韓国国内でもサル痘の地域社会における伝播の遮断が当面の課題として浮上している中、感染者に対する社会的烙印が防疫を阻害するという「新型コロナウイルス感染症の教訓」を今こそ再確認すべきだと指摘する声があがっている。男性の性的マイノリティを感染源と見なす誤った雰囲気のせいで、感染の疑いがある人が早期診断と治療を敬遠してしまうと、防疫にも大きな支障をきたす恐れがあるからだ。
26日現在、疾病管理庁が確認している国内のサル痘患者は、21日にドイツから入国した内国人1人のみ。しかし、新型コロナの入国者防疫措置が緩和されたことで、サル痘が地域社会で広がる可能性も高まっている。サル痘は感染力が低いため、コロナのように「パンデミック」となる可能性は低いものの、最長21日に達する潜伏期を勘案すれば、「静かな拡散」が持続する可能性がある。特に高熱などの簡単に識別しうる症状がなく、発疹部位も目立たないという点を考慮すれば、感染の疑われる人の自発的な届け出と検査が拡散防止の必須の要件となる。
5月7日にイギリスで初めて確認され、欧州やアメリカなどに拡散中のサル痘は、以前から知られていた風土病としてのサル痘とは一部異なる様相を見せている。サル痘はもともと発熱後に顔や手足に発疹ができることが知られているが、最近は発熱のような事前症状がなかったり、生殖器などの見えないところに発疹ができたりもする。また、従来はウイルスに感染した動物や人、ウイルスが付着した物などと接触した時に感染していたが、最近は主に人と人との接触による地域社会での感染のかたちで発生している。
国内の一部のオンラインコミュニティでは、サル痘の感染者には男性の性的マイノリティが多いという情報が共有され、憎悪発言があふれている。現在までのサル痘感染者の大多数が男性であり、初期の集団発症で男性同士の性関係という特定の感染経路が注目されたからだ。
しかし世界保健機関(WHO)は先月、「サル痘は男性と性関係を持つ男性のみに限定されない」とし、「感染者と濃厚接触した人は誰であれ感染の危険性がある」と説明している。国内の専門家たちもやはり、人から人へのサル痘の感染経路が性接触であるという証拠はまだなく、感染初期に偶然にも男性の性的マイノリティのコミュニティで広がった可能性があると見ている。高麗大学安山病院のチェ・ウォンソク教授(感染内科)は「実際に性接触がどれほど危険度を高めるかは疫学調査が必要」とし「性接触という状況自体が濃厚接触なので、男性も女性も感染リスクは変わらないだろう」と述べた。
現在のところ明らかなのは、サル痘ウイルスが人から人へと広がっていること、これを遮断するためには、症状が現れた時には直ちに防疫当局に届け出るという積極的な防疫参加と早期診断および治療が必要だということだけだ。実際に国内初の感染者と感染の疑いのある人も、いずれも自ら届け出たことで検査へとつながっている。
加えて韓国は、2020年5月の梨泰院(イテウォン)のクラブにおけるコロナ感染者発生の際、社会的烙印が感染症遮断の大きな妨害となるという教訓を得ている。当時、梨泰院の特定のクラブが「ゲイクラブ」だとして注目を浴び、防疫と関係のない感染者の性的指向が俎上に載せられた。「性的マイノリティ」という烙印を押されることを恐れたクラブの訪問者が初期検査と調査に応じなかったため、防疫にも支障をきたした。対外経済政策研究院のチャン・ヨンウク副研究委員は「疾病は感染を防ぐことが最も重要だが、疾病を特定のアイデンティティーと結びつけてしまうと、隠れた感染、隠れた伝播が多く起きるだろう」と述べた。
そのため、防疫当局も不要な個人情報の流出を警戒している。22日、国内初のサル痘感染者の発生を発表したブリーフィングで、疾病管理庁は「感染者の個人情報のうち、性別と年齢は公開対象ではない」と釘を刺した。ペク・ギョンラン疾病庁長も9日の懇談会で、「(感染者が)『自分の情報が流出しないか』と心配しないように細心の注意を払いつつ整備する」と強調している。
一方、国際統計サイト「アワー・ワールド・イン・データ」によると、24日(現地時間)現在の全世界のサル痘患者は、47カ国で確認され、総数は4147人。WHOは23日、サル痘の拡散状況を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に指定するかどうかを議論する緊急委員会を開催した。WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は25日、「PHEICには指定しないことを決めた」と語りつつも、「緊急委員会を招集したことそのものが、サル痘の国際的拡散に対する懸念が高まっている状況を反映する」と警告した。