋に勤めるキム・ヒョンジュンさん(20)は「地球村祭りではきちんと統制されていたが、今回は警察人員も少なく、統制できていなかった」と話した。ソウル交通公社は惨事当日、梨泰院駅の利用客(乗降を含む)が13万131人だと発表した。これは前日(5万9995人)の2倍を上回る数値だ。 同じ「ハロウィーンが土曜日」だった1年前の利用客(5万9609人)より2.2倍多い。
(2)傾斜した狭い路地
事故現場のハミルトンホテル付近は、T字型の路地になっている。事故はこの三叉路から梨泰院駅に向かう幅3.2メートルの路地で、人が急激に密集したために発生した。大人4人が並ぶといっぱいになるほどだが、当時は10人以上いたという。この路地は三叉路地点から下方向に10メートルまでが急な傾斜になる。
現場の目撃者の証言によると、三叉路で「押せ、押せ」という声が聞こえ、前にいる人たちがその力に押されて将棋倒しになった。現場にいたソン・テッキュさん(27)は、「路地の下の方からは上がってこようとし、後ろからは押したことで、問題が大きくなったようだ。後ろから押す力が強くてバタバタと倒れた」と語った。前の方では「助けて、押さないで」と叫んでいたが力が及ばなかったという。
午後11時30分頃、現場を目撃したチェ・スンファンさん(21)は、「人々に巻き込まれて(ハミルトンホテルの)裏通りのうち大きい路地から梨泰院駅の方に向かっている時、服を脱がされた人たちが運ばれてくるのを見た。とにかく周りが狭くてうるさくて、何が起こったのかおそらくほとんどの人が分からなかったと思う」と語った。
クラブ通りとして知られる梨泰院世界飲食文化通りに設置されたブースが事故に影響を与えた可能性もあるという証言も出てきた。世界飲食文化通りはハミルトンホテルの裏通りだ。梨泰院駅のメイン道路と世界飲食文化通りが人でいっぱいになり、二つの道を結ぶ狭い路地で今回の惨事が発生した。世界飲食文化通りで両方向の人の流れがぶつかり、狭い路地に抜け出すことでボトルネック現象が生じたのだ。そのため、警察や龍山(ヨンサン)区役所が事前に歩行者の動線を統制し一方通行などの措置を取っていたら、惨事を防ぐことができたと指摘されている。
(3)救助の遅れ
被害が大きかった要因の一つは、人の密集により救助が遅れたことだ。土地勘がある事故現場付近の警察も手をつけられない状況だったという。梨泰院交番の幹部級(警部補)警察官は、「消防隊員も入れないのに我々がどうやって進入できるのか。通報は絶えず届いていたがどうしようもなかった」とし、「(交番)前の歩道まで人でいっぱいだった」と述べた。
10万人以上の人が押し寄せた梨泰院路の付近には車も無断駐車しており、事故直後、救急車が進入するのも容易でなかった。消防当局に「人が下敷きになっている」という内容の通報が最初に届けられた時刻は午後10時15分。ハミルトンホテルの向かい側の梨泰院119安全センターの消防ポンプ車と救急車が事故現場に到着したのは6分後の10時21分だったが、人波をかき分けて事故現場に接近し救助活動を始めるまでには相当な時間がかかったという。ゴールデンタイムを逃したわけだ。
状況が収拾できない状態に至ると、消防当局は午後11時13分、消防非常第2段階に対応レベルを上げた。最初の通報から1時間がたっていた。近隣の消防署から出動した救急車も緑莎坪駅から梨泰院駅に向かう路地から進入を試みたが、道路に無断駐車した車のため警察の統制を受けながらようやく移動した。救急車が通れる車線も確保されず、病院に移送する時間も遅れた。
救急車が路地まで来られず、心停止状態になった患者たちが道路の真ん中に放置されていた。現場にいたJさん(30)は、「警察や救急車がなかなか入ってこられなかった。民間人が助けなければならない状況だった」と話した。
U1大学のヨム・ゴヌン教授(警察消防行政学)は、「圧迫によって荷重を受けると、心臓や脳に移動する血流が止まる。ゴールデンタイムは4分だが、この場合直ちに心肺蘇生法(CPR)をしても生かすのが難しい。消防車も入りにくく、事故がさらに大きくなった側面がある。路地も狭く、環境の面でも今回の事故はすべての条件が悪く作用した」と述べた。