尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領の女性家族部廃止公約の履行のため、省庁の機能を福祉部や教育部など関連省庁に移管・統合する案も取り上げられている。しかし、これは代表的な女性家族部廃止論者だった李明博(イ・ミョンバク)元大統領でさえ事実上失敗した組職改編案であるため、注目を集めている。「実用政府」を掲げた李明博政権が、効率性を理由に再び女性家族部に拡大再編した過程は、新政権に示唆するところが大きいとみられる。
「これからは女性政策の範囲を拡大し、女性を含むすべての国民の生活の質を高めることにも寄与しなければなりません。これらの課題により効果的に対応するために、政府は家族や青少年など女性と密接な関係のある政策は女性部に移管するのが望ましいという意見を検討しています」
2009年11月、韓国女性団体協議会創立50周年記念式で、当時の李明博大統領は、執権発足後1年9カ月間にわたり縮小した「女性部」を、「女性家族部」に再び拡大改編する意向を示した。以前の女性家族部への「原状回復」の方針を初めて表明したのだ。李明博氏が次期大統領時代から固守してきた女性部の廃止・縮小の方針を、結局撤回したのだ。
実用政府も女性部に縮小してから女性家族部に再び拡大
李明博氏は2007年12月の大統領選挙直後、女性家族部の廃止を強く推し進めた。外見上「実用政府」の構想に合わせて大きな省庁中心に政府組職を改編し、省庁間の壁と重複をなくして、政策効率を高めるという趣旨だった。反対は激しかった。女性・労働界が女性家族部の存続を求める署名運動を展開し、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領まで乗り出した。盧大統領は2008年1月28日、記者会見を開き、李次期大統領にこのように聞いた。
「女性部がなぜ生まれ、それがなぜ女性家族部へと拡大改編されたのか、その哲学的根拠は何かを振り返ってみましたか?保育と家庭教育の重要性、家族の価値を生かすために、女性部の業務に統合したのです。女性部では重要に扱っていた業務が福祉部に移管されれば、様々な業務のうちの一つ、場合によっては押し付けられた業務扱いされるのではないでしょうか」
李次期大統領の引き継ぎ委員会時代は、与小野大(野党の大統合民主新党137議席、民主労働党9議席、与党のハンナラ党130議席)の局面だった。李氏は女性家族部から「家族」に関連する業務(青少年、家族)を切り離して保健福祉部に移して「保健福祉家族部」にし、女性家族部は「女性部」に縮小して残すことで妥協した。しかし、こうした変化は「効率」を保障しなかった。大統領府自らがそれを認めたのだ。2009年11月3日、キム・ウンヘ大統領府報道官(現・尹錫悦次期大統領報道担当)は、「家族の解体、少子化、多文化家庭などの懸案に対し、より効率的な対応をするためには、女性部が現在より総合的な家族政策を樹立し、遂行する必要があるという指摘があった」と述べた。ペク・ヒヨン女性部長官(当時)も同年11月23日、国会女性委員会定期会議に出席し、「(現在の職制が)女性政策を確固たるものにするという女性部の目的と、保健福祉家族部で人生の周期を総合的に捉えるという目的、いずれの目的にも不十分であることを両省庁でも痛感した」と述べた。
李明博政権時代、国会女性委員会・女性家族委員会の民主党幹事を務めたキム・サンヒ国会副議長は、本紙に対し「野党ではなく、政府内でまずどうしても(現在の職制で)業務を進めるのは難しいという話が出て、家族と青少年関連業務を再び女性部に移管した」とし、「女性家族部は固有の政策とともに、各省庁のジェンダー平等関連業務を調整する役割まで果たさなければならないが、他省庁の室や局にも及ばない予算900億ウォン(約90億3千万円)の省庁の長官がこの役割を果たせるろ思うか」と述べた。各省庁でも様々な問題が浮き彫りになった。保健福祉家族部は互いに異なる複数の政策を担当することになり、業務が肥大化した一方、女性部は予算や人材、権限が過度に縮小され、政策実行力が低下した。ジェンダーによる機会・地位の格差を国際比較分析するジェンダーギャップ指数(GGI、世界経済フォーラムの「2009年世界ジェンダーギャップ報告書」)でも、韓国は134カ国中115位で、2007年(97位)と2008年(108位)より下落した。
失敗した案を再び使おうとする尹錫悦次期大統領
李明博政権は結局、2010年3月19日に女性部を女性家族部に戻した。与党ハンナラ党のイ・ウンジェ議員が代表発議した政府組織法改正案が国会で議決されたことに伴い、女性部も女性家族部になった。当時の共同発議者が、現在の尹錫悦次期大統領の秘書室長であるチャン・ジェウォン議員(国民の力)だ。家族・青少年政策を切り離してあちこちに移管したことで生じた行政力の損失や、政策の受恵者である市民の混乱に対する政府レベルの謝罪や説明はなかった。
尹錫悦次期大統領の政権引き継ぎ委は、12年前の李明博政権が失敗した案を女性家族部の廃止シナリオの一つとして検討している。家族政策は保健福祉部に、青少年政策は教育部に移管する案だ。「少子化や家族の解体などに女性部が総合的に対応するのが効率的」としていた李明博政権の政策失敗による教訓を覆すやり方だ。
優秀なジェンダー平等推進体制を備えたと評価されるドイツの場合、家族、青少年、女性政策を「連邦家族・高齢者・女性・青少年省」が総合的に担当している。「人口減少や高齢化、社会構成員の多元化、家族形態の多様化、子どもの保育問題、女性の就業人口の増加、高齢者介護問題などに対する『統合的対応』の必要性が高かったため」だ(「海外女性政策推進体制調査研究」、韓国女性政策研究院・2016)。